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【日々】あたらしいお正月|二〇二二年から、二〇二三年へ




二〇二二年十二月二十九日

 街がだんだんと静かになってきている。列車の客もすこし減ってきたようだ。いつもは閑散としている時間帯でも飲食店街がかなりの賑わいをみせている。オフィスではそこここで、「よいお年を」が飛び交う……。

 仕事を納めて会社を出ると、社会をはなれてひとりのはだかの人間となって帰るべき巣へ戻ってゆくような、解放感とも孤独感ともつかないようなきもちになってゆく。これから数日は、ゆっくりと時間の流れを味わいたい。宇宙のいろをした夜の空には、半分くらいのすがたをした月がのんびりと寝転ぶようにひかっている。



二〇二二年十二月三十日

 建築家の磯崎新が亡くなったという。机を片付けながらかけていたラジオから聞こえてきたニュースに手が止まる。つい昨日読み直していた『深夜特急』で、若き日の沢木耕太郎がテヘランのホテルで磯崎夫妻にしこたまご馳走してもらうという話を読んだばかりだったというのに……。




◇ ◇ ◇


二〇二三年一月一日

 七時前に目が覚めた。急いで東の空を見ると、地平は鮮やかなオレンジに染まっている。でも、まだ「きょう」は生まれていないようだ。凍えながらも待つ。ソワソワと。そして……出た!ベランダにまろび出て、地の果てから強烈に弾けた陽光を全身に浴びた。美しい、なんてうつくしいのだろう。そして、力強いのだろう……!


 あたたかいほうじ茶を淹れて、音楽ライブラリから坂本真綾がカヴァーした松任谷由実『A HAPPY NEW YEAR』をチョイスする。ぼんやりと窓の方を見やると、あのうつくしい陽光が、カーテンの合間から薄暗い部屋に差し込んで、光の柱をつくっている。流れるおんがくのほかには音もなく、世界はしんと静まりかえっている……。


 早起きが致命的に苦手なわたしが、どうしたことか初日の出を拝んで、こうして早朝の空気を味わっている。こんな一年の幕開けは、記憶する限り人生で二度目。二〇二三年は、ひょっとすると素晴らしく面白い一年になるかもしれない。



二〇二三年一月三日

 ごはんをたべて、ちょっとお酒ものんだりして、満ち足りたきもちでうとうとして、目を覚ますたびに順位が変わっていたり、記録が出ていたり、何らかのドラマがおきている。夢うつつをぼんやり行きかいながら、途切れ途切れにたのしむ。わたしにとっての箱根駅伝の愉しさは、そういうところにある。陽光をはねかえして光るアスファルトの、塗りつぶしたように見事な白の中を走るランナーの図像が、眩しいような美しさで写る。

 大晦日から元旦にかけて過ごした時間には、いままでと地続きだけれど、すこしちがう色が混ざり始めていることが感じられた。紅白も井之頭五郎もみたけれど、いつもしない早起きをして日の出を見て、初詣もした。隣には、あたらしい家族がいる。二日三日は、慣れ親しんだいつものお正月。幼少から育った家で、なんにもしないで、たべて寝て、毎年観ていたテレビをみる。両方たのしんだから、それぞれの違いと自分の変化にも目がいく。


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