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リモートワークや遠隔授業の時代に知っておきたい「データダイエット」

2020年からのコロナ禍で、さまざまな活動のオンライン化が進んだ。教育現場でも授業がオンライン化されたが、そこで提唱されたのが「データダイエット」だ。有限である情報通信回線を、本当に必要とする人々が利用できるように配慮しようというこの取り組みを紹介する。


インターネット回線は有限資源

「データダイエット」とは、オンライン授業において、データ通信量をなるべく小さくするように工夫しようというもの。2020年5月、大学等の遠隔授業に関して議論する団体と専門家有志らによって提唱された。

その目的は、小学校低学年やハンディキャップを抱える人々など、リアルタイムの対面コミュニケーションを特に必要とする人々に支障が出ないようにすること。つまり、思いやりや合理的配慮だ。

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出所:国立情報学研究所CC BY 4.0)

光回線やLTE、5Gといったブロードバンドインフラの整備に関しては世界トップクラスの日本だが、全国規模で皆が一斉に「映像ありの大容量データ通信」を行えば、影響は避けられない。インターネット回線は有限資源なのだ。

実際、リモート授業・ワークが広がったことで、回線速度が低下したという人は多くいた。また、インターネットプロバイダー事業者が、その問題解消のためにIPoE(IP over Ethernet)接続を訴求するといった動きも見られた。

データダイエットへの協力のお願い:遠隔授業を主催される先生方へ(PDF版)」には、「1600万人の生徒・学生が、この世界的な災禍の中でも十分な学習ができるように」と記されているが、教育関係者に限らず企業をはじめとするすべての組織がデータダイエットに取り組むべきだろう。

あなたがリモートワークをしている自宅マンションには、学生も住んでいいて、インターネット回線を共有しているかもしれないのだ。

「必須かどうか」は一概に決められない

データダイエットは、道徳的かつ倫理的であり、ソーシャルグッドな取り組みだ。これを否定する者はほとんどいないだろう。しかし、「情報通信回線を本当に必要とする人々」を一概に決めることは難しい。

大学の授業にも、大教室大人数で行う「どちらかといえば受動的」な授業から少人数で議論を交わすゼミまで、その内容はさまざまだ。後者であれば、画面上であっても相手の表情や息遣いを把握しながら行わなければ、質が低下してしまうだろう。

今回データダイエットを取り上げようと考えたのは、取り組みの重要性はもちろんだが、その一方でちょっとした問題にもなっていることを知ったからだ。ある教員の方によると、データダイエットを実践しようとする大学側からの要請により、データ量の少ない授業方法――資料を事前に配布し、映像はなるべく使わず音声だけ――にしたことで、十分な授業の質を保てなかったというのだ。

データダイエットの提唱側も、もちろんそのことは承知で、あくまでも分かりやすい具体例として「大学生」や「映像無し」と示しているだけであり、本来は個別に判断されるべきものだ。一方、確実な実行にはルール化が効果的で、この教員の方の場合はそれが形骸化してしまったというわけだ。

これからの必須リテラシー&スキルとして

理想は、データダイエットの意識を持ちつつ、自身の使い方を適切に判断できるリテラシーと、それを実践するスキルを身に付けることである。

事前に資料データを配布できるならそうすべきだし、映像と音声を流すにしても常に高品質である必要はないかもしれない。これまでリアルでやっていた授業や会議のプロセスをほんの少し見直したり変更したりするだけで、データ量を大幅に減らせるかもしれない。

技術的な観点では、映像や音声データのサイズや圧縮レベル、背景の工夫、資料スライドの作り方などによってもデータ量を減らせる。定番のオンライン会議ツールには、そういったデータ量を節約するための機能や設定を備えるものも多い。

そのうえで、必要なときには技術の恩恵を十二分に享受することがあってもいいだろう。高度なVR技術や臨場感のある高品質映像を使うことで、学習効果や生産性を高めるのだ。重要なのは、そうすべき場面を適切に判断すること。要はメリハリを付ければいいわけで、これは教育現場でも職場でも同じだ。データダイエットは、強制されてやるのではなく、思いやりから自発的に取り組むほうがいい

突然の一斉オンライン化で、有無を言わさず苦手なデジタルツールの使用を強いられた人は多い。そう考えると、オンラインで授業や会議ができただけマシなのかもしれない。

次は、そこからもう一歩進み、データダイエットをニューノーマルの必須リテラシー&スキルとして身に付けよう。自らいろいろとやるのは面倒かもしれないが、新型コロナウイルス感染症の新規陽性者数が落ち着いてきた今だからこそ、考えておくべきではないだろうか。


文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

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インプレスホールディングスの研究組織であるインプレス・サステナブルラボでは「D for Good!」や「インターネット白書ARCHIVES」の共同運営のほか、年鑑書籍『SDGs白書』と『インターネット白書』の企画編集を行っています。どちらも紙書籍と電子書籍にて好評発売中です。