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クリエイティブの舵を取る存在。イラストレーターから見るアートディレクターとは。

AD Channel第三弾はイラストレーター岡村優太さんにお話を伺いました。
人間味のあるシンプルな線で表現されたイラストから、面相筆による緻密で繊細なタッチの作品まで手掛ける岡村さん。東京都が発行する防災ブック「東京防災」や「東京メトロ」のポスター、雑誌「BRUTUS」や「POPEYE」のイラストなど、街中でも目にしたことのある作品を多く手掛けています。

今回のインタビューでは、岡村さんがアートディレクターとどのように関わり、作品づくりに取り組まれているのか、また岡村さんにとってアートディレクターがどのような存在なのかなどお話を伺いました。
今回は緊急事態宣言中ということでオンラインにて取材させていただきました。

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|絵を描くことが好きだった。イラストレーターとして活動を始めた経緯

―岡村さんのご経歴や、お仕事を始めたきっかけを教えていただけますか?

岡村さん:京都にある大学でグラフィックデザインを学び、卒業後は友人から依頼されるイラストの仕事を受けていました。徐々にイラストの仕事が増えてきたことをきっかけに、イラストレーターとして活動するようになりました。友人に依頼される仕事以外にも、デザイン会社に自らポートフォリオをもって営業に行ったこともあります。その後、関西から東京へ引っ越して活動を続けていましたが、東京で仕事をしているうちに、徐々に仕事だけではなく自分の生活も豊かにしたいという気持ちが強まってきました。自然が好きだったのと、当時家庭の事情もあったことをきっかけに、現在は拠点を栃木県に移し活動しています。

―栃木県に引っ越されてから、打ち合わせなどはどのように行っているのですか?

岡村さん:ほとんどオンラインで打ち合わせを行っています。東京に行き直接会って打ち合わせをすることもありますが、月に1・2回ぐらいのペースですね。東京に行く時は、なるべく多くの方とお会いできるようスケジュールを調整しています。最近はコロナウイルスの影響のため、東京には行かず、オンラインで打ち合わせやコミュニケーションを取っていました。働き方が変わり戸惑う方も多かったと思いますが、私自身は栃木県に引っ越してからオンラインでのコミュニケーションがメインになり慣れていたので、コロナウイルスによる影響はほとんどありませんでした。

|期待や想像を超えた作品づくりを

―今までたくさんの作品を描かれていますが、特に思い入れのある作品を教えていただけますか?

岡村さん:『東京防災』という防災ブックを担当した時ですね。仕事を受けるまでの流れも、ちょっとしたオーディションのような形でしたので印象に残っています。最初に声をかけていただいたときは、まだ自分が担当すると決まっていたわけではなかったんです。担当者とお会いした時に、お題に対してその場で描いて見せる、というのを何回か繰り返しました。結果、正式に自分が描かせていただくことに決まったのですが、おそらくいろんなお題に対して、どう応えてくれるのかをその場で見られていたのではないかと思います。

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東京防災:https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/390/202004071.pdf

鈴木:『東京防災』を見て、岡村さんを知りました。言葉だと複雑な内容を、絵で的確に表現されていて一目でわかりやすい。説明を受けている感じが無いというか。岡村さんの表現も相まって何より見ていて楽しいんですよね。最後まで飽きずに見ていられるのでこれはすごい...!と思いました。

岡村さん:『東京防災』は描く点数が多かったのと、とにかく時間が無い中描ききった作品です。イラストだけで的確に伝えないといけないので、防災に関する知識を持っている方に細かくチェックをしてもらいながらつくりました。

―『東京防災』をご担当された前後では、絵のタッチは変わりましたか?

