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【ライブレポ】KEYTALK LIVE HOUSE TOUR 2023 郡山公演

この日チョイスされた曲は日替わり曲含めメロディ先行のものが多いという印象で、歌詞には小難しい単語が並んでいるものの大きな意味はないように見えます。
1Aから大サビまで起伏ともに展開していく物語というよりも、リズムに合わせて羅列していった単語の塊という感じで、現れていく文字は意味をもたない記号のようです。
脳のどこかの機能を封じ込めて感覚的、反射的に放たれる文字はもしかしたら、文明のなかった時代に通じる、人間の動物としての本能を反映しているのかもしれません。

2023年7月26日。
KEYTALKのライブハウスツアー・郡山公演は例えるなら、本能みたいなものが現れた一日でした。
ツアーのトリに固定された曲でのみダイバーが飛び始めるというのがこれまでのおなじみでしたが、この日はまだ前半の曲から複数人が飛びだし、武正作の某曲に至ってはAメロから早々に人の上を転がりだすファンさえもいました。
センターの巨匠は、いつもならフロアにもっと暴れるよう促すはずなのですが、「Aメロでも飛んでいいんだ」と妙に感心しています。
武正はギターを操りながらもの珍しそうにその光景を眺めていました。

フロアは中央付近に段差がついた2段構造になっていて、その間は網目のついたプラの柵で完全に仕切られていました。
間をくぐり抜けられないので、後ろにいたけど盛り上がってきたからやっぱり前へ、という動き方ができず、かなり制限がかかっているわけです。
ライブは前にコアなファンが固まりがちなので、フロアの前後でテンションに差が生まれがちです。
ましてや奥行きがあり、柵で行き来を完全にブロックされているこの会場だとなおさら分離が生まれそうなものなのですが、思いに反して温度差はほとんどないように見えました。
それも、前方でダイブやらモッシュやらが早くも起こっている光景に触発されてというわけでもなく、開幕のSEから自発的な揺れが起こっています。

ツアー固定曲がかかったときに「この曲もやってくれるんだ!」と感激していた方が多かった気がしたので、この会場がツアー初参戦という方も多かったはずです。
開演時のSEで流れてくるのは(恐らく)アルバムに収録される新曲です。
訳も分からず手拍子をしながらも、周囲は取り残されている感じが全くありませんでした。

他にもAメロの8ビートに合わせたクラップ。
バスドラのビートがあればどの曲でも必ず起こるかというとそういうわけでもなく、場面によってまちまちです。
自分等は伴奏の音をしっかり聞きたい人に悪いかなと、わりと様子見で叩いたり叩かなかったりしているのですが、この日はそんな変な気遣いも必要ありませんでした。
近くにいる人は乗ってきたら皆さん叩き始め、もう一つの楽器として加わっていきます。
沸騰していく指を足場にした4人は、今までより活き活きとしているように見えました。
前奏のアイドル現場のような「オイ!オイ!」はコロナ禍以降はあまり耳にすることがなく、当然自分も声に出すことはなかったのですが、この日は後ろでも強めに聞こえてきました。
となると自分も気兼ねなく出すことができます。

ステージに向かっていく温度が、よく来るファンだけの熱風だけでないことはメンバーも気付いていたはずです。
空調をマックスに効かせても際限なく流れてくる汗は、やがて気持ちいい打ち水のように変わっていきました。
たまにパッと照明が明るくなる時がありました。
そこでメンバーは顔を上げ、目の前のフロアにどれほどの充実が溢れているかをはっきり認識したと思うのです。
汗だくのファンの顔を見て武正は嬉しそうに「このツアーで一番かも」と言い、いつもは一歩引いて武正らの会話を冷めたような目で見ている義勝も、「どうでもいい話なんですけど」と珍しく自ら雑談を切り出していました。
心なしか声のトーンもいつもより高い気がして、上機嫌に見えます。
曲中はロングトーンをあえて切ってみたり、譜割りを変えて三連符っぽく歌ってみるなんていうアレンジも飛び出していました。

ちなみに雑談とは、駅からタクシーで会場に向かうとき、運転手さんに行き先を「HIPSHOT」と告げたら「ペットショップ?」と東北訛りで聞き返されたというお話でした。
ここはペットショップだったのか...と笑いが起こる中、すかさず義勝はフロアを見て「たしかに動物たちがたくさんいますね」とかまして武正にツッコまれています。
でも確かに、抑えを効かせようとしないフロアはまさに動物的と言えるかもしれません。
後半にかけ、フロア一段目の最後列の方がロッテの応援よろしく真上に飛び始めました。
前も後ろも、それぞれの感覚に従って動き回っています。
自分を含め、普段社会生活をしていくなかで無意識に抑えつけていたものをここでは解いていいのだという喜びが、地下に響く揺れに現れていました。

