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『サン・セバスチャンへ、ようこそ』

ウッディ・アレン監督・脚本。なんと88歳で、久しぶりのヨーロッパロケ、それも風光明媚なスペイン北部バスク地方のサン・セバスチャン。映画祭を舞台に繰り広げるロマンティック・コメディの王道。

華やかな映画業界でプレス・エージェントの妻、ドストエフスキーに憧れ小説家を目指すインテリ爺やの主人公。それぞれの恋愛模様も微笑ましいが、それはそれ。いつもウッディ・アレンが描く主人公は、まさにウッディ・アレンそのものであるところが、最高にウィットなのだ。
この主人公、ヌーヴェル・ヴァーグを敬愛してやまない。フェリーニ、ゴダール、トリュフォーは誰もが知っているが、そんなメジャーだけじゃなく、ベイルマンとブニュエルは、ウッディ・アレンが崇拝していると思われ、主人公が存在の意味に悩む。ドストエフスキーになりたくて小説家を目指すが、一向に書けず苦しむ姿。片や妻の相手は新進気鋭の才能溢れる映画監督であり、主人公が情熱を取り戻す相手の旦那は激情的な画家で、人生にとって必要なものは何なのかを考えさせられる。特に芸術を愛し、芸術家を志せば、苦悩の日々は避けられない。だから酒を飲み、愛を語る。
頭でっかちな主人公の口から、日本映画が熱く登場する。もちろん、華やかな社交の席を白けさせる場面だが、日本人観客の僕からすれば嬉しくて仕方がない。稲垣浩監督『忠臣蔵』(1962年)、黒澤明監督『影武者』(1980年)だ。タツヤ・ナカダイ、ユウゾウ・カヤマの名前も。ここもまたオズじゃないあたりが、心憎い。

映画好き、芸術好き、スペイン好きには堪らない。愛と情熱が、サン・サン・セバスチャンによく似合う。

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