缶チューハイと桜と涙

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新大学三年生同士でまたご飯に行こうか、となったのは、春休み目前の寒い頃のことだった。
チアキくん、モリくん、アヤちゃんとわたしで、もはや馴染みとなってきたコンビニ近くの居酒屋で、今年度のお疲れ様会をした。

話題は、どうしたって夏・秋には本格化する就活のことが中心となった。ここで、チアキくんは大学中退と専門学校進学をモリくんとアヤちゃんにも話した。

「まじか。すげーな」「親には何も言われないの?」と、
口々に当然の質問を投げかけるふたりに、チアキくんは少しも嫌な顔を見せず笑っていた。わたしも、黙っていた。

けれどそのあとに、モリくんが「自分も就職ではなく、大学院に行こうか迷っている」ということを打ち明けた。もともと勉強と研究を続けたい分野があったが、親に話したら「就職難から逃げるための院進学」だと言われたと。
アヤちゃんとわたしが「言い方ひどくない?」「いろいろ考えてるのにね」などと話していると、静かに聞いていたチアキくんが口を開いた。

「モリちゃんが勉強すげー頑張ってるの知ってれば、そんなふうには言えないはずだよ。何回もしっかりと伝えてみなよ。」
チアキくんの言葉を聞いたモリくんの顔から、不安が取り払われていったのが分かった。

チアキくんは誰かを傷つけるようなことを言わない。
軽くてふわふわしているけど、いつも目の前の人に丁寧に向き合っている。
「おしゃべりするよりも聞いている方が好き」とか言いながら、聞き上手のふりをしながら、言葉の“表面”を文字通り”聞いているだけ”のわたしとは、違う。

そう思うと、チアキくんへの想いはますます勢いを増していった。自分にないものを、彼は沢山持っているように見えた。

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