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【イベントレポート】児童インタビューを初公開!精華小学校のデジタルシティズンシップ教育事例から学ぶICT活用の土台づくり

9月30日(木)、サイバーフェリックスは、DQ活用ウェビナー【児童インタビューを初公開】精華小学校のデジタルシティズンシップ教育事例から学ぶICT活用の土台づくりを開催した。

今回のウェビナーは、前半ではサイバーフェリックス 村上氏が、DQ(デジタルインテリジェンス)とオンライン学習プラットフォームDQ Worldについて紹介し、第2部では学校法人神奈川学園精華小学校 広報主任 向井崇博教諭が、初公開となる児童インタビュー動画の視聴を交えてデジタルシティズンシップ教育事例を紹介した。

私教育新聞での精華小学校の導入事例記事はこちら(2021年3月15日発行)

はじめに

DQとは、デジタルリテラシー/デジタルスキル/デジタルレディネスにおける新グローバルスタンダードであり、2018年9月、世界経済会議/OECD/ IEEE/ DQ Institute​ の世界を牽引する国際機関により共同宣言された。その第一段階であるデジタルシティズンシップで身につけるべき8つの能力は以下である。

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①スクリーンタイムの扱い…勉強以外でのスクリーンを見る時間のコントロールの仕方、メディアとの向き合い方、家庭のルールをどのように決めるか、などについて

②プライバシーの扱い…個人情報には何が含まれるのかを理解し、自分と他者の個人情報をどのように守るのか、などについて

③ネットいじめの扱い…ネット上で行われているいじめの状態はどういう状態なのか理解し、みつけた時どう行動するか、などについて

④デジタル市民のアイデンティティ…現実世界とインターネット上での人格を誠実に健全に守る重要性や方法、などについて

⑤デジタルフットプリントの扱い…デジタル上で発信した情報は半永久的にネット上に残るといったようなインターネットの特質、などについて

⑥サイバーセキュリティの扱い…初めてアカウントを持った児童生徒が、どのようなパスワードを作り、どう管理するか、などについて

⑦クリティカルシンキング…インターネット上にある情報の真偽をどのように見分けるかのコツ、着目点などについて

⑧デジタルの共感…ネット上であう会ったことのない他者とどのように共感力を持って接していくか、などについて

この8つの能力を網羅的に習得することを目標に、スタンフォード大学や南洋理工大学などの共同研究のカリキュラムに基づいて開発されたのがオンライン学習プラットフォーム「DQWorld」である、と村上氏は説明を進める。

教材内でスコア化ができ、児童生徒のネット活用能力はどのくらいか、または学習効果がどのくらいあるのか可視化することが可能で、DQInstituleによるとDQスコアが10点上がるとリスクが15%減る結果が出ている。学習が終了すると「個人レポート」が発行され、強みや弱点、改善するアドバイスを参考に、保護者と協力して改善指導をすることができるという。

また、授業を行う際には、ワークブックと指導書がパッケージに組み込まれているので、DQ Worldでの学習内容の復習や反転授業での応用にも取り組むことができる。導入している学校では、総合など決められた時間・授業だけでなく、休み時間や、他の授業で課題が早く終わった残り時間にDQを行うなど、柔軟に取り入れて学習しているそうだ。

ネット回線とデバイスがあれば、場所を選ばず学習することができるため、さらに家庭学習としても活用可能。保護者からも「大人も一緒に学習でき、子ども目線での理解を進めることができる」といった声もある。

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さらに、DQ World内で回答された内容を元に算出される学校用のレポートでは、週のインターネット使用時間などより大きな単位での統計等もまとめて見ることができる。データに基づいて児童生徒の実態をつかみ、共通認識を育むことで、学校・児童生徒・保護者をつなぐ架け橋となる、と村上氏は強調した。

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(児童生徒の声をみてみると、架け橋となっている様子が伝わる。)

ソフトウェアでの教材として低価格というところも優位な点だと思うが、今年度中、DQ Worldを無償で利用できる実施実験プログラムも実施中しているというので、実際の使用感を知りたい学校関係者は必見である。(詳細は以下のnote記事を参照)

初公開の精華小学校の児童インタビュー動画

次に、ウェビナー参加者が初めての視聴者となる、精華小学校小学6年生の児童2人へのインタビュー動画が放映された。

視聴後は、児童インタビューの背景について村上氏が向井先生にいくつか質問を投げかけた。

・現在学習している学年は何年生ですか?
➡夏休み明け、オンライン授業が多く進捗が遅れてるため、昨年度でいうと3年生から6年生まで(2年生も少し実施)

