【ライブレポ】透色ドロップ「透色の秋 全国ツアー2022」宮城公演
2022年11月5日、仙台ROCKATERIAにて7人組アイドルグループ・透色ドロップの全国ツアー「透色の秋 2022」宮城公演が開催されました。
この宮城公演はツアー情報が解禁になった当初には予定にありませんでした。
後から加わった追加公演であるのですが、追加公演であるがゆえに2カ月強にわたって行われたこのツアーで最後の地方公演という重大な位置づけとなりました。
2週間後の11/19にはツアーファイナルとして締めくくりの東京公演を控えており、グループは仙台への準備を進めながら東京公演に向けてもレッスンを進めていたはずです。
仙台の前の大阪公演あたりは、具体的にファイナルの魅せ方や形が見えてきた頃なのでしょう。
そのころから「仙台でいい形でファイナルにつなげたい」「そしてファイナルは無理をしてでも見に来てほしい」というMCやSNSでのコメントが目立ってきていました。
これまでツアーで回った他の地方でも、メンバーの凱旋や初の舞台、さらには以前悔しい思いをした場所など、様々な背景やストーリーがありました。
そのどれもに特別な感情をもって臨んでいたとは思うのですが、こと宮城公演にかんしては、唯一の東北出身である花咲りんかさんの(半)凱旋公演や、グループとして初めて立つ地であることなどマイルストーンとなる要素はいくつかあっったものの「ファイナルに向けて」という思いのほうが支配的でした。
早速ライブに入っていきます。
この日は前後半でざっくりと雰囲気が分けられるでしょう。
より厳密には14曲中初めの9曲目までと、ラスト5曲のブロック。
この間に空気が一変しました。
大阪公演でラストの曲だった「だけど夏なんて嫌いで」からはじまった前半戦は笑顔がいつにも増して多く、照れ笑いも含みながら在庫が尽きるまでまさしく”振りまく”ようなステージでした。
「だけ夏」での瀬川奏音さんと佐倉なぎさんの落ちサビ「僕は君のことが好きで 何よりも大事で...」は今までで一番響いてきました。
ここのインパクトが強すぎたため、以降何曲か記憶が飛び気味です。
金色に近い髪色がすっかり定着した佐倉さんは、この日の編み込みのヘアスタイルを誰かに頼らず自分で完成させたそうです。
オフステージでは後輩メンバー・梅野心春さんを積極的にいじっているようですが、この日は曲中でもちょっかいをかけていました。
それを笑いながらあしらう梅野さん。
ここのところのインスタなどを見ていると、最年少であり唯一の後輩である梅野さんを先輩メンバーがいじったり絡みにいっている姿が目立っています。
どこかの曲で花咲りんかさんが隣のメンバーとアイコンタクトをとり、その後ややあって上手から2人でセンターに向かって歌いながら出てくることがありました。
この時、少しだけ板の上に立つ感覚を共にしたような気がしました。
この日は良い位置とは言えないものの珍しく前の方で観ることができ、そのおかげで目立つところだけではないフォーメーションの流れを目にすることも多かったです。
遠くからだと連続したパートチェンジにしか見えなくとも、そこに至るまでの助走があり、自らのパートでスムーズに合流したあと立つ鳥跡を濁さずで去っていく。
この繰り返しで成り立っているのだということに近くで見て気付かされました。
会場は「ROCKATERIA」というだけあり、伴奏の中にあるバンドサウンドをハイライトして聴かせていました。
いつもより楽器の音を感じるステージです。
この音量だけでも十分ですが、拮抗するようにボーカルの音も大きく、リズムに合わせて出したり引いたりするメンバーの腕の動きもまた視覚的な音でした。
フットペダルを踏んでバスドラを鳴らし、スティックを下ろしてスネアを叩く、バンドの動きと全く変わりません。
「ここから後半戦!」
確か見並里穂さんの煽る、現代へのアンチテーゼ的な「桃郷事変」のときだったと思うのですが、後半戦に行こうというのにまだ陽気なムードが収まる気配がありませんでした。
14曲の7曲目、中盤で一旦は落とす曲を持ってくるパターンが1時間超のライブで多いことを思えば、そろそろ空気を変える曲が出てくる頃なのですが、そういう風でもなく、ここから2回目のMCまで「ネバーランドじゃない」「夜明けカンパネラ」とサビでのフリコピ曲が続きました。
実に9曲。
雑に言えば透色ドロップらしい可愛さがあったり楽しさがある曲のみで醸成された前半(と少し後半)の空気は、ここからラスト5曲にかけて別物に変わっていきます。
みんなでいるときの騒がしさが前半だとすれば、「≒」に始まったラストのブロックは一人で思索に耽るような感じでした。
