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【#2 夢見る旅人たち】 東京パフォーマンスドール ラストライブ「DANCE SUMMIT The Final」二部公演

2021年9月30日。
6人組アイドルグループ・東京パフォーマンスドール(TPD)が、8年間にわたる歩みに無期限の活動休止という形でピリオドを打ちました。

TPDメンバー紹介

活動休止前のラストライブは9月26日(日)に二部制で開催され、一部の模様については下に書きました。

▼一部

ここからは、本当のラスト、二部編へと移ります。

一部終了から二部までは、3時間ほどのインターバルが空いていました。
この時間を使って、会場のお台場からほど近いららぽーと豊洲に行ってきました。
ららぽーと豊洲には、かつてTPDが何度もCDリリースイベントを開催していた屋外イベントスペースがあり、グループにとって思い入れの深い場所の一つです。

ひとしきり休憩をしたあと、18時前発のゆりかもめに乗ってお台場に向かいました。

10月も迫って、季節はほぼ秋です。
車内から西のほうを見てみると、若干の日が差して灰色の空の隙間に薄黄色がかかっており、見とれてしまうような模様を成していました。

しかしそれも束の間です。
会場に着く18時頃、空はその黒さを次第に増していき、空はすっかり夜の顔になりました。

会場のZepp Tokyoに着きました。
グループディスタンス方式の指定席で、一部二部ともにフロアの後方席でしたが、一部は上手、二部は下手でした。
一部とは違う位置からステージを眺めて、気が付いたことがあります。
一部ではベールに包まれていたステージ上が、今は丸見えになっています。

一部開演前にステージとフロアを隔てていた紗幕が持ち上がっていたのでした。
むき出しの暗転したステージに存在感を誇示するのが、TPDのロゴが打ち込まれた電飾です。
東京パフォーマンスドールのアルファベット頭文字3文字の略称「TPD」を縦に細長く引き延ばし、ほとんど重なるように合体させてその側面を縦長の楕円でなぞったデザインのこの電飾は、TPDの主催ライブでは毎度のようにありました。

恐らく新生TPDのデビュー時から、主催ライブでは掲げられていたのではないでしょうか。
ライブに先立ち、メンバーの姿よりも前に目に飛び込んでくる、いわばライブの顔です。

初めて行ったライブで目にした時は、グループオリジナルの電飾などまずアイドルのライブでは見かけない装飾だったため、驚きもありつつ眺めていましたが、通いだしてみるとロゴが違和感なくなってきます。
見慣れてくるころ、自分もこの場にやっと受け入れられたような感覚を初めて覚えます。

ライブの開演までは時間が長く感じます。
暇にあかして、電飾を構成している豆電球の数を調べてみたこともありました。
日々のモヤモヤを抱えながら、見上げていたこともあったと思います。

TPDにまつわる色々なことを、この電飾は思い出させてくれます。

前半戦(M1~M8)

そんなことを考えているうちに、定刻の18時30分になりました。

眩しい白の光があたりをゆっくりと照らし出し、「BRAND NEW STORY」のフレーズを切り貼りしたmixバージョンが流れ出しました。
「Brand New Day」「止まらない」「飛び立とう」
歌詞の一節が聴こえてきます。

やがてそれはダンスミュージックに変わり、気が付けばこの日のために特設された小高いステージの上で6人のメンバーが拳を上げています。
第二部は、この曲から始まりました。

M1. Hey, Girls!

「DANCE SUMMIT The Final, 二部にお越しの皆さん!」

リーダー・高嶋菜七さんが、滑らかな発音でフロアに呼びかけました。

「この公演が、ほんっとうに最後のライブです!みんなで、最高の時間にしていきましょう!」

CDか何かを巻き戻したイントロから始まり、メンバーがくるっと優雅に手首を返して腰を落としました。
Hey, Girls!」の始まりです。

この曲を聴いて、色々な思いが溢れてきました。

僕がTPDのライブに通うようになったのは、この「Hey, Girls!」がリード曲となった同名アルバムのリリースイベントからでした。
2018年11月17日の、アリオ川口でのミニライブです。
アルバムの表題曲ですと前振りされ、この「Hey, Girls!」が披露されたとき、それまでTPDに抱いていた印象は、大きく覆されました。
それは、カルチャーショックに近いものでした。

TPDについて、僕が持っているさらに古い記憶は、2015年の3月にまで遡ります。
3月12日、EX THEATER ROPPONGIにて、「アイドルお宝くじパーティーライヴ」という対バンライブが開催されました。
別アイドルを目当てでいったこのライブに、たまたま出演していたのが、まだメンバーが9人だったころのTPDでした。

”再”結成2年を迎えようかという頃の当時のTPDについては、その名前だけはちらほらと耳に入ってきていました。
注目したいのが、そのライブパフォーマンスです。

ビジュアルを見てみると、競泳水着の様に空気抵抗を抑えた作りの、踊りやすさ重視のような衣装を着ていました。

スタイリッシュな流線型の衣装からは引き締まった筋肉が覗き、メンバーの鍛えられ度合いがよくわかります。
衣装に負けずパフォーマンスは圧巻で、もちろん生歌のステージをノンストップで披露するらしい、という噂が立っていました。