・具体的にどの時間でどのようなペースで学習されていますか?
➡現在の6年生は、4年生から行っていて3年目。全員DQ Worldは終えているので、ポイントとなる部分はワークブックを照らし合わせながら授業で学習し、それ以外は家でやってもいいことにしている。6年生は、夏までに終わらせようという目標で取り組んでいる。

・インタビューに登壇した児童二人はかなり情報リテラシーが高いと思うが、背景を教えてください。
➡何か起こった時「何でもトラブルとみなして処理をする」のではなく、子どもたちのルール・マナー・モラルに関わってくる事なので、最後まで子どもたちと話ながら進めるのが良いと思う。叱るのとは違うアプローチの仕方があるのではと思っていて、DQを校内にICT機器が拡充するより前にやってよかったとすごく思っている。(児童二人は学年で一番DQスコアが高いそうで、小学4年生からDQ Worldに取り組んでいる)

こんな時どうする?

向井先生は、現在6年生の担任で、3年生から4年間持ち上がって子どもたちを担当しているそうだ。SNSに写真を「載せなければいい」ではなく「変な写真を撮らなければいい」と根本を素直に感じ取った児童の発言が紹介されるなど、学年のリテラシーの高さがうかがえる。

精華小学校では、トラブルはゼロというと語弊があるが、トラブルとして捉えている問題はほとんどない。あくまで、前向きな対話が大切で、設けているルールは以下の3つだけだという。

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また、ウェビナー当日精華小学校で起こった小話はこのスタンスをよく表している。

「オンラインの授業ツールで、ある児童が自分の名前に友達の好きな子を書くという事が起こった。これは、オンラインだから…インターネットだから…どうこうではなく、突き詰めればマナー・モラルに関わることだと先生の間でも意見が一致した。その子には直接、”君は好きな子の名前みんなに公開されたらどう思う?”、”こういうパーソナルな気持ちはみんな秘密にしたいものだろう?”、”公開された相手の気持ちは?”と会話をする時間を作った。」

向井先生は続けて、インターネット機器を使ってのいじめが問題になっているが、インターネットに関わるものは、デジタルシティズンシップだから必要なのではなく、大事なのはシティズンシップの方ではないか、と問いかけた。

「事件があったから…事件がないように…デジタルシティズンシップを学ぼう、ではなく、シティズンシップを核としているからこそ、子どもたちにはデジタルシティズンシップを知ってほしいと強く思う。それは、児童だけでなく、先生・保護者、大人にも共通している。」と話し、向井先生自身も、DQのおかげでマインドセットができたと説明。


DQ Worldは、デジタルシティズンシップの8つのスキルごとにゾーンが分かれている。学年別に学習するゾーンを決めているが、学年によっては、保護者と一緒にワークショップも実施したいと考えているそうだ。

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次に向井先生は、授業中課題をやる前に「お気に入り」に登録している野球ニュースのリンクをいつも確認する児童にどう対応しますか?と問いかける。

今の姿からは想像もつかないが、向井先生は、同敷地内にある中学高等学校のバスケ部の顧問もされていて、昔は叱ってばかりの嫌な顧問だったと思うと振り返る。

その児童に対しては、「ヤクルト何連勝した?」と聞くそうだ。(向井先生はヤクルトファンでその児童は巨人ファンである)甘いと思われるかもしれないが、その子が課題にきちんと取り組むのは分かっているので、ちょっとしたイタズラ心も入れて、その子が集中に入るタイミングや気持ちを不用意に崩さないことが大事だ、と考えているそうだ。

「指示されている以外のサイトを見るんじゃない!」とトラブル化することもできるが、これだけ自由に情報が子どもたちの目の前にあるので、有意義に使ってほしい、と先生たちの意識も変えようとしているという。もちろん、ずっと見てたら声をかけるが、子どもたちとうまく関係を構築しながらインターネットに接している場面を見守るのも大事になってくる、と話していた。

次に、こんなケースもあったという。

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学校ではGoogleアカウントを使っていて、Gmail やチャット、YouTubeも制限をかけていない。夏休み中、アカウントを使っていいと保護者へのお手紙にも記載し、実際子どもたちは、連絡を取り合い、ZoomやGoogle Meetを使いコロナ禍で会えない分のやりとりしていたようだ。

「XXXXはダメだよ、やっちゃダメだよ」と規制するよりも、はるかにトラブルは起きないし、きちんと自分のアカウントを使ってやったことが残る状況で、子どもたちが「ルール・マナー・モラル」を守った行動ができるか、が本来最も重要であるはずだ。また、DQ Worldでも「デジタルフットプリント」として紹介してくれるので児童も「残る」という感覚が理解しやすいと思う、とのことである。