近くで観てよくわかったのは、先に書いたフォーメーションの切り替えだけではありません。
表情までもくっきりと映りました。
顔を動かさず目線を横にずらしていくメンバーもいれば、梅野さんなど怖いくらいに真っ直ぐにらみつけています。
序盤の自己紹介で必ずと言っていいほど「一生懸命頑張ります!(初日東京では”死ぬ気で...”とも言っていました)」というごくごくシンプルかつ伝わってくる意気込みを口にする花咲さんは、MCで喋るときこそまるで頭の中に渦巻いている「どうしよう...」が見えてくるくらいドキドキしているのですが、いざ曲となれば真ん中に光を吸い寄せて口をほんの少し開けてこれまた真っ直ぐ意志のある表情をしていました。
序盤では浮ついた感じで跳ねるように移動していたフォーメーションも、ここにきてからは地に足つけて早足の移動へと変わっていきました。
12~13曲目、すでに最終盤に差し掛かっていますが「衝動」から「アンサー」ではより自分の世界に入ってきます。
瀬川さんは上から見下ろすような、あるいは迫ってくるような顔つき、橘花みなみさんは少し笑みを浮かべながらのパフォーマンスでした。
印象的だったのが、「アンサー」での佐倉さんでした。
2番Bメロで、座り込みながら反発するようにフロアの上手側をにらみつけていたのがこれまでの表情だったのですが、この日は力が抜けて無力感に身を委ねるような、そんな表情に見えました。
同じところから排出するように吐き出され、流されるままに周りと同じ道を行くことに疑問を抱き、背を向けようとする曲が「アンサー」だと思っているのですが、佐倉さんが見せたのは抵抗する側ではなく、流されるままに疲れだけを抱えていく大勢側の顔つきのような気がして、そこがかなり頭に残っています。
不吉な曲ではないものの先の9曲を一旦は忘れてしまうほど落ちていったここのブロックですが、天川美空さんのまだ暗がりに落ちきっていない表情で救われます。
ラストは曲振りを挟んで「自分嫌いな日々にサヨナラを」で締まりました。
心が洗われるとよく言われますが、まっさらなメロディーでまさしく綺麗さっぱり洗い流してくれるような終わり方だったと思います。
前半戦の幸せ過ぎる曲組は、映画「ディアハンター」の(最近見たから言いたいだけです)序盤1時間のように後半への重大な布石でした。
これがあったからこそ後半がより重くなったのでした。
「...というわけで」
最後に、慣れない進行で梅野さんが切り出したメンバーコメントについても触れてみます。
前回の大阪公演でファイナルに向けての思いなどを一人ずつ語っていて、その充実ぶりから大阪で既に全員終わったかと思っていたのですが、橘花さんや瀬川さんなど語っていないメンバーは何人か残っていたようでした。
佐倉さんはかつてヤン土でさんまが道重さんに言った一言を引き、「家族や友人など、今日は新潟、来週は福岡...と行くからついてきてねと言ってもなかなか来てもらえるものではない」と、ツアーの短いスパンであちこち回っても着いてきてくれる方たちに感謝しつつ、福岡名古屋以外ついていった自分も少なからずその共犯関係みたいなところにいるのかなと思っていると、瀬川さんはこう言います。
「ライブの告知の文章を何十分とかけて考えたり、何時間もレッスンしたりしても、その間一枚も売れないことはざらにある」。
自分もそうでしたが、ライブアイドルにとってはフェスや対バンライブはかなり重要な入り口です。
だからこそ発信を頑張り、しかし目に見える形となって現れない現実に打ちのめされるものの、「皆さんは私たちの気付かない私たちの良さを知っていて、たくさん頑張っているアイドルはいるけど透色に来てくれるのは『ここが光っているから』というポイントをそれぞれが持っているはず」。
この言葉を聞いて思ったのが、これまで同様不安を抱え(恐らく今後もでしょう)ている心の中にも兆しというか芽が出てきているのかなということでした。
コメントや表現の仕方はそれぞれですが、瀬川さんのみならず他のメンバーも同じ気持ちだったはずです。
今ツアーは地方でソールドアウトが出たり、そうでない会場でも着実に埋まっていて、その事実が少なからず自信になっているのかなと思いますし、どちらかというとマイナスな感情をバネにして反骨心でここまでやってきたようなグループが、前向きな感情を栄養にするよう変わってきているように思いました。
ファイナルは仙台の2週間後、東京にて11/19に開催です。
ツアーに着いていったことで、夏前よりも近い距離で心の内を知るような機会が増えました。
そうしてやってくるファイナルは、これまでの単独公演とは違った心境となるのだろうなと思っています。