『情報銀行のすべて』を読んで

個人情報の活用、そしてそれと裏表の関係にある個人情報保護については、継続して議論や世間の動きが盛んな分野である。

(参考)
日経新聞2020年7月15日付記事「サイバー被害、全員に通知 個人情報漏洩で企業に義務」
等、特にサイバー攻撃に対するリスクが高まっている現状、個人情報をどのように守るかは、私が仕事をする上でも非常に重要テーマとなっている。

個人情報をどのように守っていくかは色々考えなければいけない立場ではあるが、まずは「そうはいってもどのように利活用されていくのか」をまずは知らないと(利活用から受ける便益とのバランスでセキュリティ対策は成り立つものだと思うので)いけないと思い、掲題の情報銀行という新たに個人情報を活用する/管理する仕組みを分かりやすく解説した本書を読んでみた。

そもそも情報銀行とは、データポータブル権等の個人が有する権利もしっかり守ったうえで、情報(個人情報)を管理し、情報を利活用していくための仕組み。
要は個人で多様なデータを管理するのは色々厳しいので、データの保護や管理に一定の信頼がおける(要件を満たす)第3者機関(情報銀行)が保護や管理をしていきましょうということ。信託のイメージとかなり親和性高いもの。

日本では、日本IT団体連盟が認定団体となっているが、別にこの認定が無かったからと言っても事業が出来ないとか、そういうことではない。あくまでアピールとして使えますよ、ということである。
(参考)日本IT団体連盟情報銀行推進委員会ホームページ

そして今(2020年7月24日現在)で情報銀行は既にサービスも実施中である「通常認定」1社、そして保護管理等の要件を満たしており、サービス開始の準備が整っているという「P認定」4社が認定されている。

(参考)
「通常認定」1社…株式会社DataSign
「P認定」4社…中部電力、J.Score、フェリカポケットマーケティング、三井住友信託銀行
出典:日本IT団体連盟情報銀行推進委員会ホームページ内「認定事業者一覧」

本書では、そういう個人情報の取り扱いが利益を生む、そういう世の中になると、具体的な(想定されうる)活用事例を豊富に解説している。

個人が情報の切り売りで利益を得ることは難しいとしつつ、うまく利活用することが示唆されており、個人情報とのこれからの付き合い方を考えらせられる本ではある。

ただ、個人的にはこの情報銀行の盛り上がりが最近下火になってきていることが気がかりである。最初に掲げた日経新聞のニュース記事も個人情報を漏らした場合のペナルティをより明確に厳しくするなど、利活用が進む文化が定着する前に罰則が厳しくなっているため、利活用には委縮するような土壌が築かれつつあるような気がする。

GDPRとも平仄を合わせる形で罰則等が厳しくなる中で、確りと信頼に値する個人情報を預託して活用してくれるような機関が出てくれることを祈るばかりであるが、この情報銀行という機関が果たしてそういう役割を果たしてくれるか、本書を読んだ限りではまだ納得することが出来ないのは私だけだろうか。

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