缶チューハイと桜と涙
7
3月も半ばを過ぎて、コートが要らない日も徐々に増えてきたある日、わたしがシフト確認のためにコンビニへ出向くと、モリくんが日勤に入っていた。バックルームでオーナーと少しだけ話したあと、飲み物とお菓子を手にして、レジに立つモリくんに渡した。
「今週の土曜、夜あいてる?アヤちゃんと四人で、中央公園で花見しないかって、チアキが言ってたよ」
品物を袋詰めしながらモリくんが言った。わたしは、二つ返事で誘いに応じた。たとえ先約があっても、遅れてでも行くという気持ちだった。
さらにその日の夜、初めてチアキくんから連絡が来た。
【花見の話、モリちゃんから聞いた?昨日交代の時にアヤちゃんも誘ったんだけど、土曜は用事あるらしいから、三人でいこー。】
わたしは、舞い上がった。女の子ひとりでの参加にちょっとした緊張感もあったが、楽しみで楽しみで、なんなら吐き気までもよおした。週末を指折り数えた。花見までの数日間はたまたまシフトがすれ違い、バイト中に会う機会が一切なかったことが、感情をさらに昂らせた。
土曜日の夕方、前日の夜から決めていた服を着て、へたくそながらもメイクをして家を出た。ミュージックプレイヤーでチャットモンチーを聴きながら歩いても、どうにもこうにも落ち着かなくて、体温がどんどんと上がっていくような錯覚を覚えた。
中央公園は、バイト先のコンビニからまっすぐ坂を降りたところにある中規模の公園で、緑地部分の木はすべて桜だった。18時近くになっても地域の人たちがちらほらと、花見や散歩を楽しんでいた。
薄暗い公園の中でふたりの姿を捜すと、ベンチに座っていたチアキくんが手を振った。
もうまるで餌に食いつく魚のように、履き慣れないパンプスで彼のいる場所へ向かった。
「おつかれ」
満開の桜の下でタバコを指に挟んだまま、チアキくんはいつも通り優しく笑った。薄暗闇の中でみる彼の表情は、陰があって、形容しがたい魅力があった。
単純なわたしは、今日が人生最高の日だとすら思えた。
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