男はつらいよ

――その女は、男であると誰しもが見上げる程に力強く拍手を浴びる
舞台から下りるのが怖い。私自身に戻るのが怖い、光のない私は何者?
そんな時に、あたしと彼は恋をした、いや、恋をされた。少なくとも
あたしは今でもそう思う。男のように舞台に立ち、心に空いた、その隙間に
彼が入って来た。男のように生きるのに疲れたその時に彼はいて
女であれた「でも、長く続けちゃダメね。やっぱりあたし男を演じる」
「あたしはね。骨の髄まで役者なの。涙はいつでも流せるものよ」
左頬から――一条(ひとすじ)、涙。流すのは本音じゃないわ。演じているのよ
     反歌
男の背の涙は独りで流すもの、男はつらいよ。喜劇を演じる――

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