当時僕はハロプロも好きだったのですが、ハロプロの高いステージングを見慣れているファンですらTPDにハマっていく様子を、このころ何度となく目にしていました。
「パフォーマンス厨」と時に言われるハロプロファンですらうならせてしまうすごいグループがあるんだなと、遠巻きに観ていた記憶があります。

そうした前知識をもって観た当時の「アイドルお宝くじ」。
うっすらですがアイドルというよりアスリートのように映っていた印象だけは残っています。

その他アイドルの一グループとしてしか見ていなかった頃のこうしたイメージがあっただけに、数年ぶりにメンバーを観て曲を聴いたとき、大きなギャップを感じていたのでした。

誰とも比べないで 私だけのReal story Be the Special girl

「Hey, Girls!」の冒頭の歌詞です。
英語が積極的に入れられることでだいぶ柔らかくなり、曲調ともよく合います。

MVを見てみると、メンバー6人がそれぞれのテーマで個性を楽しむ様子が描かれています。
メイク、音楽、ファッション、スイーツ...
ダンスショットはビルの屋上で、眩しい青空は開放の象徴に見えます。

2015年当時は全員黒髪だったのが、ここでは髪を染めていないメンバーの方が少なく、各メンバーのビジュアルも洗練されていました。

この変化が突然変異的なものでないことは、そもそもアルバム名が「Hey, Girls!」となっていることからも分かります。
当時平均20歳だったTPDメンバーと同年代の女性が、ピンポイントのターゲットでした。

目にしたとき、全くの別グループに思えたのですが、でもそれはいい意味でのギャップでした。

今まで遠巻きから眺め、抱いていたTPD像が崩れるとともに、真っ白なナポレオンジャケットを着ていた1stアルバムの頃までに感じていた近寄りがたも一緒に崩壊し、一気に身近な存在になったような気がしたのでした。

それまでもTPDの曲だけは折りに触れて聴いていましたが、恐らくこのガーリーな路線が拓かれなければ、ライブにまで行くことはなかったのではないかと思います。

表題曲だけではなく、この日一部二部で披露された「SHINY LADY」、この日は披露されませんでしたが名曲の「Glowing」など、「Hey, Girls!」収録曲は、ライブへ向かう大きな後押しでした。

1stアルバムに収録の「SURVIVAL!!」や「DREAM TRIGGER」などからは、逆境や獣道をあえて進んで戦い抜く心意気を感じます。
こうした曲は心を奮い立たせてくれますが、ときにそんなことも考えられないほどゆとりを持てないときだってあります。
そんな時、肩に手を置いてくれるような優しさをもつ「Hey, Girls!」収録曲は、心の太い添え木になってくれました。

どちらが良い、悪いという話ではなく、どちらも不可欠なものです。
1stアルバムのアスリート向きな芯の強さと、2ndアルバムの、それぞれの個性を出して寄り添う優しさを備えたこのころのTPDは、非常に魅力的でした。
今考えても、このタイミングに出会ったからこそ、ハマるべくしてハマったと思っています。

M2. 純愛カオス

浜崎香帆さんから高嶋菜七さんへと歌い継がれる落ちサビに、こんなフレーズがあります。

本気でつかんだ情熱は逃げない
見えなくても越えなきゃならない明日があるから

ここからラスサビに向かう直前、ファンがなにやらコールします。
それが、「絶対に!」というフレーズです。
「越えなきゃならない明日があるから」に対して、念押しをする「絶対に!」なのですが、このコールはメンバーの耳にも届いているようです。

ただ、このころを知らない者の推測ではありますが、おそらくもともとは「絶対に!」というコールではなかったのではないかと思います。
恐らくこの時期からライブアイドルで流行り出したコール「イエッタイガー」がそのように聴こえたのではないでしょうか。
ともかく、由来がどうあれ、メンバーは喜んで受け入れていますし、確かに語感としても歌詞の強調としても「絶対に!」はピッタリです。
叫ぶことでテンションも上がっていきますし、偶然と言えどこれ以上ないフレーズだったのかもしれません。

でも今は「絶対に!」と叫べません。
コールのリズムに合わせてサイリウムや腕を振ってみたりもみましたが、空を切るだけでむなしい感じがします。

受け取れるはずのコールを失ってしまったTPDメンバーも、それは同じなのではないでしょうか。
フロアからの跳ね返りを吸収し、養分としてノンストップライブを駆け抜けるTPDメンバーにとっては、コールが無いライブはライブではないと言い切ってしまっていいほど重要です。
昨春~秋にかけて、TPDは無観客オンラインライブを複数回開催してくれました。
しかし、客なしコールなしだと、ステージ慣れしたメンバーですらかなり違和感があったようです。
回数を重ねるごとに慣れも出てきたようですが、それでも最後まで消化不良感は残ったままだったのでしょう。

事実、活動休止の理由の一つには、コロナ禍で思うような活動が出来ず、グループの未来図が描きにくいことが挙げられていました。
思うように出来なかった活動のなかには、コールがなく盛り上がりがよくわからない現状のライブも間違いなく含まれているのでしょう。

