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GTM戦略、2022年備忘録。The Model 0(ザモデル・ゼロ)。

外資系SaaSで戦略の一丁目一番地のGo-to-Marketing(GTM)戦略について日本だとあまり語られていない。リソースマネジメントのThe Modelが普及し適切なチャネル投資判断のアロケーションは進んでいるが、GTM Strategyについては世間的にノウハウが伝播されておらず習得に苦労した。

The Modelのリソースマネジメント

The Modelはほぼ全てのSaaS企業に伝搬した。グローバルサービスである単一製品をエンタープライズ企業からSOHO/個人事業主に至るまで販売することが可能となり、自社製品をどのターゲティングセグメントに販売するかの投資戦略のためにThe Modelは生まれた。

基本的にリソースマネジメント、投資アロケーションの為のフレームワークがThe Modelである。実際には以下のような可視化がなされる。

従業員規模/業種や、マーケティングリソース毎でも管理される(数字は適当に入れたもの)

LTVが高いセグメントであれば商談化率・受注率が低く、CACが高くなるセグメントも投資回収効率で考えれば正当性が増し、短期的に回収可能なSMBセグメントよりもEBUセグメントへの投資を厚くする必要性が増すことが可視化される。投資効率が良いセグメントへの投資が足りているか、投資効率の悪いセグメントからの投資アロケーションの可視化が可能となる。

しかしながら、多くの国産SaaSスタートアップでは各セグメントへの投資がやり切れておらず本来のCAC算出を正確に導き出すことは困難である。多くの場合、初期のCACは安くつく。とりわけ情報産業(インターネット企業やスタートアップ)からの投資効率は良い。理由は簡単で、イノベーター、アーリーアダプター層が多く、SNSなどのチャネル効率の良いメディアからの獲得ができるからだ。

この初期の段階で偽の(しかしながらその時点では本当の)KPI数字に基づき、ベンチャーキャピタリストにプレゼンをして多少色の付いたバリュエーションで資金調達した後に、成長が失速するSaaSスタートアップをよく見かける。獲得効率の良いアーリーアダプターの情報産業を一周した後の、幅広いチャネル投資判断を行うには幾らかの年月がかかるし、それらの幅広い産業への投資には製品が未熟な場合も多い。

外資系製品のように米国で成熟した製品や機能ラインナップが充実段階でのジャパン・リージョンでのチャネル投資ならさておき、日本での国産スタートアップの場合には常に製品の完成度と組織の成熟度と共にチャネル判断をしなければならない。

国産スタートアップ企業のGo-to-Marketing

多くの国産スタートアップSaaS企業の場合には分業化による各KPI可視化よりも、限定されたリソースの中でGo-to-Marketing Strategyをどのように描くかの優先度が高い。(よく見かけるけども)総花的にマーケティング投資を実行しては投資効率が悪く、とはいえいつまでも投資効率の良いイノベーター層のIT産業からばかり受注していてはスケーラビリティがない。

初期段階のThe Modelは以下のようなことが多く、可視化がわからない中でのスタートアップの初期GTM戦略が問われる。

初期はマーケティングチャネル別の可視化でも同様に有効な検証は困難である

つまり、よくわからない中で事業戦略、営業戦略を立案しなくてはならないのだ。初期段階で満遍なくこれが可視化できているスタートアップは逆に無駄が多すぎるし、プロダクトラインナップに投資せずにマーケティングチャネルの検証に投資するのもそもそも投資バランスが悪い。プロダクトラインナップが揃えばこのチャネルKPIの数値も変動的であるし、その検証に時間を使っている間に競合企業は一点突破でマーケットを突破してくる可能性だってある。

だからThe Modelのフレームワーク自体は有効的ながら、初期のスタートアップ企業の多くは分業制を引く前のThe Model 0(ザモデル・ゼロ)段階でどのような営業戦略、Go-to-Marketing Strategyと描くべきかが重要なのだ。

The Model 0(ザモデル・ゼロ)

