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『異世界スカウトマン~お望みのパーティーメンバー見つけます~』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「ふむ……」
 会場に着いたリュートが周囲を見回す。
「リュートさん!」
 イオナが声をかける。
「なんだ?」
「前の方の席を確保出来ました! 早く来て下さい!」
 イオナが前方を指差す。リュートが苦笑する。
「……いいよ、別にこの辺で」
 リュートが適当に腰を下ろす。
「い、良いんですか? 試合が見づらくないですか?」
「眼鏡はかけている」
 リュートが眼鏡をクイっと上げる。
「い、いや、もっと近くで見た方が良いんじゃないですか?」
「何故?」
「戦いぶりがより分かるんじゃないかと……」
「剣技の巧拙などはここからでも分かるさ」
「選手の息遣いをよりリアルに感じられますよ?」
「そんなものを感じたくはない」
 リュートが首を振る。
「選手の汗が飛んできますよ!」
「そんなもので喜ぶ性癖は持ち合わせていない」
 リュートがさらに首を振る。
「むう……」
「別に仲良く並んで見ることもない、君は前で見ればいいさ」
 リュートが前方を指し示す。
「いや、いいです!」
 イオナがリュートの隣にドカッと座る。
「?」
「ここで勉強させて頂きます!」
「何を?」
「な、何をって……どういった所に着目されるのかということをです!」
「ふっ……」
 リュートが笑みを浮かべながら頬杖をつく。
「何ですか? ちょっと馬鹿にしていません?」
「だいぶ馬鹿にしているよ」
「だ、だいぶ⁉」
「ああ」
「な、何かおかしなことを言いました?」
「……目だ」
 リュートが自らの目を指差す。
「目?」
「ああ、視覚に頼っているようではいけない」
「いや、上手い下手は目で見ないと分からないじゃないですか」
「そんなことはない」
「ええ?」
「優れた剣士かどうかは……五感で感じるんだ」
「ご、五感で?」
「ああ」
「い、意味が分かりかねます……」
「戦いの場において、剣士や戦士たちは常に五感をフルで働かせている……それがきちんと出来ているかどうかを感じ取るには、こちらも五感を働かせなければならない」
「……た、例えば?」
 リュートは自らの耳を指差す。
「音で判断する」
「音?」
 イオナが首を捻る。
「そうだ、良い剣士というのは、その振るう剣からキンキンキンキンキン!という音がするものだ」
「嘘だ!」
 イオナが声を上げる。
「嘘ではないさ」
「剣が当たれば、それは音が鳴るでしょう!」
「よく剣が振れているという証拠だ」
「そんな当たり前のことで判断するんですか?」
当たり前のことが出来ていない奴は意外と多いぜ
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「後は匂いだな」
 リュートが自らの鼻を撫でる。
「匂い?」
「ああ、強者特有の匂いというものがある……」
「ほ、本当ですか? どういう匂いですか?」
「……汗臭い感じだな
「それは汗でしょう!」
「分かっていないな」
「ええ?」
「強者は常に鍛錬を怠らないし、体を絶えず動かしている……そういうところからしか醸し出されない匂いというものがあるんだよ」
「ふ、ふむ……」
「後は……味だ」
 リュートは自らの舌を指差す。イオナが戸惑う。
「な、舐めるんですか?」
「言葉の綾だ……強者ほど味のある戦いをする
「はあ……」
「最後は肌だな」
 リュートは自らの腕をさする。
「肌?」
「そうだ、強者になればなるほど、ひりつくような緊張感を周囲に放つ
「……からかっているでしょう?」
 イオナが冷ややかな視線を向ける。リュートが笑う。
「ふっ、遅くとも味の時点で気付きたまえよ
「やっぱり! 真面目に話して下さいよ」
「……こればかりは場数だ。より多くの試合を見なければならない」
 リュートが真面目な顔つきで話す。
「そ、そうですか……」
 出場選手たちが会場に姿を現す。
「そろそろ始まるな……注目選手は?」
「へ?」
「へ?じゃない。さっき熱心に聞き込みしていたじゃないか」
「あ、ああ、はい……えっと……あの大柄な禿頭の男性がガルベス選手。力強い剣は『豪剣』と謳われているそうです。その近くにいる小柄な男性がスアレス選手。その目にも止まらぬ剣速から『激剣』と呼ばれているそうです。そのまた近くにいる女性にしては長身の方がマルシア選手。卓越した剣技の持ち主で、『魔剣』と恐れられているそうです。そのまた近くにいる中肉中背の男性がゴンザレス選手。『秘剣』と称されており……」
「分かった、もういい……」
「まだまだいますよ、『猛剣』、『天剣』、『獣剣』……」
「剣を付ければ良いってもんじゃないだろう……その辺が優勝候補か?」
「ええ……でも意外ですね、そういう情報は一切入れないと思ったのに……」
「一応の判断材料にはするさ……あの痩せた青年は?」
 リュートは防具をつけていない男性を指差す。
「え? あの男性ですか? えっと、あの方に関しては特に……」
「あの青年……優勝するぞ」
「ええっ?」
「ディナーを賭けても良いぜ」
