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【ライブレポ】Finally One-Man Live「-Next,Attract,Piece-」

ゆくゆくは武道館公演を夢見るグループです。
「まだまだ立ちたいステージがある」
二部構成のライブの第二部終盤、一日の締めくくりとなるMCでメンバーが語り出しました。
そこにはもう一つの夢が添えられていました。

「まだまだ届けたい歌がある」

部活的な一生懸命さやひたむきな努力を見栄え良くラッピングして売り物にするのは、ありきたりな手法です。
悪く言えば手垢にまみれた、よくあるアイドルの売り出し方と言えるかもしれません。
しかし彼女らにとってはそんな過程は問題ではありません。
登りつめていくまでのストーリーを見せて共感を募るのではなく、自分たちから発せられる曲を聴いてほしい。
歩んできたストーリーは全く無視されるわけではなく、例えば歌詞の題材になることなどもあるかもしれませんが、真意はそれに包まれたさらに内側にある。
全員がクリエイターであるFinallyにとっては、売れることやそこまでの道のりを見せて共感を得ること以上に、伝えたいけれども表現しきれていない思いを形にできるかどうかのほうに力点を置いているのだと、少なくとも自分は感じました。

2023年3月26日(日)、湿気混じりの新宿BLAZEに6人組アイドルユニット・Finallyがやってきました。
ワンマンライブ「-Next,Attract,Piece-」。

Finallyの最大の特徴は、セルフプロデュースのグループであるということ。
楽曲の振り付けや歌詞作り、デザインあるいはステージ構成など、6人で知恵を出し合い、互いの得意分野を持ちより築き上げて行っているダンスロックグループです。
メンバーは元々別名義のグループとして活動していましたが、2021年7月に今の「Finally」として再デビューしました。
Finally結成から1年半。
この日が初めてのフルバンドセットでのワンマンライブです。

アイドルとは何だろうか。
時々考えることがあります。
頭の中でぼんやりと設定していたアイドルという枠に触れそうなグループ・あるいはコンテンツに出会った時、答えのない定義がふと頭をよぎります。
多様性の潮流もあいまって、四隅を突いてくるグループは増えました。
いままでより厳格ではなく、ストライクゾーンを広げねばと思うこともしばしばあります。

Finallyは、いい意味でアイドルっぽくないと言われます。
初めてライブに行った自分も、それはすぐに感じました。
寝技のかけ合いのごとくバンドの演奏とマイクに乗った歌声が軋み合い、この日限りの著名なバンドセットに囲まれたメンバーは声量を増していきます。
覆いかぶさってくるように音はやってくるのですが、耳を直接刺激するのではなくまず顔全体にまとわりついてから、吸い込まれるように耳に収まっていきました。
カップの縁をぐるぐるしながらやがて速度を失って落ちていくゴルフボールのように、ちょっとした抵抗を経て入ってくるので、姿勢のうえでは声を張り上げていてもキンキンとくるきつさはありません。
よく見ると、マイクと顔の距離を遠ざけたり近づけたりして手動で音量調整をしています。

どっと動くたびに熱がこもり、身体の表面に浮き出てきた水分が細かい粒子となって絶えず気化して行く場内で、バリバリと乾燥した伴奏の音は湿度とは無縁のようでした。
時折、ボーカルから何かが破れるような音が聞こえてきました。
模様替えの時、障子に指を突き立てて破ってしまった音に似て、わずかな背徳感を残しながら決算を済ませたときの爽快感を覚えます。
貼る作業の苦労がよぎるから壊すときにより気持ちいいとも言えるのでしょう。
Love me for who I am」ではリバーブを効かせ、他の曲に比べて出力は抑えめにするという工夫も見られました。

ダンスはこれまたバンド陣と競い合う一方で、ときにキック音に合わせて打ち付けられたように身体を揺らすなど、後押ししてくる音を利用もしながら協奏していました。
基本的に照明は抑えられ、背景もFinallyのロゴマークのみで、ステージを加工し増幅する華美な装飾は控えめになっています。
黒い背景を背に動き回るメンバーだけがその周りに白い縁取りを携え、素の姿としてくっきりと見えました。
バンドとの対戦のような協力がより真に迫っていきます。

同じ打点で蹴り上げるハイキックや、片足を投げ出して片手でつま先に触ってみせる「We are Finally!!!」の柔軟性、唇に指をやって彼方へ放る振り付けのような、バンドと競る剛直さもありながら淡さも顔をのぞかせるダンスは、死角が殆ど無いように見えました。
ガラスの上を滑るような横への移動は、動く歩道のマイムかと思ってしまうほど上体が動いていません。

これまでの白衣装の昼公演と、初お披露目の衣装だった夜公演とで大きく味わいが違ったのは「ロッケン」こと「Rock'n'Roll Shooter」でした。
夜はひと足先に深夜のクラブにいるような、倒錯していく感覚。
緑がかった光沢のある青で色どられた新衣装の解禁を昼ではなく夜に合わせてきたのは、おそらく考えてのことなのでしょう。
たしかMegさんが昼の後のMCで「夜は...内容が...」と奥歯にものがはさまった物言いで夜の告知をしていたのは、昼と夜でセットリストを変えてくるというだけに留まりませんでした。
白昼から暗闇へ。
半球の下側をぐるっと回し、それまで影だった部分に光を当て、両部で全貌を見せてきたのでした。

メンバーのパーソナリティーはほとんど知りませんが、MCトークだけでも、Aoiさんなどが攪拌子になって徐々に笑いが広がっていく仲の良さは伺えました。
それでもパフォーマンス中、過度にアイコンタクトを取っているのが少ないように感じたのは、互いの力量をよく把握して信頼した上で、意識して若干のピリつきを作っているのかもしれません。

