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いいアウトプットを出すためには、まずユーザーを知ること。「ユーザーリサーチ」について話を聞いてきた

2019年9月より、D2C dot UXデザイン室 マネージャーの五十嵐 友子が、東北工業大学で『ユーザーリサーチ論』の非常勤講師を担当させていただきました。もともと五十嵐は東北工業大学の出身。学生時代に所属していた研究室の両角清隆先生にお声がけいただき非常勤講師を務めることになりました。

今回は、両角先生に「ユーザーリサーチ」とは何か、その重要性など、お話を伺ってきました。

|『ユーザーリサーチ論』から学んでほしいこととは

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五十嵐:両角先生、今日はよろしくお願いいたします。
前任の先生から引き継ぎ講師を務めさせていただいた『ユーザーリサーチ論』の授業も、早いもので先日無事終えることができました。そもそも『ユーザーリサーチ論』の授業はいつから始められたのでしょうか?

両角先生:ちょうど今年で10年ぐらいと思います。何かを「デザイン」するには、それを使うユーザーを知らないと作れません。そして、ユーザーを知るにも技術が必要です。アンケートやユーザーインタビュー、他にも方法はありますが『ユーザーリサーチ論』は人々のことをちゃんと調べる方法を身につけよう、ということで始めました。

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五十嵐:その「デザイン」には、「デザイン企画」という意味も含んでいますか?「デザイン」というと弊社では「ウェブデザイン」と紹介しがちですが、物を売るための仕掛け・設計、売り方を考えるというのも「デザイン」に含まれるのかなと。そのためにも、ユーザーを知ることの重要性を日々感じています。

両角先生:そうですね。短時間で身につけることは難しいですが“ちゃんと物事を見る”ということに、授業を通して気付いてくれたらなって思っています。

五十嵐:講義では、学生にユーザーインタビューを行ってもらうなど、自分で手を動かしてもらえるようにしました。先に目的を説明しても座学になって眠くなってしまいますし(笑)自分でやってみないと分からないことはたくさんあります。

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両角先生:「デザイン」は座学でわかるものではなく“やってみてわかる”ものです。課題を与え、実際に手を動かし、自分で考えながらアウトプットを出す。そのアウトプットに対して指摘されることで、やっとわかっていくものです。事前に人から教えてもらっても役に立たないんですよね。

|「デザイン」するために1番大事なプロセスとは

五十嵐:いいアウトプットを出すためには、どのプロセスが1番大事なのでしょうか。

両角先生:まずはユーザーを知らないと「デザイン」は作れないですよ。

五十嵐:まさに「ユーザーリサーチ」が大切なんですね。これってウェブの制作だけでなく、企画や営業職の人にも役に立ちますよね。誰に売るんだっけ?誰が買ってくれるんだっけ?というのがわかる・わからないでは大きな差が出る。

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両角先生:「デザイン思考」という言葉がでてきましたよね。ユーザーを知ったうえでものを作り、作ったものを確認するというプロセスを企業もちゃんとやろう。そうしないと企業・組織が生き残れないということに社会全体が気付きました。例えば、コップなどの人工物はどういう使い方をするか調査をしなくても分かりますよね。
でもウェブサイトは、このデザインでユーザーは使いやすいのかがわかりづらい。ユーザーを知り、作ってみる。もし使いにくければ修正していくことが必要です。エクスペリエンス系のデザイナーからすると、今までもやってきたことですが、改めて必要な時代になりました。

|広い視点でユーザーの本当の欲求を探る

五十嵐:今、あるサービスを紹介するための記事コンテンツを制作し・分析する仕事を担当しています。サービスが使えるお店を記事で紹介し、記事内のリンクからお店のページに飛んでもらうことを目的としているサイトです。認知・理解・共感で言うところの“理解から共感へつなぐ”役割です。共感してくれる人を増やすために、アクセスログから「離脱した人がどこが多かったか」「流入元で好調なものは何か」という観点で分析し改善策を考えています。こういう活動もUXという観点になるのでしょうか?