M3. HEART WAVES

レーザー光があちこちに突き刺さり、メンバーの顔がパッと明るくなりました。

1番Bメロ「震える指がふれたのは」を歌う高嶋さんの、裏拍に合わせて拳を前に4回出す振り付けが好きで、ここはよく真似していました。

M4. eyes

コロナ禍となってから初の主催ライブが、グループの結成7周年を記念した無観客のオンラインライブでした。
「eyes」は、ここで初披露となりました。
コロナ禍で生まれた曲なので、生よりも配信ライブで観る機会が多かったです。

Baby, No! No! いつもそうやって ギリギリショート寸前

サビに入るとともに右足を横にけり出す振り付けは、こもりっぱなしで鬱屈とした気持ちを一蹴してしまうような爽快感を覚えます。

M5. MY UNIVERSE

儚く眩しい 孤独な星よ

ノンストップを何よりもの持ち味とするTPDのライブでは、曲がフルコーラスで披露されることはほとんどありません。
2番はたいてい、削られます。
主に脇あかりさんから始まるイメージの強い2番にも良いフレーズが多いので、少しもったいない気もするのですが仕方のないことでしょう。

そうは言っても、一曲当たりの持ち時間が短くなるからこそ披露する曲数が増えるとともに、ノンストップで流れていくようなライブが成り立っているのです。
しかし、「MY UNIVERSE」に関してはフルコーラスでもきっかり3分と短いです。
2番がないのでカットされることがありません。
そういう点では、TPDのライブに特化した曲ではないでしょうか。

途中、櫻井紗季さんと橘二葉さんが階段を伝って壇上に上がり、一方他の4人は平坦なステージ上に残りました。
メンバーは違いますが、一部でも見た4対2の光景です。

この曲、もともとオリジナルメンバーの9人で披露していた頃から歌担当とダンス担当のメンバーが明確に分かれていました。
6人となってからは、踊りで盛り立てているのは壇上に上がった櫻井さんと橘さんです。
この二人、いつものフォーメーションでは前線に立つ歌唱メンバー4人の後ろにいるのですが、最後の「MY UNIVERSE」では、視線を最も集める壇上に立っていました。

よく見える位置から眺めると、2人の足の広げ具合や、窮屈そうながらもバシッと踊る姿に目を奪われます。
二人が、歌う4人を上から操っているようにさえ思います。

曲が終わり、メンバーはここで一旦捌けました。

M6. Collection feat. ☆Taku Takahashi(m-flo)

早替えをして出てきたメンバーは、m-floの☆Taku Takahashiさんが作曲したこの曲を披露しました。

衣装は青のデニム生地で、あしらわれたオレンジ色のラインが膨張して見えます。
メンバーごとにまるでデザインが違うこの衣装は、「Hey, Girls!」のリリース時期に初お披露目となったものでした。

この衣装も、僕にとっては思い出深いです。
3年前、「渋谷 LIVE CIRCUIT」が開催されていた渋谷WWWXへの外階段や、出来上がったばかりで新しかった渋谷ストリームホールの綺麗さなど、当時の光景を思い出します。

M7. 現状打破で Love you

甘い恋愛ソングながら、サビを歌うメンバーはターンしながらハイトーンをださなければいけなく、地味に難しい曲です。

櫻井紗季さんは、「グループの中で自分が目立たないようにしていた」と、8年間の自らの立ち位置を振り返っていました。
以前にも、配信なのかブログなのか忘れましたが、センターに立つと、うれしいけれどそれよりも隠れたくなる気持ちのほうが勝るとコメントしていた記憶があります。

そんな櫻井さんのバランサー的メンタルを反映してなのか、確かにソロパートはあってもピンスポットを浴びるセンターに立って歌うイメージはさほど多くありませんでした。

しかし、そうも言ってられない曲がありました。
それがこの「現状打破」です。

サビ終わりのフレーズ、下手から滑り込んできた櫻井さんがセンターに立ち、「Everyday Every night All night 私だけ見て」と歌います。
普段センターに立ちたがらないのに、よりによってTPDでも珍しい直球の恋愛ソングでこのフレーズです。
櫻井さんはこのパートを、照れを見せずにやりきりました。
ここも、主演を張った舞台での演技力からくるものなのでしょうか。
堂々としたその姿は、願わくば真正面から拝みたかったです。

M8. Shapeless

2018年4月。一気に3人のメンバーが卒業したTPDには、息つく間もないままシングルのリリースのスケジュールが組まれていました。
その表題曲が、この日8曲目に披露された「Sharpless」でした。
残された6人は、卒業メンバーへの寂しさもさることながら、9人で分け合っていた荷物を6人で背負わないといけないこと、一人一人がよりフィーチャーされるであろうことに対して感じる責任感の方が大きかったそうです。

この曲には、「カタチないもの」「不確かなもの」の中にある温度や「アイ」を大切にしたいというメッセージが込められています。
ものごとを善か悪かの二択でしか判断せず、どこかに明確な答えがあるだろうと思う込んでしまうところのある我々にとっては、深く詞を読み込むべき曲かもしれません。
そして、もしかしたら、これからのTPDの「正解」に悩んでいた3年前のメンバーにとっては心強さをもたらした曲だったのかもしれません。

