イングランド最高峰のアカデミーと戦って得た教訓
先日、アーセナルのアカデミー施設で行われたイングランド最高峰のアカデミーが集う大会『Corey Price Cup』に行ってきました。
先月から私はカーディフシティのアカデミーでコーチとして働かせていただいてますが、私自身にとってこれがカーディフでの初めての遠征です。
この大会は『Corey Price Cup』と呼ばれる、アーセナル、チェルシー、ウルブス、サウサンプトン、バーミンガム、そしてカーディフの6チームが参加している大会です。イングランドの最高峰のアカデミーが集まってくるので非常にレベルの高い大会となっています。
1ラウンドで6チーム総当たりのリーグ戦を行い、リーグ戦の成績で順位を付けます。シーズンを通して複数のラウンドを戦った後、最後のラウンドで通算の順位で優勝を決めます。1シーズンで同じ相手と複数回対戦しますが、1番多くの勝ち点を獲得できたチームが優勝となります。今回のアーセナルで開催される試合は第2ラウンドでした。
片道4時間の遠征
集合場所はカーディフシティスタジアムの駐車場でした。朝6時半出発ということもあり、まだ陽が出ておらず真っ暗でした。カーディフシティスタジアム内にある、アカデミー用具室からボールや試合のユニフォームをバスに詰め込みます。
下の写真の大型バスに選手と共に乗って朝6時半出発にカーディフシティスタジアムを出発しました。
ロンドンへ向かう高速道路のサービスエリアで一度休憩を挟み、10時40分に試合会場であるアーセナルのアカデミー施設に到着。朝早かったこともあり、約4時間の移動のほとんどを寝て過ごしました。
試合の準備
ロッカールームで選手たちはユニフォームに着替えて、12時キックオフの試合に向けて11時からウォーミングアップスタート。
アーセナルのアカデミー練習場は屋外ピッチが4面と屋内ピッチが1面ありました。流石はアーセナルのアカデミー施設なだけあって屋外ピッチの全てが綺麗な天然芝。屋内ピッチは分かりませんが屋外ピッチはしっかりと整備されてあって素晴らしいピッチコンディションでした。
カーディフがウォーミングアップしたピッチにはアーセナル、ウルブス、サウサンプトン、バーミンガムのU-11がそれぞれウォーミングアップをしていましたが、各チーム様々なウォーミングアップをしていて興味深ったです。
アーセナルはアタッキングサードでの3vs2をメインにウォーミングアップで行っていました。ゴール前での崩しや対人守備の部分を意識した練習だと思います。
ウルブスは1vs1に1番時間を割いていました。下のイメージのように相手DFをかわして次の人へパスをしていました。対人スキルを伸ばすようなトレーニングだと思います。
サウサンプトンは手でのポゼッションゲームを行なっていました。ボールを持っている人はその場から動くことができずにパスしか出来ないルールで、周りの連動がないとゴールまで迫れません。どうやってボールホルダーと周りの選手が関係性を意識させるトレーニングだと思います。
バーミンガムは3vs3+3のポゼッションを行っていました。2人のサーバーが長方形のピッチの外側にいて、中央での3vs3に1人がフリーマンとして入り、ボール保持しているチームは6vs3の状況になります。サーバーから逆サイドのサーバーにボールを繋ぐことを目標とした割とベーシックなポゼッションのトレーニングだと思います。
ちなみにカーディフは1タッチロンドやエンドゾーン(そこにボールを運んだら1点)のポゼッションゲームをウォーミングアップでやっています。
キックオフ
ウォーミングアップも終了し、いよいよこの日最初の試合です。初戦の相手はチェルシーでした。
五分五分の展開が続く中でカーディフはCKから得点を上げて1-0で勝利。ラスト数分はかなり押し込まれましたが、体を張ってゴールを守り、見事初戦を勝利することができました。アーセナルやチェルシーのアカデミーはどの年代もイギリスの中でトップレベルですが、カーディフもチェルシーやアーセナルと肩を並べるために選手たちは日々密度の濃い練習を積んできました。それが結果に結びついたことは彼らの自信にも繋がったのではないかなと思います。
2戦目の相手はバーミンガム。トップチームが同じチャンピオンシップに所属しています。
カーディフがボールを持つ時間は長かったと思いますが、強さや速さを全面に出してくるバーミンガム相手になかなかシュートまで持っていく展開を作れずに0-0のスコアレスドローで終了。身体能力で相手に上回られた時にどうやって戦っていくかという課題が残った試合となりました。
3試合目の相手はサウサンプトン。
この試合でカーディフにとってこの日のベストゴールが生まれました。ゴールキックから短いパスを繋ぎながら相手のハイプレスを回避して前進。擬似カウンターのような状況を作り、最後はグラウンダーの折り返しからボールを押し込み得点することができました。カーディフがずっと取り組んでいるプレスをどう回避して前進するかという部分がしっかりと体現されたゴールでした。カーディフはこのゴールが決勝点となりサウサンプトンに1-0で勝利。ここまで2勝1分と負けなしで半分を折り返すことができました。