岡村さん:『東京防災』を担当した後はシンプルなイラストの依頼が増えました。以前は角川文庫で出版された『世界最強の商人』や『その後の世界最強の商人』、スターツ出版発行の「メトロミニッツ」の表紙のように面相筆を使った細かいタッチの絵を依頼されることが多かったですね。どちらのタッチも好きで、求められるデザインによってシンプルに描くこともあれば、面相筆を使ったタッチで描くこともあります。イラストを描くことも好きなのですが、そのデザインに応じて描き分けるというか、イラストをデザインに落とし込んでいくことが好きですね。

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角川文庫『世界最強の商人』

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(左)スターツ出版発行「メトロミニッツ」表紙
(右)デザインのひきだし26

鈴木:以前、あるお仕事で岡村さんにイラストを描いていただいたのですが、空きスペースに猫のイラストを描いてくださったんですよね。「ここにこのイラストがあったらいいんじゃないか」と逆提案で。珍しいなと。そして嬉しかったんです(笑)イラストをデザインと組み合わせたときの最後の絵というか、俯瞰して見えている方だなと感じました。

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|デジタル時代において感じる作品づくりの変化とは

大澤:デジタル化が進む中で、クリエイティブにおける変化はありますか?
見る人の場所も、モニターなどのサイズも様々です。誰がいつ・どこで見るのか?を考えたときにいかがでしょうか。

岡村さん:最終的にメディアに応じてデータを用意するだけなので、あまり意識はしていないですね。変わったことは、Webサイトなどデジタルの仕事が増えたので、ポスターなどの紙の仕事がくると珍しいな、と感じるようになったことぐらいです。

鈴木:世に出ていくものがデジタルか紙かという違いだけで、方向性や考え方は変わらないと思っています。ポスターで見るのと、スマホで見るのとでは見ている環境もサイズも違うので見せ方は都度考えないといけません。しかし、見せ方は変わっても目的は変わらないのでは思っています。デジタル化により、メディアによって変えて行く難しさもありますが、表現の広がりが増えたことをポジティブに捉えています。

|アートディレクターの存在とは

―アートディレクターとはどのような存在だと思いますか?

岡村さん:クライアントと真意をすり合わせ、携わるメンバー全員が正しいイメージを持つように伝える通訳のような存在だと思います。同じ言葉でも全員が同じ認識やイメージを持つことは難しいと思うんです。

また、今回のクリエイティブの中で自分はどのような方向性でつくればいいのかを指し示してくれる存在だとも思っています。アートディレクターはいろんなイラストレーターを見て知っていますよね。今回はこの人のイラストが良いと思って選んでいると思いますし、イラストが今回どう使われるのか先が見えていると思います。なぜ自分の絵が必要なのか、アートディレクターがいると信頼して描くことができます。

あと、今日お話ししていて、アートディレクターの方はムードメーカーだなと感じました。クリエイティブに携わる全員を同じ方向に向かせるというのもアートディレクターの役割かと思いますが、それにはチームのムードを保たないといけないですもんね。

|コミュニケーションを取りながら一緒に創る存在に

―様々なタイプのアートディレクターがいますが、岡村さんはどんな方と仕事をしたいですか?

岡村さん:制作時間にもよりますが、こういうイラストを求めているだろうなという意図を組んで描く瞬発力はあるので、アートディレクターとコミュニケーションを取りながら制作できると嬉しいです。発注の経緯や、なぜ今回のクリエイティブに自分のイラストが必要なのかなど会話をしながら制作できると、自分が持つ別の引き出しから、よりその意図に合った表現方法を提案できるかもしれません。

大澤:そういうタイプのイラストレーターの方と制作できると嬉しいですね。良いものをつくっていきたいという気持ちは同じだと思うので、その人ならではの考えも聞きたいし試してみたい。

岡村さん:新しいトーンで描いてほしいという依頼があれば、応えたいなと思っています。最近は、自分のスタイルができてしまっているところはありますが、元々はある程度イラストのふり幅はある方でした。何でも描きますというわけではありませんが、今描いているイラストのトーンだけでなく取り組めたらうれしいです。

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―岡村さん、ありがとうございました。

岡村 優太
イラストレーター
1988年生まれ。面相筆とPhotoshopを用いて描いています。
主な仕事に『東京防災』『東京メトロのマナーポスター』『桃太郎が語る桃太郎』など。
https://okamurayuta.com/

<Credit>
Interviewer:Tomoko Suzuki(D2C dot Art Director)
Interviewer:Takuya Osawa(D2C dot Art Director)
Interviewer:Tomoyo Nagaoka(D2C dot PR)
Interviewer:Mai Yamauchi(D2C dot PR)