「そ、そうですか? じゃあ私は『覇剣』のフェルナンデス選手を推します」
「決まったな。どうなるか見てみよう」
 大会は進み、痩せた青年と、ややぽっちゃりとした女騎士が決勝に進出した。
「ま、まさか……ダークホース同士の決勝戦になるとは……」
 イオナが唖然とする。決勝戦はぽっちゃり女騎士がその体型に似合わず、素早く多彩な攻撃を仕掛けるも、それを軽くいなした青年がたった一度の反撃で女騎士を倒し、優勝した。
「……控室に行くぞ」
「あ、は、はい……!」
 リュートたちは出場者控室へと向かう。
「お疲れのところ、失礼……」
「!」
 控室にリュートが入ると、注目が集まる。
「お、おい、あれは……」
「ああ、伝説のスカウトマン、リュートだ……」
「本物か?」
「マジかよ、初めて見た……」
「誰をスカウトに来たんだ?」
 控室がざわつく。
「すごい有名ですね……」
「ミイラ取りがミイラになってしまってはしょうがない……」
 イオナが感心する横でリュートが苦笑する。
「お目当ての方は?」
「いないな、控室に戻ったはずだが……」
 リュートが周囲を見回しながら歩く。
「おい、リュートさんよ」
「ん?」
 リュートが振り返ると、そこには大柄で禿頭の男性がいた。
「今回は不覚を取ったが……俺の剣は役に立つはずだぜ?」
「『豪剣』のガルベス……残念ながら君に用はない」
「なっ!」
「あまりにも力任せだ……技の後に隙が出来やすいのを改善した方が良い」
「むう……」
 ガルベスが黙る。
「なるほど、俺がお目当てってことだな?」
 小柄な男性がリュートに話しかける。
「『激剣』のスアレス……君にも用はない」
「んなっ!」
「剣速は大したものだが、一撃がどうも軽い……一撃必殺の心構えが欲しいな」
「ぬう……」
 スアレスも黙る。
「はは~ん、っていうことはアタシにお誘いだね?」
 長身の女性がリュートに話しかける。
「『魔剣』のマルシア……飲みの席なら喜んでお誘いしたけど、君でもない」
「なに?」
「剣技は見事だったが、それに溺れてしまっている」
「うぬ……」
 マルシアも黙る。
「ふっ、僕の才能は隠し切れないようだね……」
 中肉中背の男性がリュートに話しかける。
「『秘剣』のゴンザレス、手の内を隠し過ぎだ……主役気取りはいらん」
「なにっ⁉」
 ゴンザレスが愕然とする。
「自分の……」
「『猛剣』、言うほど猛っていなかったぞ」
「ぬっ⁉」
「私の……」
「『天剣』、ぴょんぴょん跳ねていただけだったな」
「うっ⁉」
「ワイの……」
「『獣剣』、荒々しいのではなく、ただ粗いだけだ」
「むっ⁉」
 話しかけてきた者たちに対し、リュートがシンプルに講評を伝える。
「……ふん」
「ん?」
 がっしりとした肉体の男性がリュートの前に立ちはだかる。
「やはり、わたくしに惹かれたか……」
「……誰だ?」
 リュートが首を傾げる。
「なっ⁉」
 男性が愕然とする。イオナが慌てる。
「リュ、リュートさん! 『覇剣』のフェルナンデス選手ですよ!」
「ああ……」
 リュートが思い出したかのように頷く。
「ふ、ふん、どうだったかな?」
 フェルナンデスは髪をかき上げながら問う。
「……正直、一番期待外れだったな」
「なぬっ⁉」
「リュートさん! なんてことを!」
「思ったことを伝えたまでだ」
「も、もっとこう、オブラートに包んで……」
「それで鍛錬を怠り、実際の戦闘で怪我したり、命を落としたりしたら最悪だろう……自身の現状としっかり向き合うことが大事だ
「そ、それは……」
「まあ、あまり気にするな、評判倒れというのはよくある話だ……」
 リュートはフェルナンデスの肩をポンポンと叩き、通り過ぎる。
「ひょ、評判倒れ……」
「だ、だから言い過ぎでは⁉」
ストレートに言った方が誠実だと思うがね
 リュートが痩身の青年の前に立つ。
「優勝おめでとう。見事な戦いぶりだったよ」
「……どうもありがとうございます」
 座っていた青年は立ち上がって頭を下げる。
「聞きたいことがあるのだが……師匠は?」
「祖父ですが、俺が子供のころに亡くなったので、そこから約十年はほぼ独学です」
「ふむ……大会に出るのは初めてかい?」
「はい、なにせ田舎者ですから……試合もほぼ初めてです……」
「自分の優勝という結果はどう思う?」
「マグレなんじゃないかと……」
「分かった……アーヴさん」
「は、はい⁉」
 リュートは青年の近くにいたぽっちゃり女騎士に声をかける。
「準優勝おめでとう。惜しかったね。しかし大健闘だ」
「あ、ありがとうございます……でもまだまだです。力も速さも技も……」
「そうか……君をパーティーメンバーにスカウトしたいのだがどうかな?」
「ええっ⁉」
 リュートの申し出にアーヴが驚く。イオナが慌てて尋ねる。
「こ、こちらの彼を誘う流れじゃないんですか⁉」
己の強さをはっきりと自覚していない者は伸び代がない。その点彼女はしっかりと自己を省みることが出来ている……。どうだいアーヴさん、今の勤め先より金払いは良いぜ?」
「お、お願いします……」
「決まりだな」
 頭を下げるアーヴを見て、リュートが笑みを浮かべる。

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