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【イベントレポート】児童生徒のICT自律活用を支えるデジタルシティズンシップ教育ー相模女子大学小学部での取り組みー

5月29日(土)、1人1台端末の活用や持ち帰り運用に課題を抱える教職員向けに、第3回目となるDQ活用ウェビナーを開催した。

GIGAスクール構想が始まって以来、一部の学校や自治体で持ち帰りを含む1人1台端末の本格運用が進む一方、依然活用が進んでいない学校や自治体も多い。今回のウェビナー開催の背景には、児童生徒のインターネット利用に対する教職員や保護者の不安が、GIGA スクール構想の目指す、「家庭と学校を横断した子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現」を結果的に阻んでしまっているという現状がある。

本ウェビナーの第一部ではサイバーフェリックス増田氏が、児童生徒自身が主体的にICTを活用していくことを前提としたデジタルシティズンシップ教育の重要性を説明した。第二部では、すでに1人1台端末の活用が進んでいる相模女子大学小学部校長の川原田康文氏が、デジタルシティズンシップ教育の事例について学校での取り組みを交えて紹介した。

イベント全体の流れとご登壇者

1部:

・DQ(デジタルインテリジェンス)の概念と世界での動き
・情報モラルとその他の教材と比較した際の DC 教育(デジタルシティズンシップ)の強み

2部:

・相模女子大学小学部の事例紹介
・DQ World のデモンストレーション
・DQ スクールパッケージの詳細と実証実験プログラムの案内

川原田先生

相模女子大学小学部 川原田康文校長
中学校の教員勤務、教育行政、大学での勤務を経て、2017年より相模原女子大学小学部に所属。2020年に同校校長に着任し、今年で教員歴37年目を迎える。

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デジタルシティズンシップは従来の情報モラルと何が違うのか

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イベントの冒頭では、DQ(デジタルインテリジェンス)の概念や世界での動き、そして私たちが提供するデジタルシティズンシップ教育について紹介した。

簡潔にいえば、DQ は知能指数を表す IQ のデジタル版だ。2018年9月、WEF/ OECD/ IEEE/ DQ Institute​ の共同宣言により、世界中の子どもたちが自分の DQ を認識し、情報化社会でのウェルネスを高めるための学習を届けるムーブメントが開始された。

2020年には、デジタルの分野における技術の標準規格を定める国際機関 IEEEにより、それまで三者三様だったデジタルに関する知識やスキルの国際基準に認定され、現在では、TikTokやLEGOなどの多国籍企業や各国政府との協働を通じて、世界80カ国100万人以上の子どもたちがDQ学習に取り組んでいる。

日本でも、2017年より少しずつ認知が広まり、2018年にはEdtech補助金対象事業採択、2021年現在では、60を超える小中学校・自治体でDQ学習が取り入れられている。

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デジタル・シティズンシップ教育は、DQの第一段階にあたり、プログラミング教育の前段階に位置する。本ウェビナーでは、デジタル・シティズンシップスキルの8つのスキルを紹介し、従来の情報モラル教育との違いやGIGAスクール構想の現状を踏まえたDQ学習の必要性などについて詳しく説明した。

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さらには、これまでこの分野で取り組まれてきた学習方法と今回新しい解決策として紹介されたオンライン学習プラットフォームDQ World との比較を用いながら、参加者の多くが抱えていた課題をDQ学習がいかに解決するのかについて説明した。

DQスクールパッケージの概要

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相模女子大学小学部が実践するDQ学習には以下の6つの教材が活用されている。

DQ World:デジタルシティズンシップを網羅的に学習できる、オンライン学習教材。ゲーミフィケーション仕様で児童生徒の自律学習を促す。8~10時間かけて全81コのミッションを学習することで、子どもたちのデジタル​シティズンシップ(DQ)を10%​高めることができる。

学校向けレポート:DQ World を完了した学校に発行され、DQ Worldを学習した児童生徒全体の傾向、端末使用の統計、他校との比較をまとめたレポート。

個人向けレポート:DQ World を学習した子どもに発行され、DQスコアに基づく個人の強み弱みを認識し、今後の取り組みを​考え、実行するための改善点や提案がまとまったレポート。

ワークブック:DQ Worldの各ミッションに対応し、DQ Worldと並行または復習・応用として学びをより深めることができる学習ドリル。

指導書:DQ Worldで児童生徒が取り組むミッションの概要が一目で分かり、円滑な授業実施を支援する指導案の冊子。

補助教材:DQ Worldに取り組む中で感じた疑問点や個人の価値観に左右される命題などに対して、児童生徒が​自分で考え、判断することを促す​補助教材。

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未来に生きる学習を楽しく学ぶ

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メインパートでは、ゲストスピーカーである川原田校長が、相模女子大学小学部でのDQ学習実践事例について説明した。

ICT活用のポイントとして川原田校長は次のように話す。「制限を最低限にし、問題が起こったら生徒と話し合い、その中で解決していく。楽しんで学ぶことが大切。」川原田校長自身のICT活用ポリシーやそのように考えるようになったデンマークでの経験は視聴者の興味を引いた。

次に、相模女子大学小学部での1人1台端末の整備や持ち帰りを含めた本格運用の準備~事例、休校時の授業配信の様子について説明があった。特に、1人1台端末の利用を始める4年生の児童と保護者に向けて、校長自身が「端末を持つ意味」を伝える講演や全員が端末を使いこなせるように細かいスキルをまとめた系統表の作成等の工夫は、参加者にとって参考になった点だったのではないかと想像する。

