晩暉浸礼を享く(昭和二二年)

「喧嘩も戦争もそうだ。はなから負けると思っちゃいないだろ」
闇市で辛うじて得た酒とつまみ、肴はいつも武勇伝――
「一発だ、一発、頭にドカンといく。そいでそいつは骸だよ」
「自分が生きてやつが死ぬ。お天道様の腹づもりが分からんもんだ」
(聞けば、君。)(鎮撫の御幸だそうだ)(俺らが闇であくせくやってる内に)
『たのもしくよはあけそめぬ水戸の町うつつちのおともたかくきこえて』
(今上陛下に罪はないだろ)(しかしよ、こんな生活になっちまったのも)
「えぇい、それ以上。ヤバイぞ。あいつ、こっちを見たぞ――」
      反歌
御製の載る新聞紙で芋包みゆく 臣民最後の家に妹なく

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