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『ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~ 』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「よう」
 北陸の地を南西に進む新幹線の車中で、色眼鏡をかけた大柄な男性が、目を閉じていた痩身の、伊達眼鏡をかけた男性に声をかける。
「……」
「おっはー」
 大柄な男性は両手をパッと広げておどける。瘦身の男性は不機嫌そうにシートから半身を起こし、声を上げる。
「……車掌、迷惑客がいる」
「迷惑客扱いすんな」
「どう見ても迷惑客だろう……」
 痩身の男性は大柄な男性を見つめる。白いつなぎには、よく分からない色が所々付着しており、必要以上にはだけた胸元からは金色のネックレスがぶら下がっている。極めつけはその真っ赤に染まったリーゼントスタイルの頭だ。乗車マナーを遵守するような人間には見えない。
「人を見かけで判断するのは良くないぜ」
 大柄な男性は右手の人差し指を立てて左右に振る。その仕草もまた瘦身の男性の気に障る。
「おっしゃる通りだが、実際に貴様は他人に迷惑をかけている……よって、説得力がない」
「ん?」
「私の睡眠を邪魔した」
「どうせ仮眠だろう?」
「体を休める貴重な時間だ」
「いいじゃねえか、起きたんだし」
「起こされたのだ」
「ちょっと話そうや」
 大柄な男性が瘦身の男性の隣に座る。瘦身の男性が顔をしかめる。
「隣に座るな。乗車券を所有しているだろう? 券に記された番号の席に座れ」
「こんだけ空いてんだから良いじゃねえか」
 大柄な男性がわざとらしく両手を広げる。
「空いていたから良いとはならん」
「真面目だねえ……」
「真面目ぶっているつもりはない。これが普通だ」
 痩身の男性がズレた眼鏡をクイっと上げる。
「移動時くらい脱げば良いんじゃねえか、その服?」
 大柄な男性が瘦身の男性を指差す。瘦身の男性は真っ白な軍服を折り目正しく着用している。
「これが正装だ」
「堅いね~もっと柔軟に行けよ、俺みたいにさ」
「貴様は柔軟と奔放を履き違えている」
「どういうところが?」
「無駄話をするつもりはない……」
 瘦身の男性は広げていたテーブルに置いていた文庫本を手に取る。大柄な男性が珍しいものを見たかのような表情になる。
「今時、紙の本? このご時世、普通は電子書籍だろうが」
「……このご時世と言っても、特にこの地域においては古いもの、新しいものはあまり意味がないだろう……」
「それはそうかもな……しかし、しおりまで挟んで」
 大柄な男性が文庫本に挟んであったしおりを、ひょいと引き抜く。
「ああっ⁉」
「そんなに騒ぐなよ、他のお客様のご迷惑になるぞ?」
 大柄な男性がいたずらっぽい笑みを浮かべながら、口元に指を当てる。指にはこれでもかとばかりに指輪がついている。
「どこから読むか分からなくなるだろう……!」
「そんなこと大体覚えているだろうが」
「前回読んだときの続きへスムーズに移行したいのだ!」
「細かいねえ~」
「返せ! まったく……」
 瘦身の男性がしおりを取り返し、ぶつぶつ言いながら本に挟む。
「それじゃあよ、軍人らしい話をしようぜ……俺の部隊は『あの地』を制圧しつつある」
「報告は受けている……」
「それでよ、制圧が完了した暁には……この『北陸甲信越州』の州都を長野に移そうと提案するつもりだ。賛同してくれよ」
「賛同しかねる」
「なんで?」
「理由は二つ」
 瘦身の男性は右手の指を二本立てる。大柄な男性が首を傾げる。
「?」
「まず一つは、長野は『あの地』に近すぎる……」
「新潟や山梨と連携を密にするには、長野は地理的にもベストだろう」
「貴様の地元だというのも気に入らん」
「それが二つ目の理由かよ」
「違う、もう一つは……私は別の考えを提案するつもりだからだ」
「別の考え?」
「ああ、金沢への再遷都だ。今の州都はやはり西に寄り過ぎているからな」
「却下だな~」
「なに?」
「金沢に戻すっていうのは、後ろ向きだ。もっと前向きに考えるべきだぜ」
「貴様の考えは前向きではなく、前のめりというものだ」
「お前さんの地元に『あの方』をお招きしたいという下心丸出しの考えよりはマシだぜ」
「そ、そんなつもりではない! 本来の州都に戻した方が何かと安定する!」
「内外へのアピールも大事なんだよ、分かるだろう?」
 大柄な男性が自分の頭を指差す。
「貴様のそれは単なる悪目立ちだ」
「人のこと言えんのか?」
 大柄な男性が瘦身の男性のやや黄色い髪を指先でつまむ。瘦身の男性が振り払う。
「生まれつきそういう髪色なのだ! む……」
 新幹線が停車する。大柄な男性が席を立つ。
「着いたぜ」
「まったく……」
 男性たちがホームから改札を抜け、駅の外に出る。
「……お待ちしていました」
 ヨレヨレの白衣に身を包んだ、丸眼鏡をかけた小柄な男性が二人を出迎える。
「わざわざお迎えとは……」
「急ぎの用ですので……それぞれこちらに乗って下さい」
「おおっ……」
 白衣の男性が指し示した先には、全長4~5メートルの二足歩行の恐竜が数頭いた。