そろそろ中盤に入ります。
一部と同様、ソロやユニット曲のコーナーへと移るのかと思っていました。
赤の流星もぐーちょきぱーも、各人のソロも、一部では詰め込み切られなかったものの良い曲はまだまだ残されています。

そうではありませんでした。

Shaplessのイントロのワンフレーズがリフレインし、始まったのは90年代に活躍した先代TPDの曲を新生バージョンに再構築した「リアレジンドバージョン」でした。
1stアルバム「WE ARE TPD」には、先代曲にリスペクトを持って再構築を加え、新生メンバーの声を吹き込んで生まれ変わった曲が多数収録されています。
この日はそれらの中から数曲を、メドレー形式で披露しました。

M9. TPD Rearranged メドレー

メンバーにとって先代TPDの出来事は生まれる前の話です。
それでも、今のTPDメンバーがこうして集まったのも、当時パフォーマンス重視のアイドルグループの草分け的な存在であった先代TPDがあったからこそです。
ここのコーナーも、非常に重要です。

CATCH!」「恋しさと せつなさと 心強さと」では高嶋さん、浜崎さんという、普段からパート割が多い二人が動作を抑え、丁寧に歌いながらこれまでの活動で蓄えた歌唱力を見せつけていました。
気持ちはING」は、サビだけというのはあまりに短すぎます。
夢を」もですが、合いの手のコールが喉元まで出かかります。

リアレンジドメドレーが終わり、着替えと転換のためにメンバーは捌けました。
早着替えの回数は、多すぎてもう数えてもいません。

後半戦(M10~M18)

M10. One Day One Life

ピアノとストリングスの音色がクラップを促し、Zepp Tokyoをライブハウスからコンサートホールへと変えました。

浜崎香帆さんを筆頭に、それぞれのソロパートをきっかけにメンバーが登場しました。

6人のいでたちは、薄く黄色を伸ばしたような色がかかった、白を基調としたドレス姿でした。
移動するときはシューズが巻き込まれないようにスカートを少し持ち上げており、いかにも歩きづらそうです。
そのためか、振り付けはおろか上半身の動きも最小限になっていました。
よりコンサート感が強くなります。

ためらうのは無理じゃないってことに気づいているから
躓いたなら 「また頑張ろう」って声が 聞こえるはずだよ

これまでもライブの最後に披露されるなど、初披露からの3年間で大切にされてきたこの曲。
歌詞で使われる言葉が綺麗で、歌わないまでも口にしてしまいます。

One Day One Life!! Let’s Go!

これが、この曲最後のフレーズです。
右手を高く上に伸ばし、「Let’s Go!」を合図に腕を曲げて敬礼のようなポーズをとる振り付けが当てられています。
この日、腕を曲げるか曲げないかというタイミングで、突如メンバーが姿を消しました。

二部で上がったままだった紗幕が下りてきて、メンバーの姿を覆い隠したのでした。

M11. my dearest

数秒の暗転の後、紗幕をスクリーン代わりに、「my dearest」が厳かに始まりました。

「One Day」同様バラードで、近しい人への「ありがとう」の意味を考えさせてくれる曲です。

ワンコーラスを歌い終わり間奏に入るころ、紗幕には映像が映し出されました。
スタジオでメンバーがマイク片手にレッスンしている風景です。
いつのだろ?と一瞬思いましたが、皆マスクしている姿を見て察しました。
ラストライブに向けたリハーサル風景なのでしょう。

少し脱線しますが、この先コロナ禍以前の暮らしに戻り、2020年の出来事が単なる時代の1ページに埋もれていく頃、マスクしながらレッスンをしている姿を見た人はどういう感想を得るのでしょうか。
事情を知らなければ、あるいは捉え方によっては、マラソン選手の高地合宿のような、マスクをしてあえて酸素を薄くすることで負荷をかけるトレーニングのようにも見えなくはないなと、ふと思いました。

戻ります。

間奏まででレッスン風景の映像は止みましたが、ロングバージョンのアウトロが流れるころ再び映像が流れてきました。
今度は、メンバーそれぞれから我々ファンに向けてのコメントでした。
それこそ、直前の映像にあったレッスンの合間に撮ったのでしょうか。
でかでかと紗幕に現れたメンバーの表情は、吹っ切れたのか皆一様に柔らかく、観ているこちらの胸にも暖かいものが広がっていきました。

M12. TALES

最後にリーダー高嶋さんが喋り終わるころ、スクリーンの向こう側には、フォーメーションをとったメンバーのシルエットがありました。

紗幕は再度おりて片づけられ、クリアになった視界の先には「あの日見た青空」が広がります。

映像の間に身に着けた衣装は、この日のためにあつらえられたものでした。
紺色のネクタイと、同じ色が差し込まれたジャケット。
ハーフパンツも合わせ、基調はグループカラーの白色です。
TPDの原点を思わせるとともに、旅立ちに向けた正装風の衣装を、このラストライブのために着てきたのでした。

