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【学校インタビュー】お行儀のよいiPadの使い方とは?立教小学校のデジタルシティズンシップ教育に迫る

経済産業省の令和 2 年度 3 次補正 学びと社会の連携促進事業費補助金(以下、EdTech導入補助金2021)による実証導入をきっかけに、DQ Worldを用いたデジタルシティズンシップ教育を先導する立教小学校 メディアセンター長 石井輝義先生にメディア教育にかける想いや活用のヒントについてお話を伺いました。

プロフィール

立教小学校 メディアセンター長 情報科主任 石井輝義氏

情報科教諭。立教小学校のICT教育プロジェクト委員会委員長を務め、ICT環境の整備に取り組む。2015年、Apple製品を用いて、先端的な教育を行うApple Distinguished Educatorに認定。

①立教小学校におけるICT教育の歴史

立教小学校の場合、6年生は2013年から、3年生は2014年一人一台端末を導入し始めました。なので、2017年4月の時点で3~6年生は完全に個人持ちのiPadで、かなり早い段階から一人一台ということを念頭に置いてICT教育を進めてきたんですね。

ICTで学びを新しくしていくっていうことはもちろん大切なことなんですが、タブレットなどのデジタルデバイスの使い方って誰も教えてくれないですよね。大人だと講習会に行ったり、講座などを受けたりすると思うんですけど、実は子どもたちにはそういう場を設けられていないですよね。

タブレットが2013~2014年ぐらいから爆発的に普及してきたんですが、「その使い方、要するに”お行儀よく使う”っていうことの面をですね、どこが教えたらいいんだろう?これは実は、その次の時代の学校が担うべき教育的な課題になっていくのかな」というふうに論拠を立てたんですね。

要するに、子どもたちがデジタルデバイスをお行儀よく使うために、我々は、iPadを導入することで教育的な活動を展開していくんだという論陣を張ってですね、他の先生方を説得して、一人一台教育に進んでいったという流れがあるんですね。

一人一台端末環境になってから、DQを導入するまでの間、どのような指導をされていましたか?

僕は1年生から6年生まで年間10時間ぐらいずつ(3年生だけ30時間)持っているんですけど、まずiPadに関するマニュアルを作って、そのマニュアルに基づいて説明をしていきました。その中で一番大切にしているのは、「できることでもやってはいけないんだよ」っていう意識を強く持たなきゃいけないということなんですね。

例えば、「iPadを持っていたら写真をどこでも取れる。でも、だからといって、どこで写真撮ってもいいことにはならないよね。」ということを伝えます。「コンビニに入って人がいなかったからといってお金を払わないで物を持って帰っていいですか?」と問いかけると、子どもたちがダメと判断できるんです。「それでは、iPadだったら、どこでも写真を撮っていいという理屈はどこから出てくるんだろう?許可を取らないと写真は撮っちゃ駄目なんだよね」という流れで話しました。

「マナーブックfor using iPad」という教科書のようなもので、最初は一般的な使用ルールを示すルールブックっていうものを作ったんですけど、2017年の段階でマナーブックっていうふうに名前を変えたんですね。ルールを守れるということは「マナーがある」ということで、そのマナーが駄目な人は根本的に問題があるんだよ、というモラルの部分が重要だからです。

これからの時代は、できることがたくさん増えてしまった分、子どもたちはできることでもやってはいけないっていう意識を強く持っていかなければいけない。それをきちんと伝えるため、子どもたちに今までマニュアルに基づいて、授業の中で説明してきたような形ですね。

②デジタルシティズンシップ教育への移行

立教小学校では、2021年2学期の最初、9月下旬までオンライン授業だけだったんですね。なので、僕が作ってる情報モラルプロジェクトっていうサイトの中で、まず文部科学省制作の動画を視聴できるようにして、動画の内容や感想のメモを作って提出させるということをしていました。

情報モラル教育で、こんなのが危険だよっていうようなことを言われてますけど、小学生ではそういった知識さえない場合もあります。なので、まずは「こんな怖いことがあるんだよ、気をつけなきゃいけないことがいっぱいあるよね」ということを子どもたちの意識の中に作っておいて、その後にDQ Worldで、どうしたらそれが起こらないように生きていけるのか、というところを学んでもらおう、と作戦を組んだんですね。

情報モラル、デジタルシティズンシップといっても、どういう項目を学ばせればいいのかっていうのがなかなか具体的に出てこないのが通常課題ですが、DQ Worldの場合は、最低限押さえるべき8つの段階というのが明確に示されていて、子どもたちとしては、非常に学びやすく、教職員としても取り入れやすかったです。

DQ Worldに初めて触れた時の児童の皆さんの反応はいかがでしたか?

