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デュシェンヌ型筋ジストロフィの理解と日常生活における配慮

 私たち支援者がデュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)の理解を深めることで、この病気を持つ子どもたちの学校や放課後の活動がより快適で充実したものとなります。この記事を通して、DMDを持つ子どもたちが日常生活をより楽しめるように、具体的なサポートの方法を学びましょう。


1. デュシェンヌ型筋ジストロフィとは?

1.1 筋力が低下する理由

 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)で筋力低下が生じる理由は、筋肉を丈夫に保つために重要な役割を持つ「ジストロフィン」というタンパク質が作られないことです。
 なぜ「ジストロフィン」を体内で作ることができないかというと、「ジストロフィン」の設計図となる「ジストロフィン遺伝子」に変異が起きているためです。
 「ジストロフィン」が無いと細胞内骨格と基底膜との継がりが遮断されるため筋細胞膜が壊れやすくなります。そのため、DMDでは、筋肉が壊れやすく、徐々に筋力が低下していきます。

1.2 体に存在する3種類の筋肉

 体内に存在する筋肉には骨格筋(手足や肋骨、喉を動かす筋肉)、心筋(心臓の筋肉)、平滑筋(消化管の筋肉)の3種類があります。
 骨格筋の筋力低下は手足を動かすことや姿勢を保持することなどの運動機能障害に加え、呼吸機能障害や嚥下障害、構音障害などを引き起こします。
 心筋には血液を体中に送るポンプとしての機能や心臓を動かす命令(信号)を伝える機能(心伝導機能)があり、障害されると心不全不整脈へと繋がります。
 平滑筋は食物の消化吸収に必要な腸の動きを担っており、平滑筋が障害されると消化管の運動が低下し、便秘腸閉塞などの問題が生じます。

2. デュシェンヌ型筋ジストロフィの自然歴

 DMDでは徐々に筋力が低下してくるため年齢が上がるごとに、様々な運動が行いにくくなります。

2.1 1歳~9歳頃

 1歳前後で歩き始める頃から、運動発達の遅れ特徴的な歩き方や立ち上がり方転びやすさなど、DMDに特徴的な症状が現れてきます。

 3~5歳頃になると運動発達の遅れがさらに目立つようになり、5~6歳頃に運動機能のピークを迎え、今までできていた運動が徐々にできなくなっていきます。

2.2 10代前半頃

 10歳頃(歩行喪失時期)から歩くことが困難になります。個人差はありますが、病気が進みさらに筋肉が弱くなってくると、肺や心臓、胃や腸などの内臓の働きにも影響がみられるようになります。また、関節が硬くなる、背骨が曲がるなどの症状がみられることもあります。

  10代前半頃に上肢の筋力低下に伴う症状も現れるようになり、手を挙げて行う日常の動作(手を上げる、頭を洗う、コップを口元に運ぶ、上着を着る)が難しくなってきます。

2.3 10代後半頃

  10代後半以降には肺を動かす呼吸筋と呼ばれる筋肉が弱くなることで呼吸がしにくくなったり(呼吸器障害)、心臓を動かす筋肉が弱くなることで心臓のポンプ機能が低下したり(心機能障害)することがあります。また、食事を噛んだり飲み込んだりするための筋肉が弱くなることで食べ物が飲み込みにくくなったり(摂食・嚥下障害)、胃や腸を動かす筋肉が弱くなることで便秘が起こりやすくなったりと(消化管障害)、様々な合併症がみられるようになります。

3. デュシェンヌ型筋ジストロフィの治療

 DMDの根本的な治療法はまだありませんが、運動機能の低下に対する治療や合併症に対する治療があります。

3.1 リハビリテーション

 DMDでは運動するための筋力が少しずつ低下していきます。筋力低下によって動きが制限されると関節が硬くなり変形するようになります。そのため、症状の程度に応じて、筋力の維持や関節の変形などを防ぐためのトレーニングやストレッチ、マッサージなどを行います。ただし、筋力を強くすることを目的とした筋力トレーニングは、筋肉を痛めて筋力低下を助長するリスクがあるため勧められません。

 3.2 装具療法

 病気が進行し、歩行が難しくなると背骨が曲がる「側弯症」がみられるようになります。「側弯症」では、座りにくくなったり、呼吸がしにくくなることがあるため、ひどくならないように定期的に体位を調整するなどして同じ姿勢を長時間取らない工夫をしたり、クッションやテーブルの位置を調整をすることで背骨への負荷を和らげるような工夫を行います。必要に応じて整形外科で手術を行うことがあります。