一方で、まだまだこんなものではないというゆとりも感じます。
初めての自分でも、まだまだ行けるだろうと思ってしまうほど、どこかに余白を残しているような気がしました。

メンバーにしてみれば、100%やそれ以上を絞り出しているのだと思うのですが、なにせ余裕そうな表情を貫く姿だったり、靴底がはがれてぶらんとした状態になってもすぐには捌けずにパフォーマンスを続けようとしたRinkaさんなどを見ていると、少なくとも努力賞狙いのステージには見えません。
不完全なところをさらけ出し、それを補おうとする努力も込みで見て欲しいというのではなく、初めから結果のみを求めています。
凄く高度なことをしているはずなのに、サビなどは部分的にテンポを緩めにして分かりやすい振り付けをすることもあります。

右手、左手と順に拳を伸ばし、両手をレバーを引くように下げてから銃の形にした右手を掲げる「走れ」だったり、「We are Fially!!!」ではランニングマンみたいな格好をしていました。
ポカンと見つめさせるだけではなく、身体ごと音楽に入ってほしいというような”比較的”易しめな振り付けがたまに出てきます。
その隙間には、頭で理解しようとしても到底無理だと諦めてしまう難解なブリッジが挟まれていたりもするのですが、まだこれなら真似できそうと思い、見よう見まねでコピーしてみます。
「走れ」のサビの振り付けは、自分にFinallyをご紹介頂いた灰色さんの楽曲紹介にて書かれていた「バトルゲーム感」「エネルギーをチャージ」する様子の表現だと思うとしっくりきました。

こうした、随所に出てくる真似のしやすい振り付けには、単なる成果の発表会で済ませないという心意気を観た気がします。
言葉の上では同じように見える”ボス”と”リーダー”は、じつは似て非なるものだと言われます。
その点でいえば、Finallyのライブの進め方は疑いようもなくリーダーでした。
恥ずかしさや気まずさという薄皮を一枚ずつはがし、心を裸にした上で音楽空間に導いてくれます。

「アイドルとは」。
冒頭に投げた自問に戻ると、Finallyのライブを観た人の多くは「アイドルの枠ではもはやない」グループだと思うはずです。
6人ともプロデューサーの一員であるという点で、その他多くのグループとは明確な線が引けますし、名だたるバンド陣を抑えてしまうパフォーマンスの隙のなさも、フロアの火のつけ方も、楽器を持っていないだけでプロのバンドマンやアーティストの風格が漂っています。
KEYTALKの八木氏がサポートドラムだと知ったからこのライブに足を運んだところも何割かはあったのですが、ドラムプレイに注目する時間はほんのわずかでした。
ほとんど手前のメンバー、それも八木氏側だからと立っていた下手側にのみ集中しています。

暇に飽かしてフロアのお客さんを人間観察のごとく見ていると、パッと見で類型化してしまうのは単純かつ大変失礼なことだと思うのですが、自分がよく行くようなライブアイドルのそれとは雰囲気が違う気がしました。
ライブアイドルに手広く食指を広げ、渋谷道玄坂やそれこそBLAZEに通い詰める方々とはまた違った空気感があったのでした。
ディッキーズのパンツをはいたいかにもライブキッズといういでたちの方や、ややいかつめの人、ライブというよりはコンサートに着たような装いの方もいます。
わりあい女性が多めなのも驚きました。
種々雑多です。

メンバーが活動を振り返りながら「イナズマロックフェスから知ってくれた方も多いと思う」と口にしました。
言わずと知れた滋賀での一大ロックフェスですが、昨2022年の「イナズマ」に、当時結成1年ちょっとのFinallyが出演していたのでした。
イナズマがきっかけでファンになった方も多数いるようです。
確かにTwitterでまわってくる見ず知らずの「Fimilly」(Finallyファンの総称)プロフィールを覗いてみると、イナズマからという人がやけに多い気がします。
灰色さんもその一人だったはず。
メンバーがわざわざ挙げるくらいですから、統計を取ることは出来ないにしても相当な数の方の心を捉えたのでしょう。

その多くは恐らく、邦ロックにしか興味がなく、アイドルに対しては色眼鏡で見ていたような人達。
アイドルなんてどうせ...という方の目線をFinallyは単身で変えてしまったのでした。
確かにイナズマは影響力が大きいですし、出ることによって受ける反響は並みのものではないと思います。
しかし、邦ロック好きに受けそうなロックを可愛い子たちが、単にガワだけをそれっぽくして歌って踊っているだけだったら、メンバーが言うほどまでファンを呼び込めていたでしょうか。
やはりそこには実となるパフォーマンスがあってこそなのでしょう。

6人は多様性を踏み台に異端をやっているつもりではないと思います。
アイドルという職業の価値を最大限にまで利用し、ロックやポップスなどを融合した「音楽」を全身で表現しているのだと感じました。

もしメンバーの出会うタイミングがずれていたら。
あるいはその時ドラムスティックやギターを抱えていたら。
別の道や売り出し方を選んでいたのかもしれません。

しかし今はロックアイドルを名乗って活動しています。
Finallyはまだ、ライブアイドルでも一部の界隈にしか見つかっていません(恐らく)。
ここが面白いところで、可能性をまだまだ秘めているということです。
これから他のライブアイドルのイベントに出ていったとき、各所に与える影響はイナズマ以上になるのではないでしょうか。
GWには心斎橋エリアで開催されるサーキットイベント「MAWA LOOP」への出演も決定しました。
寝ぼけたライブアイドルファンを叩き起こすような革命を起こしてくれることを期待しています。

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