Go-to-Marketing Strategyのフレームワークは英語ベースで流通される。当然ながらいくつかの流儀は存在するが、要するにマーケットの中で自社アセットの持つ独自のポジショニングを描き、どのターゲットセグメントに参入していくかという市場戦略である。日本企業でいう、営業戦略と同義である。

https://praxie.com/go-to-market-strategy-online-tools-templates/より、引用

言わずもがな初期段階の営業戦略は、分業化して商談化率を高めることよりも(The Model自体も本来は分業をするというよりリソースマネジメントのため)、ポジショニングとターゲットセグメントの策定が重要である。これは初期のCEOと営業部長の最重要の仕事である。

ある意味で(モメンタムを形成する上で必要最低限の受注数は別の意味で重要なのだが)受注数/受注金額よりも重要であり、間違えたポジショニングの策定よりも「適切なポジショニングを設定しない」のが最も罪深い。間違えたら修正できるが、設定しないことには学びがない。初期のCEOの最重要タスクであろう。

但しこのポジショニングとターゲットセグメントの策定は、顧客との対話なしに策定不可能でありパワーポイントやExcel上で弾き出した物であってはならない。営業部長や日々の営業オペレーションの中に、ポジショニング選定のマネジメントを組み込む必要があるのだ。CEOが机上の空論で選定すればいいものでもない。

私自身、初期のGo-to-Marketing Strategyを組む上で幾つか注意したポイントがある。

■The Model 0 段階の営業戦略
1. 分業化せず、1人に情報を集約させた方がいい
2. 初期のセールスはMake Something People Wantのため
3. 初期のセールスの目標は受注金額よりサービスフィードバック数

クラウドサインの事業を通して学び、強くてニューゲームするならより徹底させたい3つのこと

初期の営業は受注するためでなく、プロダクトの仮説検証、適切なプライシング設定、ターゲットセグメント検証、次のサービスレベル向上の事業開発のために存在する。シリコンバレーの多くの起業家たちがCEO自らカスタマーサポートしたり営業活動を行っているのはこれらが理由だ。目の前の数社を受注するために貴重な時間を時間を投下するので無く、Bussines Developmentのために顧客との対話の時間を過ごす。

この段階で分業化し、CEOが権限移譲して顧客との対話の時間を減らしてはならない。採用した営業もまた受注金額だけでなく、サービスへのフィードバック数を課した方が良い。明日のサービスをよくする、徹底した意思を示す必要があるのだ。

そしてこれはアーリー段階だけではなく、少なくとも売上が年間100億円に到達する前段階においては事業が完成してるとはいえないので継続的に行う必要性がある。この段階では権限移譲し、組織化しなければならないので、営業部長は別のアルゴリズムを実装する必要がある。CEOはコミュニティを実装し、顧客コミュニティのコミッティーの中でサービスレベルを良くするアルゴリズムを実装していく。

話を戻す。そしてわかりやすくする為にクラウドサインで例えよう。

自分自身、クラウドサイン事業を始めて3年間は営業部長を自ら兼任、5年目でもカスタマーサクセス部長を兼任していた。それほどに顧客との時間を重要視し顧客との対話から事業開発に活かしてきた(毎月100名の顧客と対話することを課していた)。

顧客と対話する中で様々な機能要望は出てきたが1番の真の顧客の声は「クラウドサインは良いと思うが、普及していないので取引先に断られてしまうのでどうにかして欲しい」と捉え、これまでぶれず、この課題に真っ直ぐに取り組んできた。

ターゲットセグメントも「契約の風上にいるプレイヤー」と方針を示した。このターゲットセグメントの設定が、結果的に多くの中小企業の皆様にとっても利便性を上げるからである。中小企業の皆様が利用しても「契約の風上にいるプレイヤー」がクラウドサイン化されていなければ、クラウドサインは利用できない。

そしてそれがクラウドサインのMoat(後から参入不可能な競合優位性、参入障壁)に繋がると事業戦略に置き、今尚、同様の戦略を置いている。

クラウドサイン初期に描き、今なお続く事業戦略がMoatに繋がった事例


初期の段階でクラウドサインのGo-to-Marketing Strategyは「契約の風上にいるプレイヤー」と定められたのは、営業シチュエーションによる「Make Something People Want」の泥臭い日々にある。そしてクラウドサインは長らく営業からのフィードバックの数を誇りにしてきた。

本当のMoatは、そういう組織を作れているか、なのでもある。

以上、備忘録。


お読みいただきありがとうございます( ´ ▽ ` )ノ