残り2試合となった4試合目はウルブスと対戦しました。ウルブスはここまで全敗している状況でした。
試合序盤からボールを握りながら決定機を作りましたが決めきれず、逆に失点。失点後も同点のチャンスは沢山ありましたがものにできずに、セットプレーから再び失点。カーディフの選手たちのモチベーションがガクッと落ちたところにウルブスが勢いを増してもう1点追加して試合終了。0-3で敗北となりました。サッカーではあるあるな展開ですが、決定機を外し続けると相手に流れが行ってしまう、そんな試合でした。
最後の試合の相手はアーセナル。
試合開始からカーディフがボールを保持しますが、1つのミスパスからカウンターを喰らい失点。その後もカーディフがボールを保持する時間が続きますが選手たちが消極的なプレー選択が多く、チェルシーやサウサンプトン戦での積極性はほとんど見られません。2失点目も自陣でのビルドアップを狙われて失点。そこから一気に集中力が切れて失点を重ねてしまい、0-4で敗戦となりました。アーセナルはスタメン9人のうち6人がアフリカ系のルーツを持つ選手で俊敏さやデュエルでの強さなどが目立っていました。身体能力が上の相手と試合をする時にどうやって戦うべきかという課題が残る試合となりました。
試合から得た教訓
カーディフは2勝1分2敗という結果に終わりました。ウルブス戦で試合をものに出来ずに敗戦してしまったことが痛かったです。
そして第2ラウンドの順位は以下の通りです。
カーディフはチェルシーやバーミンガムと勝点は並んでいますが、ウルブス戦とアーセナル戦での大量失点が影響して4位になってしまいました。失点を重ねないためにも失点後のチームや個人の振る舞いやモチベーションの保ち方は今後改善していく必要があります。
そして興味深いのがパスのデータです。ウルブス戦は試合映像が手に入れられなかったので分析することができませんでしたが、他の4試合でのパスのデータは下の画像のようになりました。
カーディフはチェルシー以外の相手とはポゼッションで相手を上回りました。また、パスの成功率まチェルシー戦以外は70%を超える結果となり、まずまずのデータを記録しています。
このデータと試合の結果を照らし合わせた時に唯一ポゼッションで上回れなかったチェルシー戦ではカーディフは試合に勝利していますが、逆に1番パスの成功率やポゼッション率の高いアーセナル戦では大敗となりました。
これらのことを踏まえて考えていかなければいけないのが、いかに効果的にボールを持つかだと思います。ボールを握っていてもゴールを奪えなければ意味がないですし、ポゼッションがどれだけ高くても試合に勝てなくては意味がありません。特に5試合目のアーセナル戦ではカーディフがボールを持つ時間が長かったですが、ブロックの外でボールを繋ぐような消極的なパスが多かったです。一方でチェルシー戦では相手の陣形の中に入っていく意識が強く、縦パスも多かったです。ボールは握れませんでしたが、ボールを持った際には際どいところを攻めて迫力のある攻撃ができていました。
効果的にボールを保持するためにはもう少しオフザボールの動きの質を上げる必要があると感じています。縦パスが入って時に落としの位置にサポートに入ったり、選手たちの立ち位置をローテーションしてスペースを作る・使うというような動きが今後求められると思います。
また、今回の大会で体感したことが小さなミスが命取りになるということです。正直言って、この大会に参加している6チーム間での差はほとんどありません。次に戦う時には勝敗が全く読めないくらい拮抗しています。アーセナル戦での最初の失点はカーディフがビルドアップから上手くアーセナルのハイプレスを掻い潜って3vs2の状況を作りました。そこでボールホルダーが相手DFにパスを引っ掛けてしまい、逆にカウンターを受けて失点となりました。最高峰のレベルなだけあって、1つのミスがゴールに直結する世界なんだと体感した場面でした。カーディフが勝利したチェルシー戦でも、チェルシーがカーディフを押し込んでいましたが、カーディフはコーナーキックからのゴールで勝利。チャンスの数で言えばチェルシーの方が多かったですが、1つのセットプレーで勝敗が決まってしまうハイレベルな大会でした。
改めて、最高峰のチーム・大会で指導するということはどういうことなのか実感した大会でしたし、このチームで指導する際にはボールの置き所、パススピード、1歩ズレてパスコースを作る動き、相手と対峙した時の間合い、チームとしてリンクして動くことなど細部にまでこだわっていく必要があると感じました。僅差の試合をものにするために、日々のトレーニングから密度の濃い練習をしていきたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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