福井県福井市、『竜京(りゅうきょう)』名物、恐竜バイクです……」
「しかし……今更ながら異様な光景だな」
 瘦身の男性は恐竜たちが平然と歩きまわる、竜京の町並みを見て呟く。
「気候変動などの様々な要因が重なり、この北陸地方を中心に恐竜が“復活”しました」
「様々な要因っていうのは?」
 小柄な男性に大柄な男性が尋ねる。小柄な男性はボサボサの青みがかった髪を撫でまわしながら答える。
「う~ん……それが分からないのです……」
「なんだよそれ、その白衣は飾りか?」
「衣服で謎が分かれば喜んでレオタードだって着ますよ」
「見たかねえよ、お前さんのレオタードなんか」
「研究は進めています」
「金の無駄遣いと言われているぜ?」
「研究にはお金がつきものです」
「目に見える結果を出してもらわねえと、こちとら戦費調達にも苦労してんだ」
「戦線をいたずらに拡大させすぎなのでは?」
「『あの方』に申し上げろよ」
「言って聞いてくれるような方ではありません……」
「分かってんじゃねえか」
 大柄な男性がくくっと笑う。小柄な男性が頭を抑える。
「頭が痛くなります……」
 瘦身の男性が口を開く。
「とはいえ、あの方がいなければ、我々は他の道州の侵攻によってあっけなく蹂躙されていただろう」
「ええ……」
「元々、十の道州の中でも最弱と言われていた『北信越州』……さらに新潟県と長野県を奪われ、北陸三県のみの『北陸道』になった時、皆が最悪の未来を想定した。あの方の登場により、我々は活力を取り戻した」
「色々な意味でな」
 大柄な男性が笑みを浮かべながら呟く。瘦身の男性は無視する。
「……あの圧倒的なカリスマ性と行動力、決断力、そしてなにより強さに引っ張られ、我々はまた立ち上がることが出来た」
「あと美貌な」
 大柄な男性が一言付け加えてくるが、瘦身の男性はまたも無視する。
「我々は新潟県と長野県を取り戻し、さらに山梨県を併合、新たに『北陸甲信越州』となった! それも全てあの方のお陰!」
「それは分かっています」
 小柄な男性が頷く。
「もちろん、突如としてこの地上に復活した恐竜たちを手なずけ、調教、さらに大量繁殖させることが出来たのは、研究者諸君の不断の努力があってこそだ」
「ご理解いただけて嬉しいです……」
「我々は強力無比な生物兵器を多数手に入れた。あの方とこれらの恐竜たちがいれば恐れるものはなにもない!」
 瘦身の男性が力強く拳を握りしめる。大柄な男性が口を開く。
「……とは言っても、油断大敵だぜ?」
「もちろん分かっている。決意を示したまでだ」
「なら良いんだけどよ……」
「……貴様、『あの地』で何を見た?」
「報告は受けているんだろう?」
「データだけでは分からないこともある」
「そうか……まあ、それについては遅かれ早かれ知ることになると思うぜ」
「?」
 瘦身の男性が首を傾げる。小柄な男性が呟く。
「……着きました」
 男性たちは竜京の中心部から少し離れた巨大な施設に到着する。男性たちは恐竜から降りると、その施設に入る。大柄な男性が周囲を見回す。
「はあ~ご立派な施設で……」
「それで? 急ぎの用とは?」
「それは……僕の研究室についてからお話ししましょう」
「ははっ、焦らすね~」
 大柄な男性が笑う。
「……こちらです」
 施設の奥の方まで入り、小柄な男性がある部屋を指し示す。
「うむ」
「どうぞ」
「失礼する」
「お邪魔しま~す」
 男性たちが部屋に入る。
「おう、来たか!」
「なっ⁉」
「元気そうだな、お前ら!」
 広い部屋の中心に立っていた金髪碧眼の女性が振り返る。動物の毛皮で出来た茶色系統のビキニを纏っただけの極めて露出度が高い恰好である。振り返った際に、セミロングの髪がなびくと同時にその豊満な肉体が揺れる。瘦身の男性は慌てて視線を逸らしながら、小柄な男性に耳打ちする。
「か、閣下がおられるなら、それを早く言え!」
「い、いや、僕も知りませんでしたよ!」
 小柄な男性が言い返す。大柄な男性がもみ手をする。
「いや~閣下におかれましては本日も美しく……」
「おう、『イロ』! 今回の活躍も聞いているぜ!」
「ありがたき幸せです……」
「ふむ……」
 イロと呼ばれた大柄な男性が頭を下げる。女性がそこにつかつかと近づき、イロの顎をクイっと上げる。
「!」
「良い色のレンズだな、似合っているぜ……」
「ありがとうごさいます!」
「『ダテ』!」
「は、はい!」
「う~ん……」
 女性がずかずかと近づいてくる。ダテと呼ばれた痩身の男性は思わず後ずさりして、壁際まで追い込まれる。女性はダテの顔の真横の壁にドンと手を置く。
「‼」
「相変わらず良いフレームだな……センスを感じるぜ」
「あ、ありがとうございます……」
「『マル』!」
「あ、はい!」
「ふ~ん……」
 女性は小柄な男性に近づき、頭をポンポンとする。マルと呼ばれた小柄な男性は驚く。
「⁉」
「レンズの縁の色変えたな、かわいいぜ……」
「ど、どうもありがとうございます……」
「さてと……実験とやらを始めろ!」
 女性が高々と右腕を掲げる。


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