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今度の文化祭では、文芸部が文化系部活の一番を取りに行くよ。#シロクマ文芸部

『文芸部オタク部脱出計画』
「もう、文芸部をオタク部なんて言わせない。」
呆気に取られる後輩部員に向い、夏川先輩は言い放った。

「今度の文化祭では、文化系部活の一番を取りに行くよ。
そのためには、 life is live なの」と熱く語る。

進学学校の僕らの文化祭は、毎年6月に行われる。
高校3年の先輩達は6月の文化祭を迎えてから引退する。
夏川先輩もこの時を狙っていたのだろう、文芸部の天下取りを狙っている。
毎年の文化祭の運動部と文化系部の各部から、
最も人気があった部活が表彰されるのだが、
軽音部、演劇部を差し置いて、我らがオタク部こと文芸部が頂点を握れるのだろうか?

夏川先輩は、部室の真ん中に立ち

「文芸部と称して、部室や図書室に入りびたり、
本棚に並ぶ背表紙を目で愛でめでて、おもむろに、細く長い指で、その背中をなぞる。一冊の本を選んで手に取って、愛撫するように物語を楽しんでいるそこのあなた。あなたは、自分の魅力をわかっているの?」

「えっ、僕ですか?」僕は、もう蛇に睨まれたカエルだ。

「眼鏡、眼鏡を取ってみせて。」

夏川先輩に言われて、僕は、おずおずと眼鏡を外す。
ツカツカと先輩が近づくが、僕の視界はボヤけて仕舞いよく見えない。
何せ裸眼は0.03〜5も見えていれば良い方だ。

夏川先輩の顔が僕の顔と向かい合う。
流石にこの視力でもドキッとする。
僕の鼓動が先輩に聞こえて仕舞いそうだ。

「ほら、やっぱり」
何が?と途方に暮れる僕をおいて、
「山田くんありがとう」と言うと、続けてみんなに提案する。

「わたしの計画を聞いて欲しい、
山田くんを文芸部の看板男子に仕立て、学校公認の文化祭SNSに毎日投稿するの、Instagramでは写真をメインに、Twitterでは140文字いっぱいに
山田くんの魅力を載せて発信していく。」

ちょっと後輩から文句が出そうな提案を夏川先輩は説得するように言う。

「わたし達は、言葉によって表現される芸術を広めるために、この文芸部に集められた仲間だと思う。自分の内側に向かう作業をして、心血しんけつを注いで書いてきた作品の一つ一つが素晴らしい。」
「楽しい作品、心温まる作品、悲しく淋しい作品、ホラーにファンタジーにSF、エッセイ、詩歌、短編、長編、みんなどれもいいのに、埋もれていっちゃうんだよこの3年間で。」
「悔しんだよわたしは、だから、もがけるだけもがきたい、やれるだけやり切りたい、わたし達文芸部のファンをつくろうよ。」
「もしかしたら、わたしのやり方は間違っているかも知れないし、
わたしだって迷っている。だけど、今だけはわたしに時間を預けて欲しい。頼む。」

頭を下げる夏川先輩に、誰も異論を唱える者はいなかった。
むしろすすり泣く音まで聞こえてきた。

「やりましょう先輩。わたし、写真を担当します。実は、写真にも興味を持っていたんです。山田くんのInstagram担当します。ついでに、写真と文芸のコラボを企画しても良いですか。OKなら、写真部にも掛け合ってきます。」

「先輩、俺にTwitter担当させて下さい。元々140文字の小説を個人的に挑戦しようと思っていたんです。
それに、俺から提案なんですが、文化祭当日に、
その場で『あなたに贈る140文字の小説』と題してライブで書き上げていくって言う企画も面白いと思うんですよね。」

「それいいね、人気出るよ。」

「わたしもいいですか。山田くんのファッションを由香里と一緒に担当させて下さい。実は、わたし達も密かに『山田くんいいよね』って話していたんです。今日の先輩の発言に、鳥肌がぞくぞくしました。キャッ。」

「夏川さん、提案ですが、漫研とコラボしましょう。
山田をBL風に描いてもらって。訪問した客に手渡ししましょう。
山田を目当てにくる客も出てくるかもしれない。山田いいよなぁ。
まぁ、嫌とは言わせないけど。」

「流石、宮森君、その企画力と有無を言わせ無い推しの強さ、素敵。」

「それほどでも、企画力は夏川さんには敵わないよ。ハハハ。」

盛り上がる、文芸部の部室。
繋がる絆。
青春している実感。
文芸部最高!!

当の僕はおいてきぼり。
「ちょっと待ってみんな。」僕の一言、振り向くみんな。

「あのぉ、客寄せのターゲットが女子じゃないですか、
男子をターゲットにする企画はどうするんですか?」


「…」


「ですよね…」

文芸部員のメンツを見てから言えばよかったと後悔した。

まあ、何はともあれ、今年の文化祭は文芸部史上最高に熱くなりそうだ。
文化祭までの1ヶ月、
『実は5月も暑いんだよね』とワイシャツのボタンを二つ外す僕。






最後までお読みいただきありがとうございました。
こちらの作品は、
小牧幸助様のサイト
シロクマ文芸部の今週のお題に参加させていただきました。
素敵な企画、素敵な出会いをありがとうございます。

タイトルのイラストは
そらみみ 様 のイラストを使わせていただきました。
そらみみ 様 ありがとうございます。





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