事例紹介の後半では、DQ学習導入準備(教員向け講演等)から2018年のEdtech補助金での実証を経て、導入までの流れ、そして実際に学習した児童約120名のアンケートの結果等が紹介された。

相模女子大学小学部では、小学4年生から本格的にDQ学習が始まり、高学年の3年間を通じて継続的に繰り返し学習するサイクルを構想している。(以下の表を参照)

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これには、「学習内容に飽きないのか?」といった声も聞こえてきそうだが、児童生徒からは「これってお勉強ですか?」「ランクを上げるためにもう一度やりたい」と繰り返し取り組みたいという意欲的な声が多かった、と川原田校長と紹介した。

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最後には、アンケート統計に触れながら、教師・児童・保護者の目線から実際に挙がったご意見を紹介した。

相模女子大学小学部では、プログラミングの授業内でDQ Worldが実施されているが、担当教員から見た児童の反応で印象的だったのは、「全部取り組んだのに高得点にならない理由を真剣に考えていた」というもの。また、ICTを活用した他の授業では、「広告やポップアップメニューに触らないように気を付けていた」との行動の変化も見られたようである。

今回アンケート調査に回答した小学5年生と6年生のうち、全体の78%がDQ Worldの内容がおおむね理解できたと回答した。具体的な項目に関しては、DQ学習前は「スクリーンタイムの扱い」「ネットいじめの扱い」「サイバーセキュリティの扱い」が最も理解できていなかったことと比較して学習後は、半数近い児童がネットいじめに関する学習項目を最も理解できた項目として選んでいる。

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「自分の行動に変化はあったか」という質問に対する児童の回答では、インターネットゲームに関する内容が最も多く、パスワードや名前等の個人情報保護の強化や知らない人はフレンド申請せず、ゲームに入れない等の変化が見られた。

「これからインターネットと​どう向き合っていきたいか?」という質問に対しては、「ネット上の危険にはよく気をつけて楽しく使っていきたい」「情報の真偽を見分けて探求学習の時に、みんなに本当のことを伝えたい」といった言葉が印象的だった。

また、端末を活用した家庭学習に関しては、67%の児童が授業以外の時間でDQ Worldに取り組み、その理由として以下のような回答を挙げた。

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家庭でDQ Worldに取り組む子どもたちの様子を見ている保護者からは、「家族でインターネット利用のルールを​話し合い、決めた」「​親から見ていても、​わかるくらい変わった」といった声が聞かれたようだ。

最後に、川原田校長は「こうして子どもたち自身が楽しく学ぶ姿を見て、温かく見守ってもらいながら、学校としてもDQ学習を続けていきたい」と締めくくった。

参加者からの声

本ウェビナーの参加者の学校では端末の本格運用に際し、「従来の受動的な情報モラル教育や講演、利用ルール決め」のみ、もしくは「特に何も学習をしていない」という声が多く、
情報モラル・リテラシーの分野において「子どもたちの習熟度を把握しづらい」「教員の負担が大きく満足して使える教材が少ない」「学校・家庭・児童生徒間の連携が取りづらい」といった課題が散見していた。

しかし、ウェビナー参加後には、こうした参加者の三分の二が「受講目的が達成された」と回答し、「実際の教育現場での事例を教えていただき、参考になりました」「非常に勉強になりました」といった声もみられた。また、ウェビナー終盤まで参加者の多くが継続して傾聴している様子だった。

最後に

本DQ活用ウェビナーでは、GIGAスクール構想が掲げる、「家庭と学校を横断した子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現」に対して、家庭と学校のみならず、産官民の協働が生み出す教育アプローチの革新の必要性を問いかけている。

〇プログラミング教育の前段階としてインターネット活用を前提とした健全なモラル・スキル・レディネス(デジタルシティズンシップ)を育成できる

〇世界の一流大学の研究に基づいたカリキュラムや教材により包括的で成果の見える学習・授業展開ができる

〇児童生徒が自ら進んで学びたくなるWeb仕様(ゲーミフィケーション等)で学んだことを日常的に実践する姿勢・スキル・応用力が身につく

〇端末の本格運用時(家庭学習と授業のリンクなど)、児童生徒が積極的に端末を活用していくことへの保護者・他教員による理解促進に繋がる

GIGAスクール構想の目指す教育ICT環境の実現に向けて、上記のような従来の情報モラル・リテラシー領域の課題を革新的に解決するDQ学習の利点と必要性が、レポートの読者にも伝わっていれば幸いである。

関連情報

DQ実証実験プログラムの案内

2021年6月1日(火)より、GIGAスクール端末持ち帰りを実施、またはキャンペーン期間に実施予定の学校及び教育委員会を対象に、今回の事例紹介でもご活用いただいた「DQ World」を無償貸与する「DQ World実証実験プログラム」を提供しています。

すでに、全国の学校や教育委員会様からキャンペーンのご応募を頂いております。是非、DQ World実証実験プログラムの詳細ページも合わせてご覧ください。

※キャンペーンお申し込み期間:2021年6月1日〜2021年12月31日
キャンペーン期間:2021年6月1日〜2022年3月31日

次回以降のウェビナーのご案内

7月中旬に開催予定のウェビナーでは、GIGAスクール端末を本格運用している公立校でのDQ学習事例をご紹介します。詳細情報は、弊社noteとFacebookページで更新していきますので、是非フォローをお願いします。







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