メンバーどうしのアイコンタクトが増え、笑顔の数も多くなっていきました。

M13. SHINY LADY

「どんな時も、みんなが居たからこそ、私たちはステージで輝けました。聴いてください」

続くは、脇あかりさんが好きなこの曲です。
一部に引き続きの披露となりました。

当てのない苛立ちをスルーしてくように 街はNoisy Noisyヘッドフォン塞いで(Walk away)

チャイムの鳴るイントロから、1番Aメロで高嶋さんが歌いだすこのパートが、個人的にはこの曲のハイライトだと思っています。

もやもやを抱えたまま平日・渋谷WWWXのTPD電飾を眺めていたとき、帰りの地下鉄駅に向かうとき、下手に歩きながら歌う高嶋さんのマイクや、差し込んだイヤホンから流れてきたこのパートは、晴れない気持ちを代弁して、僕のかわりに吐き出してくれていていました。
「Hey, Girls!」のリリースイベントを観て通い始めてから、TPDにはかなり救われてきたのですが、「SHINY LADY」もその大事な一曲でした。
イントロを聴くだけで、地下鉄の階段を降りていた3年前の景色がよみがえってきて泣きそうになります。

曲のタイトルから明確ですが、この曲も2ndアルバムの路線にのっとり女性目線の歌です。
浜崎香帆さんが歌う落ちサビの主人公は「子供のころ夢見たキラキラしたプリンセス」とあります。
でも、落ちサビの続くフレーズ「傷つき悩みながら強くなれた」は、なにも女性のみならず誰にだって共通していることでしょう。

ステージを観てみると、脇さんはそうとう込み上げてきていることが読み取れます。
脇さんにも脇さんなりの「SHINY LADY」ストーリーがあり、歌いながらシーンを思い返していたのかもしれません。

M14. Are you with me??

コロナ禍となってからのライブには、コール禁止の他に、「タオルの振り回し禁止」という制約も加わりました。
TPDに限らず、どのアイドルを見渡してもほとんどそうで、気分がハイになった時のタオル回しは、ライブ会場からすっかりなくなってしまいました。

TPDの曲には、おそらく唯一ですがタオル回しをする曲があります。
それが「Are you with me??」です。

ラストライブを迎えるにあたり、どの曲がセットリストに組み込まれるか、ぼんやりと予想はしていました。
そこでまず無いだろうと思ったのが、「Are you with me??」でした。
ライブに制約がある中で、タオルを回してナンボの曲をあえてチョイスはしないだろうと、そうみていたわけです。

事実、コロナ禍になってからの有観客ライブでは一度も披露されていません。
配信ライブでかかったのみです。

それだけに、イントロが流れてきた時の「まさか」という驚きは一層でした。
メンバーはジャケットを脱ぎ、ネクタイを解いています。
ここからラストスパートまでの暑さを予感させるかのようです。

メンバーの手にはタオルが握られていますが、フロアはタオルを回すわけにもいかないので拳やサイリウムがその替わりです。
最後ですし、タオルを回す人が一人くらいいてもおかしくはないと思っていたのですが、
僕が見る限り1人もそんなスタンドプレーには走っているように見えませんでした。

「Are you with me??」でタオルが一枚もクルクルしないフロアは当然ながら初めて観ましたが、この曲は「花火」がキーワードの恋愛ソングです。
フロアに散るカラフルなサイリウムの色と、歌詞で描写される花火の色がリンクするようで、これもこれで良かったような気がします。

「さぁまだまだ、ここからがTPDのライブです!」

高嶋さんが挑発する裏には、激しいキックのバスドラとスネアの打ち込みの音が聴こえてきます。
この曲は、間違いなく両部で披露されるであろうと多くの方が思っていたのではないでしょうか。

M15. SURVIVAL!!

大きくギターをかきならす仕草のあと、お役御免になったタオルは放り投げられました。

一部と二部では、落ちサビの構成を変えてきました。
落ちサビの、脇さんと橘さんのソリでは、トーンが落ちる、まさに「落ちサビ」なバージョンと、むしろ打ち込みの音が激しくなって続く高嶋・櫻井さんペアへのバトンをつなぐようにテンションの高くなっていくバージョンとの2パターンがあります。

一部ではより激しくなる後者のパターン、二部では「落ち」る前者のパターンでした。
暗く深くなっていくステージで、橘さんの白いネイルが浮かび上がります。

「SURVIVAL!!」、おそらくやってくれるだろうとは思っていましたが、その通り2回も聴くことができて、もう思い残すことはありません。

このころには、脇さんだけでなく高嶋さんももう泣きだしそうな表情です。

M16. Jumpin’ Up!

