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国連が「情報の誠実性のためのグローバル原則」を発表、AI普及に伴うオンライン上のリスクへの緊急対応を提言

国連事務総長のアントニオ·グテーレス氏は、6月24日、「情報の誠実性のための国連グローバル原則」を発表した。同氏は、誤情報やヘイトスピーチなど、情報エコシステムに対するリスクが増大し、その拡散がAIの普及によって加速していることを指摘。各国政府やテクノロジー企業、メディアなどの関係者に対し、有害なコンテンツの蔓延と収益化に対する責任を積極的に負うよう要請した。

人権への脅威や気候行動の弱体化にもつながるリスク

今回発表された「情報の誠実性のための国連グローバル原則」は、2023年6月に策定された「デジタル·プラットフォーム上の情報の誠実性に関する報告書」から1年を経て、現在の最も緊急な課題の一つに対処するため、「情報空間をより安全で人道的なものにするための国際行動の協調的な枠組み」として提示されたものだ。

グテーレス氏は「誤情報、偽情報、ヘイトスピーチなどの情報エコシステムに対するリスクは、紛争を煽り、民主主義と人権を脅かし、公衆衛生と気候行動を弱体化させる要因にもなっている」と言及する。さらに「AI技術の普及がこの拡大を加速化させており、子どもをはじめとする『情報空間において標的にされやすい人たちへの脅威』が増大している」と、緊急に対策を講じる必要性を強調した。

“情報の誠実性”の侵害は、平和維持活動や人道支援活動といった国連自身のミッションや活動の妨げにもつながっているとして、国連職員を対象とした調査で「有害な情報によって自身や自身が奉仕するコミュニティが危険にさらされている」との回答が約8割に達したことも述べている。

政府、テクノロジー企業、メディアへ、責任と対策を求め提言

国連グローバル原則は、加盟国、民間セクター、若者のリーダー、メディア、学術界、市民社会との幅広い協議を経て策定された。提言内容は「人権」「平和な社会」「持続可能な未来を擁護する」「より健全かつ安全な情報空間の育成」を意図したものとなっている。

具体的な内容は以下のとおりである。

各国政府、テクノロジー企業、広告主、メディア、その他のステークホルダーは、偽情報やヘイトスピーチの利用、支持、拡散を自粛すべきである。
·各国政府は迅速な情報アクセスを提供するとともに、自由で独立したメディア環境を保証し、ジャーナリストや研究者、市民社会に対する保護を確実なものにすべきである。

テクノロジー企業は、製品設計で安全性とプライバシーを確保し、国や言語を超えて一貫したポリシーと資源を適用すべきである。また、危機対応力を高め、選挙をめぐる情報の誠実性を支援する施策を講じるべきである。

AI開発者は、AIアプリケーションの設計、展開、利用において、安全、責任、倫理、人権を保障するため、緊急かつ即時の、透明性ある施策を講じるべきである。

テクノロジー企業は、プログラマティック広告※に依存せず、人権やプライバシーを優先し、ユーザーがオンライン体験と個人情報を選択·管理できるようにすべきである。

広告主は、テクノロジー業界に対して、故意でなかったとしても広告予算が偽情報や憎悪の資金源となったり、人権を損なったりすることがないよう、デジタル広告のプロセスの透明性を求めるべきである。

テクノロジー企業とAI開発者は透明性を確保し、ユーザーのプライバシーを尊重しつつ研究者や学術界がデータにアクセスできるようにするとともに、公開性のある独立監査を委託し、産業の説明責任に関する枠組みを共同策定すべきである。

各国政府、テクノロジー企業、AI開発者、広告主は、子どもの保護とエンパワーメントのための施策を講じ、政府は保護者や教育者たちにリソースを提供すべきである。

※プログラムを活用し自動で広告枠の購入や配信をする広告のこと。
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出所 https://www.unic.or.jp/news_press/info/50439/

人々が自らの権利を主張できるよう支援する

グテーレス氏は「何十億もの人々が偽りの物語や歪曲、うそにさらされているこの時代において『情報の誠実性のための国連グローバル原則』は、表現および意見の自由に対する権利など人権に強く根差した、今後進むべき確かな道を示すものだ」と述べている。

「情報の誠実性のための国連グローバル原則」は以下から参照できる(英文のみ)。

https://www.un.org/informationintegrity

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

トップ画像:iStock/metamorworks
編集:タテグミ

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