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看取り人(3)

 頭脳明晰。
 運動神経抜群。

 高校時代の宗介は、まさにその言葉を体現したような存在であった。
 小学校の頃から、いや幼稚園の頃から、いや下手をすると生まれた時から宗介は優秀であった。
 同じ時期に生まれた誰よりも言葉を話すのが早く、歩くのも早かった。幼稚園で出されたカリキュラムは1度説明するだけで理解した。小学校でもテストで90点以下を取るなどの言うことはなく、中学校でもそれは変わらなかった。しかも学業の成績が良いだけでなく、彼は運動神経も卓越しており、中学から始めたバスケットボールでは半年でレギュラーを獲得し、2年生で主将を努め、"お遊びバスケ部"と揶揄されていたバスケ部を県大会4位まで導いた。その時の評価としては宗介レベルがレギュラーに後1人入れば全国大会に行けたとまで言われた程だ。
 天に与えられる才能をギフトと言うが宗介は、まさにそれを体現したものだった。

「嫌な奴ですね」
 そこまで聞いて看取り人は、露骨に眉を顰めた。
「そう思うか?」
 宗介は、面白そうに笑う。
「ええっ絶対に友達になりたくありません」
「それはどうして?」
「あまりにも出来過ぎてます。同じ人間とは思えない。共感出来ない。よほど性格の良い人格者でもなければ嫉妬と嫌悪しか向けられないでしょうね」
 看取り人の言葉に宗介のぼんやりとしていた目が大きく開く。
「素晴らしい・・・」
 宗介の発した言葉に看取り人は、首を傾げる。
「今の話だけでそこまで俺と言う人間を分析出来るなんて・・君は優秀なのだな」
 宗介の称賛の言葉を投げる。
 しかし、看取り人はそれを受け取っても表情を変えず、受け取ったものを捨てるように首を横に振る。
「いえ、僕の成績なんて精々、中の中です。運動も得意ではないです。一応、進学校ですが大学に行けるかも怪しいものです」
「辛辣だな」
 宗介は、笑う。
「自分の事も過大も過小もしないでしっかりと評価出来てる。普通は承認欲求が先に出るものなのに。中々出来ることではない」
 宗介は、小さくため息が出る。
「君のような部下が欲しかったな。いや、友達に欲しかった」
「僕は、嫌ですけどね」
「これから死ぬ人間に遠慮がないな」
 面白い。
 これから死ぬと言うのに本当に面白い。
 神様という奴は最後の最後にこんな面白いギフトをくれた。
 彼になら話してもいい。
 ずっと宗介の中で痛み、眠り、押さえ続けていた感情を。
 宗介は、再び天井を見る。
「君の言う通りだ。おれは確かに頭脳明晰で運動神経抜群だった。しかし、人間として最も大切なものがなかった。品行方正が」

 日本でも有数の進学校に入学した宗介は、そこでも直ぐに頭角を表した。学年テストでは全ての教科で主席、バスケ部でも直ぐにレギュラーを取得した。しかも全国大会常連校のバスケ部で、だ。
 宗介のことは直ぐに学校で名が知られるようになり、多くの生徒が彼を慕って寄り添い、部員達から頼られ、女子生徒の憧れの的となった。
 しかし、それも半年後には食中毒を起こして閑散となった店のように人が寄り付かなくなった。
 彼は、確かに優秀だった。優秀で、傲慢で、協調性がなく、性格が悪かったのだ。
 破滅的なくらいに。

 彼は、自分に寄りそい、慕ってくる生徒たちをこぞって馬鹿にした。
 そんな事も分からないのか?
 そんな事も出来ないのか?
 まるで独裁国の元首のように。
 最初は、彼らも特別優秀な宗介の言う事なのでと笑って流していた。しかし、それが1ヶ月、2ヶ月と続くと当然嫌になってくる。宗介は、特に生徒たちを子分のようにもパシリのようにも扱わない。しかし、もはや一緒にいるのが嫌になるくらい嫌悪感を抱かせた。そして彼の周りには誰も寄りつかなくなった。バスケ部員たちもチームの為だからと宗介とコンタクトを取るようにしているがそれ以上は関わらない。宗介は自身も負けるのを嫌う質なのでチームワークを乱すようなことはしない。しかし、自分よりも下手くそな奴と必要以上に練習を一緒にしようだなんて思わなかった。自分がいれば勝てる。そう思わせればいいと本気で思っていた。
 女子生徒は変わらず宗介について回っていた。
 この年頃の女子はどう言うわけか優秀で少し悪い印象のある男子に惹かれる傾向がある。若い生物としての本能と言うものだろうか?成績トップクラスの集まる進学校の女子生徒たちも多分に漏れなかった。宗介は、寄ってくる女子たちに興味があった訳ではなかった。女子が自分のところに寄ってくるだなんて特に珍しいことでもなかったから。宗介は、近づいてくる女子たちと適当に話し、適当にデートし、そして適当に抱いて、そして適当に別れた。彼女達からすれば宗介と付き合うことが出来たと思ったのにちり紙のように扱われたことにショックを通り越して怒っていたが宗介はまったく応えていなかった。デートしたのも抱いたのもお互いの了承があった上だ。後ろめたいことなど何もない。女子生徒たちもそれが分かっているから何も言えない。友人たちにも相談が出来ない。だから彼の周りにはいつも女子生徒が切れることなくついて回っていた。
 そんな彼に1つの事件が起きた。
 人生で初めて女子に振られたのだ。
 その女子がシーであった。

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