ユーロビート調のアップテンポな曲で、サビではファンも一体となってジャンプします。
2nd アルバム「Hey, Girls!」収録曲ですが、すぐに後半戦の必須曲へと定着しました。

思いが前のめりになったのでしょうか、浜崎さんと高嶋さんの煽りが被り気味に聞こえてきます。

それにしても、これがTPDの真骨頂とはいえ、最終盤にきてここまで激しい曲を畳みかけてくるか...とお化け並みの体力には舌を巻きます。
一部の感想の繰り返しですが、本当にこのライブでステージが最後なのでしょうか。

M17. DREAM TRIGGER

激しめの曲はまだまだ続きます。

静かな空 切り裂く声に 星が駆け抜けて

高嶋さんの歌声が、落ちサビで響きだしました。

終わりはまた、何かの始まりであります。
グループで残した夢の未練をここで絶ち、新たに拓いていく夢の引き金を引く。
その決意表明が、「DREAM TRIGGER」でした。

駆け足で来ましたが、いよいよ終わりに向かいます。
メンバーがこれで最後だと告げて、空気が変わっていったような気がしました。

M18. BRAND NEW STORY

6人が6人とも、歌声が出しづらそうで、とくに高音がしんどそうです。
両部を走り切って喉を消耗したからというのもあるのかもしれませんが、というよりもハイトーンを出す時、同時にわき出てしまいそうな涙をなんとか抑えているせめぎあいの結果のように、僕には映りました。
これまでのどのライブでも、こんなに歌いづらそうにしているメンバーを見たことがありません。

笑顔も崩れています。
いつでも、「BRAND NEW STORY」は前向きな気分をこちらに与えてライブの終盤を締めていました。
これほど悲しく、胸が締め付けられる「BRAND NEW STORY」がこれまであったでしょうか。

本編が終わりました。
6人が横に並び、あとはもう捌けるだけなのですが、涙が止まりません。
浜崎さんなど、いつもなら絶対そんなことをしないはずなのに、下を向いて感情を抑えようとしていません。
涙で震えるメンバーがかろうじて絞り出せたのはこの一言だけでした。

「ありがとうございました!」

他の言葉を探しているようにも見えましたが、このフレーズしか出てきません。
パフォーマンスで出せるものを出し尽くしてしまい、言葉はもうこれくらいしか残っていなかったのでしょう。

捌ける時に誰かがこけたのか、メンバー内でひと笑いも有りはしましたが、ステージは空になりました。
1時間10分程度のショーは、ラストライブ本編は、これで幕を閉じたわけです。

アンコール(EN1~En2)

フロアではすぐに、アンコールの拍手が響き、メンバーの再登場を急かします。

En1. Can’t Stop

ほどなくして一部の幕開けを飾った「Can’t Stop」が再び流れてきました。

大泣きしていたメンバーの顔は、ステージ袖に消えて戻ってきた頃には晴れやかになっています。
一部冒頭に負けじと激しく踊るメンバーを見ていると、むしろここからがライブの始まりかのような気がしてきました。

衣装は、メンバーがECモデルを務めたアパレルブランド・milkfedの、ラストライブのために特注した白のTシャツに、黒の光沢あるスカートです。
トップスはともかく、スカートは今までも履いていたものです。
渋谷LIVE CIRCUITの、市松模様のTシャツやトレーナーの下に履いていたのもこのスカートで、感慨深いです。

そして続いたのは、新生メンバーが生まれる前から先代TPDメンバーが大切にしてきたこの曲でした。

En2. ダイヤモンドは傷つかない

街にあふれる街に転がる
名も無いただのダイヤモンド

「絶対的に」

これまでの8年間を振り返り、インタビューで橘二葉さんはこう強調していました。

「メンタルが鍛えられた」

8年前、14歳で地方から単身上京し、TPDとして過ごした日々の辛さは、簡単に想像できるようなものではありません。
相当ハードだったと思います。
でも、この間に原石が磨かれ、今の橘二葉さんが作られました。
そして精神も、傷つくことのないダイヤモンドほど頑丈なものとなって同時に身についていったのでしょう。

「ダイヤモンドは傷つかない」を終え、各メンバーの最後の挨拶へと移ります。
全てのコメントについて触れると冗長になるので、部分部分だけお伝えします。

メンバーのコメントへ

リーダーの仕切りでした。
「まずは、二葉さんから」

橘二葉さん

ここから、どういうわけか高嶋さんの仰々しい回しが始まりました
二葉さんなんて普段呼ばないはずです。
ふっと笑ってしまうメンバーのMCも、TPDの魅力ですがそれも最後だと思うと寂しいです。

橘さんはこう言いました。

「ほんとにほんとに寂しくて」
「節目節目でTPDほんまに辞めたいと思ったり」

現メンバーの中では末っ子の橘さん。
たまに出る奔放な一言や、自由そうな振る舞いを眺めながら、甘えんぼなキャラクターとばかり思ってこれまで見てしまっていました。
あくまで外側だけを見てそうイメージしてしまっていましたが、その実は辞めていく同い年のメンバーだったり活動への不安を相当抱えていたのだなと、恥ずかしながら最後の最後で知ることとなりました。

橘さんの挨拶が終わるころ、下手側に立つ浜崎さんが、隣の高嶋さんに声をかけました。
どうやら、席から立ったままコメントを聴いていた我々を気づかってくれたようでした。
次のメンバーに行く前に、高嶋さんが「みなさんお座りください。」とフロアに向け、着席を促しました。
気持ちが熱くなってくる中、サブリーダーの頭は冷静です。

