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気がつけば「ごめんね」ばっかり上手になって KEYTALK「少年」

婉曲しない、あまりにまっすぐな表現だからこそ、素直に響いてくるものがある。
KEYTALKが2019年にリリースしたアルバム「DON’T STOP THE MUSIC」収録の「少年」。

忘れかけていた感覚

「少年」MVはドラマ風に演出されたもので、プロットはとてもシンプルなものである。

上司にも怒られ、彼女とも上手くいかない疲れ切ったサラリーマンの主人公が、たまたまつけたテレビに生き生きと演奏するKEYTALKを見ることで、バンドに夢見ていた少年時代を投影し、くすぶっていた自分を捨て、次の日から前向きに生きていく

気の合う友達と始めてみた音楽。ずっとこの時間が続けばいいのに、そう思いながらも勉強や進学など目の前に迫る「現実的」なことと向き合わないといけない。
このMVでは、主人公のそんな「少年」時代が、揺れる葛藤と共に現わされていている。

そして大人になり、そんな少年時代の感情も、ギターの弦を押さえた時の指の痛みもいつの日にか忘れてしまっている。自分らしさはどこへやら。
対象が音楽ではなくとも、こうした感覚は多くの人が経験することではないだろうか。
それはここの歌詞にも端的に表現されている。

気がつけば 「ごめんね」ばっかり上手になって
あの日の少年はどこに行ってしまったの

ちなみにこのMVで主人公を演じた笠原秀幸さんは同年放送のNHKドラマ「だから私は推しました」にも出演されていた。そのドラマでの役はなかなか狂気にあふれるものだったが、打って変わって、このMVにおいてはさえないサラリーマンになっている。

蛇足になるが、こちらが「だから私は推しました」のPR動画である。
笠原さんは0:47あたりに登場するが、この作品で見せる常軌を逸した役と、「少年」のMVでの役との振れ幅の大きさも、個人的にはツボである。

歌詞のストレートさ

インディーズの曲では特に顕著であるが、KEYTALKの曲には、いろいろな解釈の幅を生む歌詞が多い。時に「文学的」とも称されるこれらの言葉の豊かさは、KEYTALKの魅力の一つにもなっている。
前稿でレビューした「フォーマルハウト」でも、それは当てはまる。
秋の一等星フォーマルハウトを引き合いに、聴く人の想像力を掻き立てるような表現が並んでいる。

KEYTALKがメジャーデビューし、自身が「お祭りモンスターバンド」の代名詞となって以降は、ややその傾向が減ったような気もするが、考えさせられる、含みを持たせる表現は依然としてちりばめられている。

それに対し、この「少年」。非常に歌詞としてはシンプルである。
例えば、1番2番サビで繰り返される歌詞はこうである。

終わらない夢の続きを探しにゆこう ずっと
食いしばって流した涙にさよなら
覚めない夢の続きを迎えに行くよ

この曲がタイアップしている「実況パワフルプロ野球」に絡めてたとえるなら150km/hのまっすぐであろうか。それくらい、直球の歌詞である。
それに対し、インディーズ時代の歌詞は言うなればゆらゆら落ちる「ナックル」か。
両者ではその落差、スピードの差もかなり大きい。ナックルボーラーから直球派へ。

そういった意味では、今までと比較すると、いつものKEYTALKとは一線を画しているように見える

けれども、こうしたまっすぐさにこそ、「少年」の世界観をより強く見出すことができるのではないか。僕はそう考えている。

それこそ「パワプロ」に一番熱中していたような少年時代。そのころには気持ちをまわりくどく表現することなんてできなかった。
感情もストレートに発し、物事の受け止め方もまっすぐだったような気がする。

そんな少年時代を思い出すのに、解釈を何通りも生むような言葉は要らない。
インディーズの頃のような「難解」な曲は、少年からもう少し成熟した頃、「大人」な曲であるように思えるのだ。

そういった点から、この愚直なまでのストレートな「少年」は、心に突き刺さってくるものがある。

そしてこの曲は、最後にこんな歌詞で締められる。

ありふれたこの日々を少しだけ愛してみよう

懐かしむだけでなく前を見ていこう。
MVの最後ではさらに、引き締まった表情の主人公が、顔を上げて前に進んでいくカットが映し出される。ここから心機一転、仕切り直しという雰囲気が伝わってくる。

どストレートな歌詞と、KEYTALKとしては初の試みとなった、ドラマ仕立てのMV。
目新しい要素が詰まったこの曲は、見方によっては「KEYTALKらしくない」曲なのかもしれない。
しかし、少年時代を思い起こし、ノスタルジックな気持ちにさせてくれるこの「少年」は、タイトルにまさにふさわしい曲であり、KEYTALKの新たな面を認識するという意味でも重要な曲となっているのではないだろうか。

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