それでも、動きがバラバラに散らばっていくということはありません。
全員が同じところを見つめ、同じ足取りでライブのゴールへと向かっていく感覚がありました。
これも、揃えようという縛りの意識から生まれるものではなく、思い思いに音に乗り込んでいったら同じ船に乗り合わせたという感じです。
4人がそれをリードしていくわけでもなく、あくまで自然に生まれた流れでした。
クラップのタイミングやコールの場所に、決まりはありません。
それでもしっかり統率が守られています。
フロアの雰囲気が、その場限りの同意とコミュニケーションを作り出していました。
あのフロアで、強制を感じていた人はいなかったはずです。
一体感とは、こういう状態を指すのかもしれません。

中盤にあるやぎにゃんショッピングでは、ドラムの八木氏が前に出てグッズ紹介をします。
ツアー一発目、6月頭の千葉公演終わりから決まったそうなのですが、シークレットのヘアピンを自引きして巨匠に前髪を留めてもらい、すかさず飛んでくる「かわいー!」を何度も何度もおかわりしていました。
八木氏がほしがったのも、フロア全体が開放的な気分になって思い思いに声を出すという雰囲気が出来上がっていたからでした。

武正は乱暴に首を上下に振り、無造作っぽくカールした髪の毛も一緒に揺れています。
擬音をつけるとしたら「パカパカ」でした。

ツアー固定で最後の曲。
どのライブでもダイバーが出る曲なのですが、この日はすでに何曲かでダイバーが発生していたので、何人飛ぶのか、どのタイミングで飛ぶのかが気になるところでした。
マイクをひったくり、スタッフにギターを預けた巨匠は、二酸化炭素にまみれたフロアに対し「もうちょっとこっちに」と手招きしていました。
これまで見たことの無い仕草です。
ファンが圧してくるから期待が高まり、もっと行けるだろうと言っているのです。
岡山でダイブしたときには受け止め切れずに崩れてしまったようですが、郡山ではそんな心配もいりません。
2番Aメロではフレーズの語尾を上げた後、本来上から下へのメロディーのところを逆の下から上へのアレンジで歌っていました。

そしていよいよ巨匠がダイブ。
ファンに頭をかきむしられ、伸びた手の間に沈んだ一瞬で音が止みました。
これまでにもあった光景です。
今回はそこで終わりではありませんでした。
どこからともなく大合唱が始まったのでした。
音が消えたパートを、マイクをもたない300人弱が歌っています。
もちろん自分もそこに加わりました。
ゴ会で覚えた、ライブハウスでみんなで歌うことの味を、最後までノリのいいお客さんのおかげで再び体験することができました。
心配するまでもなくダイブから帰ってきた巨匠は、拍手と歓声の雨を浴び、得意気に立っていました。

想像以上の盛り上がりから、余熱でアンコールの拍手が起こるのを予想してか、義勝はライブ早々に「アンコールはない」と釘をさしていました。
宣言通り、最後の曲を披露した4人は両手を頭上に掲げながらフロアに別れの挨拶をしていきます。
「ありがとー!」いつもは拍手のパチパチという音のほうが目立つフロアからは、口ぐちに感謝の言葉が飛び出していました。
他の声、例えばメンバーの名を呼ぶような声も聴こえていたかもしれませんが、はっきりと聞こえたのはほうぼうから発される「ありがとー!」でした。
イエーイ!とかフー!みたいな曖昧なフレーズではなく、ちゃんと意味を持った言葉です。
いつもなら名残惜しさを胸にしまっておとなしく見送るところを、ここでは思いをぶつけている。
郡山公演がほかと比較してとりわけ盛り上がったのはのちのパブサで確信しましたが、もしかしたらまたステージに戻ってきてくれるかもしれないという願いのこもった終演後の「ありがとー!」も大きな証拠でした。
これまでで出し尽くしたのか、声を上げようとしたけど上手く出ていないひともいます。

会場を出ると、郡山駅までは市内で一番大きいであろう一本道をまっすぐ行くだけです。
フロアから出てきた方々とはほとんど同じ道のりとなるはず。
目の前には、色付きのグッズTシャツの一部を汗で濃くさせたファンの方がたくさん歩いていました。
もちろん顔も名前も知らない方たちですが、さっきまであの空間に一緒にいたのだとおもうと、連帯感というか仲間意識が生まれてきます。
本数が少ないので帰りの新幹線も遭遇率は高め。
商店街の屋台からは、店員さんが気を効かせてくれたのか「Summer Venus」が響いていました。
一人で来て誰とも喋らず一人で帰ったのですが、結局新幹線に乗り込むまで独りという感覚がありませんでした。
同士と一緒にいる心強さは、夜道をとぼとぼ歩いた岡山とは好対照でした。


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