両角先生:その分析大変じゃないですか、よくやっていますね。そのサービスでは、今まで雑誌で行ってきたことをウェブサイトでやろうとしていると思うのですが。例えば、旅行雑誌を買う人が、必ず旅行に行くわけではないですよね。旅行いいなぁってただ見ているだけの人もいます。それを、旅行雑誌を購入したのに、旅行に行かなかった人はなぜか?と考えても、もともと旅行への欲求が無かった場合旅行先の情報を伝えても数字は増えないですよね。もっと広く見ることで数字に影響をあたえられそうですね。

五十嵐:もっと広く見るということでは思い切って「新しい価値をデザインしてもいい」かもしれませんね。このサイトで体験できる価値をシェアするとサービスが半額になるとか。

両角先生:そうですね。ユーザー調査をする場合は個々の生活を話してもらわないといけません。何を本当はやりたかったの?と正しく聞くこと、どういう経緯でこのサイトに来たかなどのストーリー立てて質問することが必要です。

|まだサイトに訪れていないユーザーを知ること

五十嵐:この間『世界観とビジネスを共存させるには?~noteのUX設計を決定づけたグロースモデルの考え方~』というセミナーに参加したのですが、とても印象に残った話がありました。(株)ピースオブケイクのCXO深津さんが、“自分たちは、この「社会利益」と「企業利益」のベン図が重なっているところをやっている。「企業利益」だけが高まってしまうとちょっと困ってしまうのだ”と話していました。

両角先生:ベン図の重なっているところをやるから人が集まってくるんでしょうね。「社会利益」が大きくなれば利益も大きくなる。

五十嵐:それが受託だと難しいこともあるんですよね。

両角先生:「企業利益」を増やそうとするとこれだけの利益しかうまれないけど、「社会利益」を大きくするとこれだけの利益がでる・新しい価値として生まれる、とクライアントに話してみては?その為には、「社会利益」を大きくする活動が何かを話すことが大切ですね。

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五十嵐:そこで「ユーザーリサーチ」の登場ですか?

両角先生:そうそう!「社会利益」を大きくする活動は何か。それはユーザーを知るしかない。狙うはまだそのサイトに来ていない人。それを知るためには、自分以外の人と話すこと、会社のメンバー以外と話すことでも気づくことがありますよ。

五十嵐:両角先生と話していて、近しいことを考えているんだなと感じました。同じ目線で活動しているんだなって。非常勤講師や近況など交えてお話できて、今後の活動に活かせそうです。もしかして、私に非常勤講師を依頼されたのもそういった理由がありましたか?

両角先生:以前、研究室の講義でFacebookの分析について話してくれたことがありましたね。おもしろいことやってるなって思ったんですよ。極論、本を持ってきて教える人は誰でもいい。でも五十嵐さんは日々実践し、最先端にいる人。そういう人の話は学生も興味を持って聞いてくれます。先端を走っているとその手法についてまとめる時間はないだろうから一緒にやればいいんですよ。

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五十嵐:その視点は自分でも無意識に取り組んでいたので嬉しいです。納得感のあるアウトプットを出すこと、その後改善していくにもヒアリングや観察など「ユーザーリサーチ」のテクニックを持っていることが有利になると思っています。仕事で進めるプロジェクトには様々な職種のメンバーが所属しているので、私が所属するUXデザイン室が現状の課題抽出を行い、アウトプットしていくことが多いのです。これからも横断したチームで活動していくにあたり、それぞれの分野で1つになるためのハブのような役割を担っていきたいと思いました。
両角先生、ありがとうございました。

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《両角清隆 教授 プロフィール》
東北工業大学 ライフデザイン学科
クリエイティブデザイン学科
1955年生まれ。
金沢美術工芸大学美術工芸学部産業美術学科を卒業。
筑波大学芸術研究科、千葉大学自然科学研究科修了。
美術工芸学士・芸術修士・博士(学術)。
いすゞ自動車株式会社工業デザイン部、株式会社リコー総合デザインセンターを経て、2000年に東北工業大学工学部デザイン工学科教授に就任。同大学院工学研究科デザイン工学専攻教授 (産業計画部門)も務め現在に至る。
また、2003年-2004年までの間、ヘルシンキ芸術デザイン大学(フィンランド)メディアラボ客員研究員を務める。
《五十嵐友子 プロフィール》
株式会社D2C dot UXデザイン室 マネージャー
ウェブアナリスト
上級ウェブ解析士、HCD-Net認定専門家
東北工業大学にてプロダクトデザインを専攻し、カーナビやコピー機などのインターフェースデザインをメーカーから受託するデザイン事務所に就職。プリンターのコンセプトモデルの提案やユーザビリティテスト、オフィス環境のエスノグラフィ調査など人とモノをつなぐデザインに従事。2012年2月に株式会社D2Cに入社後、2016年に株式会社D2C dotにウェブアナリストとして参画し、オウンドサイトのWEB解析やSNS分析、キャンペーンサイトのKPI報告、アプリの操作に関するユーザーインタビュー、利用状況把握のネットリサーチなどユーザー行動を可視化し課題解決に向けたコンサルティングを行う。