脇あかりさん

「ショートカット担当、脇あかりです!」

脇さんはデビュー当初から髪を短くしており、1人ボーイッシュな雰囲気のメンバーでした。
3年くらい前からは髪を伸ばし始め、ずっと黒だった髪を金色に染めることもありました。

前日までも赤茶色系の色で長めだったようなのですが、「めちゃくちゃ悩んだ」結果「8年の感謝をこめて」と髪をバッサリ切り、色も真っ黒に戻しました。

それがあっての、ショートカット担当宣言でした。

結果として切らなくとも、脇さんの選択なのでこちらがどうこう言うはずのことでもありませんが、命とも言える髪を切ったところに、覚悟を感じました。

浜崎香帆さん

喋る出す前に下を向き、大きく息を吐きました。

「芸能界を目指したころにはソロしか頭になかった」

TPD加入前の9年前を振り返り、元々グループアイドルでやっていこうなんて全く思っていなかったそうです。
ですがオーディションの席で、「アイドルとか興味ないですか?」と言われたとき、こだわっていた思いが少し解れました。
ソロでなくとも、デビューできるなら何でもいいやと頭切り替えて飛び込んだのがTPDでした。
元々そんな背景があっただけに、8年間のうちアイドルが向いていると感じたシーンは少なかったそうです。

でも、「8年間一歩も引かずにここまでこれたのは」

「自分が一番やりたかったことはアイドルなのかなって」

高嶋さんからは「立派なコメントでした」と講評付きでした。
ここからは年長メンバーのコメントに移りますが、高嶋さんの仰々しさがより濃くなっていきます。
でも、ちょっと笑えるくらいが、しんみりしすぎなくてちょうどいいです。

櫻井紗季さん

「あっという間の8年間だったんですけど」
「すごく濃かったんだな」

一部のユニットコーナーで櫻井さんがみせたダンスについては、前記事で書いてきました。
表情を見せずに、演技を踊りに落とし込んでいた姿からは、この先の櫻井さんが進んでいく道がはっきりと見えました。

「正解は分からないから、自信をもって、胸を張って自分の歩む道を進んでいきたいと思います」

配信やインタビューのコメントを見るに、櫻井さんは独特の感性や自分の世界を強く持っているのだろうなと思います。
グループの渦中にいても、一歩引いたところから観ているような感じがします。
「バランスを考えて」センターや前に出たがらないのも、これとは無関係ではないでしょう。
引いて客観的に見られているからこそ、「自分が一番早く辞めると思っていた」そうなのですが、それでも結果として8年間もグループの最後まで走り続けました。
本当にすごいことだと思います。

高嶋さんの講評です。
「素敵でした。ありがとうございました」

上西星来さん

高嶋さんが「それでは、星来さん」と大仰に促します。

上西さんも上西さんで、「いかせていただきます」と丁寧に応じます。

上西さんは、ライブ中終始わりとせいせいとしているように見えました。
第一声からも明らかでした。
「言うこといろいろ考えてきたんですけど、今すごいスッキリしていて。スカッとしていて!」

この日がお別れではないと、上西さんは言葉を強めます。

「絶対また、会える機会をわたし作るので!」

太字にしたいくらいはっきりと言い切っていたのが印象的でした。
なんと頼もしいコメントでしょうか。

「ただ」

流れるようなコメントでしたが、上西さんはここで言葉に窮します。

「一番さみしいなと思ったのが、この6人でもうステージを作れないこと」

目標の舞台に立てなかったことへの悔しさも口にしていました。

それでも感謝しかないと、上西さんがメンバーの方をむいて「みんな本当にありがとう」と言ったときに、高嶋さんがつくった仰々しさを残しているのか、他の5人も「ありがとうございました」となぜか他人行儀になっていました。
笑うべきところではないと思いながらも少し面白かったです。

最後は、リーダー高嶋さんです。

高嶋菜七さん

「わたし、ライブが大好きなんですよ」
「一番自分が活き活き出来る場所なのかなって」

6人と、ここにはいない卒業メンバー3人を思い浮かべて、高嶋さんは続けます。

「こんなにも誰かのことを守りたいって思ったのが初めてなくらい、特別な存在達に出逢えた」

この場を借りて、いろんな人に感謝したいですと言い、ファンのみならずスタッフの方、ご家族ご友人へと丁寧に感謝の言葉を述べていました。

アイドルに何を求めるのか。
人それぞれだと思います。
癒しなのか。話し相手が欲しいのか。

あくまで僕は、の話ですが、僕にとってとアイドルは「自分もまだまだだな」「頑張らないと」と思わせてくれる存在です。
ライブで目を見張るようなパフォーマンスを見せてもらうたび、この裏にはどれほどの努力があったのかを想像し、そこには及ばないかもしれないけれど自分ももう少し踏ん張ろうと気合のひもを締め直します。
アイドルが夢に向かってストイックに取り組む姿が、日々の活力となります。

高嶋さんはこんなことを言っていました。

「ここでくじけてはダメだなと思わせてくれるのって皆さんのおかげなんです」

僕からしてみれば、そっくりその言葉をTPDに返したいです。
決してアイドル向きだとは自覚していなかった6人が、一般に5年も持てば御の字なアイドル業界で8年間も活躍し続けた事実からは、本気とはこういうことなのだと教えてもらいました。

