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46才のミュージシャンが慶應大学受験を突然決意し、3ヶ月の勉強の末受かった話。11

前回まで

 突如世界史にハマり、慶應大学受験を決意した私CUTT。試験初日で得た教訓を胸に、遂に志望の文学部受験に向かいます!

遂にこの日が!

 11月に突如として世界史にはまり、3ヶ月の勉強の末、遂に本番の日を迎えました。この日のために準備してきたのだと思うと、なんだかライブ当日のような、気合の入った心持ちになり、勇壮な脳内BGMと共に試験会場に向かいました。
 しかも! 会場は2日前と同じ、勝手知ったる日吉キャンパスです。

「会場に入る前に飲み物が欲しい? それならここに自販機あるもんね。僕知ってるもんね」

 と、たかだか2回目のくせに常連気取りです。初回とは心の余裕が違うのです。

 先日の失敗を繰り返さぬよう、今日はステテコ的アンダーウェアもしっかり装備しており、下半身への信頼感もばっちしです。なんだったらビニール手袋も持参して(使いませんでしたが)手指の凍えにすら備え、万全の体制であります。

様子が違う…? まあいい!

 自分の受験番号に割り振られた教室に向かうと、そこは2日前の大教室とは違い、僕が中高時代に親しんできたような40人ほど収容の教室でした。しかも席は中列中段のど真ん中。

 「むう…これは…、ずいぶん暖かいじゃないか」

 やはり自分の一度きりの経験で全てを知ったような気になってはいけませんね。そりゃそうです。暖かい教室だってあるんです。
 満を持して履いてきたパッチ(ステテコ)が仇をなしかねない気温ですが、それでも寒いよりはいいのだ! と言い聞かせ、ブックオフでゲットした辞書2冊をどどっと机の上にスタンバイし、1時間目の英語、試験開始を待ちます。

 歩いて入室したばかりの時は正直

「あっつ!」

 と思いましたが、落ち着いてくると年相応に冷えてきまして、結局は今日も上着をスカート上に巻き付けるスタイル(ちなみにそのスタイルでOKかどうかは毎試験開始前に試験官の方に確認してもらいます。仕事を増やして申し訳ない)で臨むことになりました。
 やはり履いてて良かった僕らのパッチ(ステテコ)なのでした。

1科目目 英語

 試験開始の合図と共に問題を読み始めると、今年の問題も興味深い文章で、テイストも馬が合ったというか楽しく進められ、答えていく事ができました。

 和訳が大きな肝となる(と僕は思っている)文学部の英語試験ですが、前日まで色々と検討した結果、どれくらい意訳するかというバランスは、

「この文章の日本語版が商業的な書籍として出版物されていたとして、自分が読みたい和訳」

を方針にしました。

 そうすると中にはかなり言い換えが多くなり「大丈夫かな…」という問題もあったのですが、もうこの際「私はこう訳すべきだと思うのです!」という勢いが伝わってくれるよう、願いを込めて解答していきました。

マスター! マスター!

 文学部の英語は試験時間が120分とたっぷりあるのですが、和訳や説明を考えていると決して余裕のある時間では(僕にとっては)ありません。最後の問題にかかる時には、もう迷ってなんかいられないという残り時間になっていました。

 例年、最後の問題は日本語一文の英訳だったのですが、今年は自由英作文になっていて、お題は

 「あなたのは何のマスター(達人)ですか? あなたが習得したスキル、または習得しようとしたスキルについて説明しなさい」

 というものでした。

 うーん、マスター?

 普通に考えると、私はこれまで30年余を音楽に費やしているわけなので、音楽と書くのが最も近そうですが、やはりずっとやってきている事柄だけにそう容易く"マスター”しているとは言い難い気持ちがあります。だいたいそう書いても面白くないかも…。
 しかしゆっくり考えている時間はありません。必死で自分に問いかけます。

「俺は何のマスターなんだ?! 考えろ! マスター! マスター!」

 と、ヘヴィメタルバンド「メタリカ」の名曲のような調子で自分を追い込んでいる間にも、時計の秒針は進み続けていきます。もう悩んでいる時間はない!

「おれは… おれは…、俺は "若き魂" のマスターだ!」

 アドレナリンが出まくった私の脳が叩き出したのは、上記のような文句でした。なんだそれと冷静な自分もいましたが、なにせ時間がないのです。もうこれで行くしかない!

 というわけで時計の針を横目に書いていきます!

「えー、私はいわば"若き魂"のマスターでして、新しい事を学ぶことに貪欲でありまして、最近は世界史と恋に落ちまして、それで47歳(焦って年齢間違えた)だというにも関わらずこうして貴学に入学するために、時計のチクタクを眺めながら受験をしているという次第でございまして…」

 この辺でもう記入欄は埋まっていたのですが、これではあまりにも具体的な内容がないじゃないかと思い始め、悪あがき的にものすごく小さな字で

「で、でも音楽もフルタイムで数十年に渡りやっておりまして! いつかは音楽のマスターになりたいと思っているような次第でございます!」

 と、文字でも伝わるような早口で捲し立て終えたところで、時間終了となりました。

 最後の最後でものすごくアドレナリンを使ったので、終わった時は体から蒸気が出ているような気持ちでしたが(やはりパッチのせいでしょうか)、ベストは尽くしたで!という気持ちで清々しく英語の時間を終える事ができました。

次回の更新では

 予定では今回で試験は終わるはずだったのですが、長くなってしまったので、メインの世界史受験は次回に譲りたいと思います。

 このシリーズもあと少し、なんとか飽きずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!

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