晩暉浸礼を享く(昭和二四年)

絞首刑の元帥大将首相また大使総裁、皆勝てば英雄であった
『庭のおもにつもるゆきみてさむからむ人をいとどもおもふけさかな』
首を洗う手が震えている武者震い冷たき水が滴れば目を赤くする
日本国の歴史と共に存する我がこの細き首に熨(の)しかかる運命(さだめ)の重さ
「石原も死んでしまったか。なぁ侍従よ。花を一輪摘んでくれるか」
『夏の日の青天に満つうつせみを数えてはやめ花ぞ一輪』
戦争は確かに終わる。始まりも私の名により終わりもまた私の名による
「裕仁、胸を張れ。天皇は孤独を愛する者のみが継ぐ」御爺様が言う――
      反歌
極東の血らが叫び出すよみがえり沈黙の後 晩暉浸礼を享く

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