「ITを使う」という話
テレワークの普及も相まって、IT人材の不足が、課題になることが多いが、「ITの利活用」ってこういう事だよねという事例を見ることが出来たので、その話をしたいと思います。
はじめに
先週末、地方の中堅製造メーカーからこんな連絡が来ました。
「教えてもらった方法で、社内で勤怠管理のアプリを作ることが出来た。週明けから試験運用を始める予定です。」
1ヶ月ほど前に、その企業からタイムカードをアプリに置き換えたいという話を聞いており、話を聞くと費用面での課題を大きそうでした。具体的には、
● 付き合いのあるベンダーに依頼すると、年間70万円取られる
● クラウドサービスも良いのはわかっているのだけど、それでも高いと思っている
● 給与計算ソフトに入れるところは手作業でOK。これまで、タイムカードの確認をしていた人をやめさせるわけではない
タイムカードを知らない人もいるかも知れないので、一応話すと、非常に単純な機械で、日付の記入してある台紙を専用の機械に挿入すると、その時間が入力される仕組みです。それによって、出勤時間と退勤時間を把握します。
自社でアプリを作った方が安いのではと相談されましたが、メンテナンスや大量の事例から一番よいサービスを開発しているSaaSサービスには勝てないだろうと思い、一度はSaaSサービス(クラウド勤怠)を勧めました。
しかし、やはり費用面が問題だということで、何か手がないかという事になりました。(それくらい、中小企業って金がないんですよね)
考えてみるとタイムカードというのは、基本的には打刻された時間を正確に把握すれば良いだけです。そうであるなら、割と簡単にできるのではないか?NoCodeで作ってみれるのでは無いか?と思い、一旦その日は電話を切って、週末に作業をしてみることにしました。
プロトタイプの開発
ちょうどその頃、Bubbleを触り始めていたので、BubbleとGlideで作ってみることにしました。簡単に紹介するとBubbleはDBの構造などから自分で構築することができるNoCode系サービスです。細かいデータ編集や自由度の高いフロント画面の構築などが可能です。
Glideは基本的にはGoogleスプレッドシートをアプリのように表示することができるようになるサービスで、きれいな画面が簡単に作れることと、データがGoogleスプレッドシートなので、加工も楽なのが特徴です。どちらもいわゆるスマホアプリを作成するのではなく、Web上で動くアプリケーショなので、Webアプリの類になる。スマートフォンで使うときはホーム画面にサービス画面へのリンクをアイコンとしておいておくと、ほぼアプリのように利用することが可能です。
ちなみに、NoCodeとは、プログラミングをしなくても、簡単に色々なサービスや機能を開発することができるツールの総称というところでしょうか。
いずれにせよ、ネイティブアプリの開発者を紹介するよりも、NoCodeツールを利用したほうが更に安上がりに思ったので、とりあえず自分で手を動かしてみようと思い、作業を開始しました。
結果、なんとか一応出来ました。詳細は、以下からどうぞ。
最低限、タイムカードで把握できる出退勤の記録はちゃんと取れるように作成し、資料とアプリのリンクを送り、反応を待つことにしました。
アプリの内製化
2~3日たって、再度連絡があり、なんと
「自分達でもやれそうだから、作ってみるということ」
あわよくば、そのまま作りきって、納品しようか(売ろうか)と思っていたのだけど、内製化してみるという反応で、正直驚きました。
開発メンバーとしては、ホームページの更新などをしていた総務の事務職の方と、実際に給与計算をしていた方の2名が担当するとのことでした。。アプリはGlideを選んだとのこと。
1週間ほど経って、煮詰まっているので、相談したいと担当の方から連絡があり、
● ログイン機能、ユーザー別の情報の表示機能の実装の仕方
● スプレッドシートの構成について
などについて、話しました。
このアプリケーションで重要なのは、退勤を打刻する時にどの出勤に対しての打刻なのかを間違わない事というのは、自分でも作っていて気が付いていました。この点に気が付いて、実装するのが一番、大変だったようです。(普通、出勤→退勤となり、出勤に対して退勤を打刻したくなりがちですが、退勤時にどの出勤かを確定させることで、退勤ログの方に、情報を集約することができます。)
更に、そこから1週間くらい経ち、冒頭の連絡が来ました。流石にこれにはちょっと驚きました。さらに驚いたのは、これまで面倒だった代休・振替休日の振り分けも今回のアプリを使って、自動化させたということ。ダウンロードしたあとのCSVをVBAつかって、給与計算ソフトのデータ形式に自動的に変換することにしたことなども、想像以上に進化したなと驚きました。
いまは、まだ試験運用の段階なので、これからトラブルとかも出てくるのだろうけど、上手くいくことを願っています。
今回気づいた事
今回、気がついたのは、「ITの使い方さえわかれば、中小企業は『やりたい』と思っていることを実現できる」ということです。
以下は中小企業庁が出している「中小企業白書 2018」にある統計です。
ここにある、IT導入を進めようとする際の課題の上位3つを今回は、上手く乗り越えて、導入に至ったと思っています。
これまで多くの中小企業は、限られた経営資源で、IT以外の分野については、自前で課題を解決してきた歴史があります。
例えば、工場での合理化や生産性向上施策などは一番良い例かと思います。日本を代表するメーカーの工場で、土佐の一本釣り用の釣り紐が使われているなんてケースもあるそうです。試行錯誤しながら、課題を解決するノウハウや、発想力は既に多くの中小企業は持っているのだと思います。
けどITだけは、これまで全くの畑違いということで、ITベンダーにお願いするだけでした。しかし、今回の例のように、課題を設定して、それを解決できるだけの「道具」を渡すことで、当初想定していた以上の成果が生まれることもあるのだと、気付かされました。
同時に、DXってこういう事なんだろうなと感じました。「ITを武器として、道具として使う」。ITは魔術師が後方から適当なタイミングでかけくれる魔法ではなく、自分の手で握りしめて、敵(=課題)をぶん殴るための剣であるというイメージをどれくらい持てるかなのではと思いました。
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