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ソフトウェアに権限委任する法律/ルール。21世紀に書き換えられるルールの脆弱性。

当然であるが、法律はソフトウェア誕生以前から制定され、時代の課題に則したルールをその当時の立法府/行政機関が練り上げて文書化した。我が国の憲法は未だに変わっていないが、制定、廃止、改変などを繰り返し、時代に則した改正を積み重ねながらより良い社会へと発展していく。

ソフトウェア誕生後の現行法との衝突

近年は高度なソフトウェア/アプリケーションの出現により、現行法の規制との衝突の瞬間を迎えている。Uber、Grabといったライドシェアは道路運送法の特別法との関連性も去る事ながら、既存の労働規制に属するべきかが世界中で議論され、今尚定説が定まっていない。

優れたソフトウェアはギグエコノミー/フリーランサーといった新しい働き方を生み出し、従来の会社に1社のみ属する形態以外の労働がどのように規制/税制でデザインされるべきか議論されている。

ドローンや自動運転車といった技術分野も高齢者社会、地方の過疎化を解決する有望なテクノロジーである一方で、技術検証や軍事転換への懸念など、新しくルールを制定しない事にはホビー領域を超えた社会への本格実装は難しい。

大規模言語モデル/生成AIも個人情報保護、著作権法との衝突を現在、深刻なシチュエーションを迎えている。現代に生きる法律家の重要な仕事であろう。本稿ではソフトウェアと現行法との衝突は議論しない。更に時代が進んだ際の法律/ルールの在り方について一考したい。

法律からソフトウェアへの権限委任/移譲

近未来に大きな議論を呼ぶものは、法律が国全体の統治を一律で中央統治する制御モデル自体が近未来の社会に適合し得るのかにあると考える。

法律、政令、命令といった現在の制御モデルは、国の統治権が及ぶ国単位、あるいは条例での地方公共団体単位での一律の制御を前提としている。個々人や(地方公共団体単位でなく、区画毎などより最小単位での)地域性によって事情は異なることは承知で、一律に規制が及ぼされる。

例えば賭博規制は、国民の射幸心を助長し社会の風俗を害するとされ、競馬等を除き一律で禁止されているが、預貯金100万円の者が50万円を賭博に充てるのと、預貯金10億円の者が1万円麻雀などの賭博に充てるのでは法律の趣旨からして(あるいは社会的学的に見ても)実態では意味が異なる。それらの国民個々人の環境や個別事情は考慮に入れず、一律に判定される。

同じく道路での速度制限なども基本的には同様の制御がなされる。同一の高速道路で、ほとんど交通量がなく事故可能性がない時間と、交通量が多く時間帯比較で事故可能性が高い時間でも、同様の速度制限が課される。

衛星やセンサー技術の発展から交通量の正確な把握が可能であり、交通量に応じて適切な速度制限を設定することは可能になる時代において、どこまで一律な制御が適切かは議論されて然るべきである。

一律の設定ではなく、時間帯や需要に応じて個別に設定を変更させる事例として「ダイナミックプライシング」の導入事例が後を絶たない。まずは民間事業者によるアミューズメントパークやホテル経営において需要の高まる時期に価格帯を値上げするような事例が先行し、高速道路などでも導入が始まっている。

この一律でないダイナミックプライシングは、ソフトウェアを駆使する事により適切な需給予測が実現できたからに他ならない。

時間帯や需給の時期により予測ができれば、あまねく一律の対応よりも適切な需給調整が可能となる。需要が高まる時期に値段を上げることで、結果として需要が低い時期に安価な値段で提供もでき、個別のユーザーにとって見れば妥当性高く利便性高いサービスを享受することができる。

規制もまた、ソフトウェアによって一定の塊りとなる個別事情(例えば地域性や資産性などの法律の趣旨への適合判定)をどの程度斟酌するか議論されて然るべきであろう。実際に、税制に関しては個別事情を一定斟酌し国民の資産性等に応じた適切な税分配を実現できている。

実現可能なモデルは、まずは交通規制であろう。自動運転社会、ドローンの社会実装/普及と共に、速度制限、高さ制限、移動範囲制限などの議論が加速されていく。

自動運転車やドローンは必然ソフトウェアにより技術制御されるため、現時点でのエリアによる速度制限ではなく、周囲の状況に応じた速度制限や一時停止などもソフトウェアにより制御可能となる。地域単位での安全性、移動の生産性に基づきルール側を柔軟に設定することができる。ルール側がソフトウェアの発展度合いにより、権限委任するモデルである。

補助金の効率的な分配、税制の設計など、ソフトウェアにより現行法よりも柔軟な設計が可能になることも多いであろう。その際、法律は年単位での国会による改正ではなく、一定の範囲でソフトウェアへの委任をし、ソフトウェア側で事情を斟酌すること自体を国会により可決することも考えられる。

無論国民感情として個別斟酌された規制は分断を招きかねない。様々な見地から議論がされるべきである。ただ、ソフトウェアによる効率的な規制論は近い未来、避けて通れない。現代と未来における法律家の大きな仕事となる。

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