さらに、向井先生ご自身のご家庭での秘話にまで話は進む。

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画像左:オンライン英会話の様子 右:ゲームの様子

お子さんが、3年生の終わりから6年生の今までで2000時間ゲームをしていたことが発覚・・・

「一日5時間やっても400日になる量だ。」と伝えると、負けずに「オンライン英会話だって2000時間やっている。」と主張してきた。苦渋の決断だったが、ゲームを一旦預かり、叱らないように気を付けながら話をした。実際には、オンライン英会話をした時間は2000「分」で愕然としたが、その時間の違いは、親の責任でもあると感じた。

大切なのは、ゲーム没収後。没収するということは、子どもの楽しい時間を奪ったのも事実で、その時間をどう過ごすか、どんなアプローチをしたらいいか、そこが大事で今後につながると考えていた。」と向井先生は話す。

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じゃあ、どうするか。選択肢は・・・

説教…これ以上説教してもしょうがない。
対話…とりあえず話す。
共有…時間を共有。
忍耐…長時間ゲームしたのが悪い。我慢しなさい。

まだまだ、努力・忍耐・根性で全部解決しようとする風潮が教育現場にはあることに向井先生は疑問を持っている。デジタルシティズンシップにおいて、インターネットモラルにおいて努力・忍耐・根性を持ち出しても解決しないのではないか、と。

「今までゲームをたくさんやってきたから我慢しなさい。」とは簡単に言えるが、楽しい時間を奪った以上その時間を取り戻してあげたいと考え、最近一緒に行っていなかったサーフィンへ行った。結局、その日は波がなく持っていたボールで兄弟でひたすら遊んでいた姿を見てホッとし、親としてそういう時間を作ってあげられていなかったことに気づいた。」

「ゲームをやりすぎたのが悪い、では解決にもその先にも進めない。そこは寄り添ってあげる。デジタルシティズンシップも大人と子どもが寄り添いながらやっていかなきゃいけないのかな」と教員としてだけでなく保護者としての想いが垣間見えた。

その次は、学校でのふとした一言がきっかけとなった話。

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当たり前のことだが、小学生にとってみればログアウトも一大作業。

授業終了のチャイムがなり、立ち上がるとともに、

「よっしゃー!終わったらログアウトだ!」

ログアウトをすることが身についている、と感じた瞬間だった。

大人がこうした子どもたちの前向きな声を拾う事で、ICT機器の捉え方、デジタルシティズンシップ、子どもたちの生活がすごく前向きになっていく。こうした姿勢は学校生活そのものと直結しているし、その結びつきをDQが作っているのではないか、と向井先生は続ける。

子どもたちを一番よく知っている先生が無理なく使いこなせる教材であるということ

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DQ Worldに出てくるJJくんは、オンラインでもオフラインでも悪さをする。DQ Worldをやっている児童たちも「ひどい」というぐらいである。しかし、「クラスでやんちゃな児童にも響くものがあるという事は、学校で悪いロールモデルを準備できない分、価値があることだ。もし、JJくんがクラスにいたら・・・担任としては困るかもしれないが。」と向井先生はいう。

そして、児童のペースで学習できることも良い点の1つである。低学年は、保護者から「こんな時どうする?」と投げかけて考えさせる事もできるし、教員のアイディアや考えを伝えることもできる。

全体を通して必要なことを伝えてくれていて、ダメなものはダメと伝えるだけでなく、こうするといいよという事もきちんと伝えてくれる。そのうえで「大人を頼ろう、大人は敵ではなく味方なんだ」というメッセージを伝えてくれる。

ルールに縛り付けると子どもは大人を敵に見がちになるが、インターネットを通してでも大人は味方ということを感じてほしかったので、それがすごく詰まっているのがDQの良さだ、と向井先生は話す。

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最後に、インターネットモラルを学ぶのはとても大事だが、教員として願うのは何より、子どもたちが健やかに楽しく学校生活を過ごすことである。

先生のあたりまえが子ども(家庭)でのあたりまえではないというミスマッチもあり得る。しかし、DQ Worldを扱うことで、子どもたちのそばにいる先生自身が子どもたちの視座をよりよく理解するきっかけになるので、DQ Worldは指導しやすい教材なのだという。向井先生は、そうしたマインドセットで意識するきっかけを作ってくれたDQ Worldを進めるのがこれからも楽しみである、と締めくくった。

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