子どもたち目線では、インターフェイス的にゲーム感覚で進めていくっていうところがあるので、何をやるのかはよく理解できてなくても、やりたいなという意識は非常に高かった印象ですね。いわゆるロールプレイゲームのような形で学習を進めていけますので、その辺は非常にやりやすかったんじゃないかなというふうに僕は考えてるんですけれども。

情報モラルの動画を見てるときには、「インターネットに繋ぐのが怖くなった。怖いことばっかり書いてあるので、インターネットって怖いことが多いのかな。」と言っていた子どもがいましたが、ある意味で「DQ Worldでは課題に対する解決方法を与えてもらっている、というところに気づいた子どもが何人かいたのは印象的でした。

デジタル世界の中で、「悪い人はいっぱいいるけれど、デジタルシティズンシップで乗り越えていけるんだよ、自分の命は自分で守らなきゃいけないんだよね」っていうところは、子どもたちがの自発的な気づきとして出てきたところですね。

DQ Worldのデジタルシティズンシップの中で特にクリティカルシンキングなどは、デジタルシティズンシップに関する内容だけではないというふうに考えています。クリティカルシンキング自体、直接デジタルに繋がることだけではなくて、生活全般に関わっていく側面もあるなという感じているので、そういったところも指導の中で広げやすいのではと考えています。

③EdTech導入補助金2021での実証の結果

DQ Worldの導入前に児童が回答したアンケートでは、過去1年間になんらかのインターネットに関するトラブルに直面した児童が19.7%いることが分かりました。トラブルのカテゴリーとして一番多かったのは、回答数が多い順にデジタル世界を生きる市民としてのモラルに関する分野、ネットいじめに関する分野、サイバーセキュリティに関する分野です。

具体的には、チャットで友達と問題があった、またはゲームをしていて知らない人との間でトラブルがあった、という回答が一番多くみられました。また、セキュリティの分野では、あまり見てはいけないようなサイトにアクセスしてしまった、または、広告などのページに飛んでしまった、という事例が多かったです。

事後アンケートを見ると、DQ Worldの導入後なんらかのインターネットに関するトラブルに直面した児童は、7.7%となっています。一番多いトラブルのカテゴリーは、スクリーンタイムに関する分野、プライバシーに関する分野、ネットいじめに関する分野です。一方、プライバシーの扱いでトラブルがあった児童以外は、現在直面しているトラブルの状況が改善していると回答しています。

肌感覚としても、友達同士で仲間外れにするなど、オンラインゲームに関する問題は例年5年生で問題になりますが、DQ Worldを導入してそういった子たちが思ったより少ないという感じもしています。DQ Worldでの学習を終えて、「トラブルに巻き込まれないように気を付けつつ、上手に使っていきたい」とコメントをしているのが印象的です。

DQ Worldについて保護者の方から何かご意見はありましたか?

同アンケートで、DQWorldやインターネットの使い方に関する保護者との会話の有無について、導入前は70%近くが「会話あり」と答え、導入後は、全体の3割強が「会話が増えた」と回答しています。

具体的に、「個人情報は教えない」、「広告やポップアップが出てきた時、自分で判断できない場合はすぐに押さずに相談する」など、先ほど児童が直面するトラブルの例として挙がっていた項目について、きちんと会話が出来ているようです。こうしたコミュニケーションと基礎的な知識が身についてきているからこそ、大きな問題なしに端末の活用を進められているのではないかと思います。

学校から家庭でこうしてくださいっていうことを立教小学校では原則言いません。端末の使用時間などはご家庭によって様々だと思うんですよね。例えば、外出するときには危険なので端末を持っていってはいけません、というご家庭もあるかもしれないですし。

ただ、親としてはルールをきちんと決めておかないと駄目とも言えません。なので最低限家庭で話しておくといいことだけ、マナーブックに書いて保護者に伝えています。例えば、iPadを充電する場所はどこか、などです。自分の部屋でということになれば、寝ているふりをしてiPadを使うことができてしまいます。それを防ぐためにも、例えばお父さんとお母さんが管理できる居間で充電をする、などルール決めのポイントをお伝えしています。

④デジタルシティズンシップの重要性を感じ始めている学校へ

私は社会科が専門ですが、社会科的な発想として最初に社会科を作ったときに捉えられていた市民教育という側面を、デジタル機器を切り口にして学びに繋げていくという点に意義を感じています。公立校で言うと、道徳教育などと結びつけた展開がしやすいのではないかと思います。

新しい学びを作り出していく、ということは確かですが、それは子どもたちがこれからのデジタル社会で生きていくときに、創造性やクリティカルシンキングなどを取り入れ、デジタル機器をアウトプットのツールとして使っていくということともいえます。それには当然のことながら、デジタル社会で生きていくためのモラルが必要でしょうし、小学生ですからそこでのお行儀というものを、まず第一に身につける必要があるのではないでしょうか。

立教小学校では、こうしたデジタル世界の一員としての在り方を考えることができるというDQ Worldの話を聞いて、まずやってみようという流れになり、今は子どもたちが自分で学習を進めています。次年度以降は、DQ Worldの8つのスキルが身についているということを基準にして、子どもたちへの指導や指示の仕方を考えていければと思います。学んだことと照らし合わせて、身についていない場合は、その理由や改善の補助をしていく、それが教員としての立場になっていくのではないかと思っています。また、長期的な視点では、現在DQ Worldを導入している4年生と5年生に加え、1年生でも導入し、その補助をDQ Worldをマスターした6年生がする、といった異学年交流を通じて、学びを段階的に深めていく構想を練っています。DQ Worldは、ニーズに合わせて柔軟で多様な活用ができるので、立教小学校の事例が他校の参考になれば幸いです。

―――ありがとうございました!


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