プラスチック代替素材からバイオCO2変換まで――脱炭素社会達成の先駆者を目指すパナソニックが最新環境技術をCES 2024で披露
パナソニックグループは、米国ラスベガスで1月9~12日に開催された「CES 2024」に出展し、「Create Today. Enrich Tomorrow」をテーマに最新の技術と製品を披露した。本稿では、プレス向けカンファレンスの内容から、CO2排出削減やサーキュラーエコノミーなど環境問題を踏まえて同社が取り組む技術開発や、2022年に発表した長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」の進捗などに焦点を当てた。
地球環境問題の解決とより良い暮らしの両立を目指す製品開発
カンファレンスは、パナソニック開発による極微細ミスト「シルキーファインミスト」がステージ上に噴射されるデモンストレーションでスタートした。約6μm粒径でぬれを感じにくいという特徴を持つこの技術は、猛暑の中でのクールスポットや、空間や景観の演出などに活用されている。
このミストの中から登場したパナソニックオペレーショナルエクセレンス執行役員、品質環境担当の上原宏敏氏は「世界が大きな転換期にある今、エネルギー利用における有意義な変化を加速させる必要がある。すぐにでも取り組まなければ悲惨な結果が訪れるだろう」と、地球環境への危機感を示す言葉を第一声として述べた。
続けて「政府が炭素削減への目標を打ち出しているが、その達成に向けては企業が先駆者となり協力していかなければならない。CO2排出量を削減しながら、人々の生活を向上させていく責任もあると考えており、これがこの先10年の私たちが取り組むべき重要な課題と捉えている」「パナソニックのビジョンは、“人々のくらしを豊かにする優れた製品”の提供によって未来に向けた課題解決につなげていくことだ」と、同社のスタンスを説明した。
パナソニックは、このビジョン実現のためのグループ全体の取り組みとして「Sustainable Energy(CO2排出削減)」「Circular Economy(サーキュラーなものづくり)」「Resource Optimization(資源の最適化)」を挙げている。
多方面の技術でサステナビリティとサーキュラーエコノミーに取り組む
ここで、パナソニック ノースアメリカブランディング&ストラテジック・コミュニケーション担当副社長のMegan Pollock(ミーガン・ポロック)氏も登壇し、上原氏と共にサステナビリティとサーキュラーエコノミーの取り組みについての説明を行った。代表する技術として、プラスチック代替素材「kinari(キナリ)」、カーボンニュートラルに向けた循環型アプローチ「バイオCo2変換」、分散型エネルギー資源管理「DERMS(Distributed Energy Resource Management System)」が紹介された。
「kinari」は、プラスチックに代わるサステナブル素材で、最大85%の植物繊維(セルロース)を含む植物をベースに、杉、コーヒーかす、ビール醸造の廃棄物など再生可能な資源を活用して作られる。現在は、つなぎ樹脂も含め100%の生分解に向けてのさらなる開発を進めているそうだ。
「バイオCO2変換」は、大気中のCO2を利用して農作物の成長を促進するプロセスで、「脱炭素化と同時に収穫量が約40%増加するなどの成果も期待できるため、食料ニーズの課題解決にも貢献する」(上原氏)という。2024年度の実用化を目指して開発を進めている。
「DERMS」は、再生可能エネルギーを安定的に供給するため電力の需給バランスを管理・調整し、家電製品や光熱費の管理や省エネ支援などの効果を生み出すシステムで、現在、地域のエネルギー需給に合わせてEVの充放電を最適化する試験運用が米国で行われているという。
2050年までにCO2排出量3億トンの削減を目指す「Panasonic GREEN IMPACT」の進捗状況
パナソニックは、2022年のCESで長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を発表し、「2030年までに全事業会社のCO2排出量の実質ゼロ化」と「2050年までにCO2排出量3億トンの削減」を目標に掲げて、活動を開始している。
この進捗については「パナソニックグループの31の自社工場と拠点におけるカーボンニュートラルを実現した」「自社のCO2排出量を939万トン削減し、2023年3月時点で3700万トンの排出削減を達成した」との報告があった。
また、上原氏は、2023年のG7広島サミットにおける首脳宣言で排出削減が明記されたことにも触れながら「自分たちの目標に向けて進むだけではなく、皆さんのインスピレーションとなり、世界中でCO2削減への大きな動きとなるようにと願っている」と語った。
未来への投資としてSTEM分野を推進するプログラムも
新製品の発表を含む最新家電などにも、サステナビリティに配慮した技術の数々が見られた。
車載分野ではCO2排出を削減する効果が期待される最先端のHPCシステム「Neuron(ニューロン)」や、屋外環境の熱を利用して暖房を行うヒートポンプ式給湯暖房機「A2W(Air to Water)」、アマゾン・ドット・コムとの提携によるFire TV内蔵のスマートテレビ、海水から抽出したミネラル成分を使った新素材を採用した手のひらサイズのシェーバー「パームシェーバー」などである。
Pollock氏からは、学生たちのSTEM(科学、技術、工学、数学)教育を未来への投資と位置づけて推進し、今回、その一環として水泳選手のKatie Ledecky(ケイティ・レデッキー)氏とパートナーシップを結び「Innovators for IMPACT」プログラムを行うと発表された。参加者は、Ledecky氏とバーチャルで日本を訪問し、スマートタウンや太陽光発電、100%再生可能エネルギー、スマートモビリティなどの最新技術を学べるプログラムとなっている。
技術開発と並行し、教育支援にも注力するパナソニックのサステナビリティな取り組みも気になるところだ。今後の展開に注目したい。
文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員
トップ画像:Panasonic North America
編集:タテグミ
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