 3.3 ステロイド療法

 ステロイド療法によって筋力の低下スピードを遅らせ、歩行が可能な期間を延長できることが報告されています。また、筋肉が使いづらくなって、関節が硬くなり変形するのを遅らせることも期待できます。一方でステロイド療法には免疫力の低下や食欲の増進などの副作用があります。

 ステロイド療法は、一般的には5~6歳頃になって運動機能がピークに達したころに検討します。

 3.4 合併症に対する治療

 病気が進行して呼吸や心臓機能、摂食・嚥下機能などに関する合併症がみられるようになった場合には、それぞれの合併症に対する対策や治療を行います。

 4. デュシェンヌ型筋ジストロフィのお子さんに必要な日常生活上の配慮

 疲労や筋肉痛が起きない程度であれば、特に日常生活の制限は必要ありません。また、規則正しい生活やバランスのとれた食事を心がけ、体重の変化にも目を配りましょう。定期的に検査やリハビリを続け、運動機能の維持を図ることも大切です。 

4.1 無理のない範囲で動きましょう

 適度な運動は運動機能を維持するためにも大切ですが、過度な運動は病気で弱くなった筋肉を傷める原因になります。疲れや筋肉痛が生じない程度の運動を日常的に行いましょう。

4.2 感染症に注意しましょう

 DMDではステロイド療法を行いますが、ステロイド療法を続けていると薬の作用により免疫力が低下し、風邪などの感染症にかかりやすくなる場合があります。外から帰ってきたら、手洗いやうがいをし、外出するときはマスクを着用するなど、感染症予防の対策を心がけましょう。

4.3 歩行が不安定になったら転ばないように注意しましょう

 ケガをして動けない時期があると、筋肉がさらに弱る原因になってしまいます。歩行が不安定になると、つまずきやすく、転びやすくなるので、家では床にものを置かない、段差をなくすようにするなど、安全な環境づくりを心がけましょう。また、トイレやお風呂への手すりの設置なども必要に応じて検討しましょう。 

4.4 過度な体重の増減に注意しましょう

 成長にともなう適度な体重の増加は問題ありませんが、太りすぎや急激な体重の増加は体を支える筋肉への負担となります。また、急激な体重の減少も、体を作る栄養の不足や、合併症の疑いが考えられるので注意が必要です。普段から栄養バランスのとれた食事を心がけ、お子さんの体重と身長は定期的に記録しておくとよいでしょう。

 ステロイド療法の作用によって、食欲がでるため体重が増加しすぎる場合があります。治療や食事面で心配なことがあれば、専門の医師や医療スタッフに相談するようにしましょう。

まとめ

 デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)は、筋肉を支える重要なタンパク質であるジストロフィンの不足によって引き起こされる遺伝性の進行性筋疾患です。ジストロフィンの不足によって、筋細胞の膜が脆くなり、筋力が低下します。DMDは男児に多く見られます。

 体内には主に骨格筋、心筋、平滑筋の三つの筋肉タイプがあり、DMDはこれら全てに影響を及ぼします。骨格筋の低下は運動能力の低下を引き起こし、心筋の影響は心不全へとつながり、平滑筋の問題は消化機能の障害をもたらします。

 DMDの自然歴は、幼少期の運動発達の遅れから始まり、年齢とともに運動機能が低下していきます。初めは歩行や立ち上がりに問題が見られ、次第に全身の筋力が弱まり、呼吸や心臓の機能にも障害が現れます。特に10代に入ると、上肢の筋力も低下し、日常生活の動作が困難になることが多いです。

 現在、DMDを完治する治療法はありませんが、リハビリテーションや装具療法、ステロイド療法を通じて症状の進行を遅らせることができます。リハビリテーションでは、筋力の維持と関節の動きを良くすることが目的で、過度な負担を避けながら適度な運動が推奨されます。装具療法は、特に歩行が困難になった際に利用され、体の姿勢を支えることで日常生活の質を向上させます。

 DMDの日常生活での配慮としては、無理のない範囲での適度な運動が大切です。また、ステロイド療法を受けている場合は、感染症への抵抗力が低下するため、感染予防の措置を講じることが重要です。歩行が不安定になったら転倒を防ぐための安全な環境作りが求められます。急激な体重の増減に注意し、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。

 このように、DMDは患者とその家族にとって多くの配慮が必要な疾患ですが、適切な治療とケアによりより良い日常を送ることが可能です。

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