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日記ふうエッセイ【ひび】

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生活のスケッチ
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#生活

【日々】秋の風、お月見|二〇二三年九月

二〇二三年九月二十四日  朝、ふと振り向いたひょうしに首から肩にかけての痛みが久方ぶりに再発した。買いもののために駅前へ出てゆく。陽射しはあるけれど風は爽やか。Tシャツを通りぬけてゆく風に乗って洗剤の芳香がたち、髪がゆれてシャンプーのにおいが鼻先をかすめる。首の不調が気になって買いものはあまりできず、おまけに引き取るつもりでいたクリーニングものはそっくり忘れて帰ってきた。  朝はホットコーヒーをいれた。午後は、アイスコーヒーになった。くちびるがかわいて、ちょっとひび割れか

【日々】夏にほろ酔う|二〇二三年七月

二〇二三年七月一日  遅刻寸前になってしまったので駅までバスに乗る。途中から山のように中高生が乗ってきてギョッとする。土曜日、午前で終わりだもんなあと、あまりに遠くなった学校生活を思いかえす。みんなiPhoneを持ち、ワイヤレスイヤホンをし、ショート動画やアプリゲームを絶えず触っている。親御さんは大変だろうなあとおもう。車窓から、近所の大学生らしきカップルが、にこにこハイタッチしながら別れてゆくのがみえる。  土曜日のオフィスは人も少なめで、のんびりしている。わたしだけが

【日々】もう旅に夢はみない|二〇二三年五月

二〇二三年五月二十九日  生活。ああ、そうだなとおもう。あわい色をした、輪郭の薄いくらしのスケッチ。そのなかで時折、四季の花々や、グリンピースや、にんじんが、ハッとする鮮やかさで散りばめられている。このひとのつづる暮らしは、淡々とうつくしい。そしてその底にはずっと、ちょろちょろと絶望や哀しみが流れている。そんな在り方に強く惹かれている。 *  会社で健診を受けたら、背が二センチも縮み、おまけに不整脈だから病院へ行けと言われる。今にも死にそうなよぼよぼのおじいさん先生がふ

【日々】いつか、小さなサーチライトを|二〇二三年三月

二〇二三年三月九日  きのう落合さんに褒めてもらった嬉しさがまだちょっと尾を引いている。家路を辿る中央線の車内、目線の先にいた女の子の、カーキ色が小粋なブーツカット・パンツに見惚れる。かっこいい。暗いグリーンからカーキ、イエローにまでわたる、髪色までつかったコーディネートがイカしてる。  よく寝たはずなのに、きょうはやけに頭も身体もおもたい。家に帰ると鼻水がとまらなくなった。ふつう逆じゃないかい。 二〇二三年三月十一日  十四時四十六分はきちんと見届けようと思いつつ、

【日々】ちょっとずつ澱んでいく|二〇二三年二月

二〇二三年二月二〇日  夜明けに小走り。学生のころの、合宿の朝を思い出すにおい。国分寺で中学以来の旧友Eと落ち合って、カーシェアで確保していたクルマに乗りこむ。新小平の高倉町珈琲に入ったら、いつものようにモーニングをとる。  最近引っ越してふたりぐらしを始めたかれは、「自分で作った方が早い」とほとんどの家具をDIYしているらしい。その軽やかさをあらためて見直して、まぶしいやらおのれが情けないやら。圧倒的敗北感。自分も思想だけは似たようなことをかんがえるようになったけれど、