En3~ダブルアンコール

メンバーのコメントはここまでで、アンコール最後の曲に移りました。

En3. DREAMIN’

多くの方が、次の曲ばかりは予想できたかと思います。
アンコールラストの一曲は、「DREAMIN’」でした。

ビルの隙間のきゅうくつな空に 飛行機がキラめいた 私も急がなくちゃ

TPDとしての夢は終わりました。
しかし、新たなスタートラインに立つメンバーの夢は6通りに続いていきます。

両手でポンと真上に放り投げる振り付けで飛ばした願いは、次のステージに向かっていったのでしょう。

夢が叶う未来で流す涙になれ

曲が終わり、メンバーが立ち去るのを見送る拍手と、メンバーを呼び込むダブルアンコールへの拍手は見分けがもうつきません。
メンバーが捌けた後、後方の席でも半分ほどの方は立ったままでした。

WEn1. BRAND NEW STORY

ダブルアンコールは、すぐやってきました。
笑顔で挨拶を交わし、記念撮影をして、オーラスの曲に入りました。

そしてこれが本当の、本当のラストです。
「BRAND NEW STORY」

これまで何度もTPDの、そして応援する我々の背中を力強く押してくれたこの曲は、最後にはメンバーの船出へのはなむけの言葉に変わりました。

涙が流れた跡は 奇跡への地図に変わるよ

メンバー皆アンコールまで大粒の涙を流していましたが、ダブルアンコールでは出し尽くして枯れたのか、それとも悲しさや寂しさを一旦は押し込めたのか、誰もがいっぱいの笑顔でした。
こらえていたものを出さなくてよくなったためか、声も出ています。

気が済むまで流した涙は乾き、6通りの進路に向かって別れていきます。
湿っぽい別れに終わらなかったところがらしくていいです。
2サビでは両翼に立つ脇さん、浜崎さんの「中トロコンビ」によるアイコンタクトもありました。

曲が終わり、メンバーは横一列で手を握りあい、「ありがとうございました!」とZepp Tokyoの大きなステージに、マイクを使わず地声を響かせていました。

後方、2階席、左右。
くまなく挨拶をして、Fullな愛を伝えてダブルアンコールは、TPDのラストライブは終わりました。

「これからもどうぞよろしく!」

TPDロゴの電飾が色を落とし、場内が明るくなります。
いくら拍手したところで、もうメンバーは出てきません。
これでもう、全てがおしまいです。

帰りの路につきながら、たちあらわれてきた感情を言葉にするのであれば、上西さんの言う通りスカッとした感覚が近かったかもしれません。
マイナスな感情よりも、送り出すもののプラスな感情の方が勝っていました。

ライブの内容はここまでで、ここからは少し個人的な話をさせてください。

常にあった不安

TPDのライブに通いはじめてから、つねに片隅にあったのは「いつ終わるのか」という漠然とした不安でした。
好きな気持ちが膨らみすぎると、それを失ったときの絶望感も大きく抱えていることを、あるとき気が付きます。

僕がTPDを好きになった2018年は、既に結成5周年を迎えていました。
アイドルで5年間も続いたのなら十分すぎます。
円熟の期に片足を踏み入れるグループを応援し始めるということは、デビューしたての、まだ何にもなれるグループに熱を上げるのとはまるで訳が違います。
6人の性質から言って、いつまでもアイドルという肩書にしがみつくタイプとも思えませんでした。
およそ10年を超えて活動しているグループが名前を挙げられるほど少ないことを思っても、終わりは遠からずくるのだと覚悟していました。

落ち目になっているとか、停滞気味とかそういう意味ではなく、どんな人も組織も、過ぎていく時間には逆らえません。
カウントダウンの針がどこで止まってしまってもおかしくないだろうと思いながら、TPDを見つめているところはありました。
果たして、これが正しい見方だったのかは分かりません。
いつ終わるか、あるいは誰かが抜けるかなど我々にどうしようも出来ないことなのだから、来るかもわからない未来よりも今を、という考えのほうが精神的に落ち着きは保てそうです。

しかしあえてマイナスに考えるというのは、今から思えば理由もなしに不安がりたいということより、自分のメンタルを保つお守りだったような気がします。
いつかは訪れるであろう喪失感ー最近ではこれを「ロス」と言うそうですーを、心の準備をすることで軽くしたいがための保険でした。
あとで振り返れば考えすぎだと思ってしまいますが、それくらいアイドルとの別れは急にやってくるものです。

最悪のシナリオは、ライブ後のアンコールでのMCで発表がなされ、楽しかったはずのライブの記憶がそのことで上塗りされてしまうことでした。


今から思うと、2019年の年明け一発目には「TPDビギナーのための公演」を開催していましたし、すぐにどうこうなるとは冷静に見ると考えづらかったのですが。

応援していく中で、区切りはここかな、と勝手に思っていた時期がありました。
例えば2019年3月。
2018年7月から続いた月一の定期公演、「渋谷LIVE CIRCUIT」のファイナル公演でした。
ライブシリーズのみならず活動が終わってしまうのかな。
渋谷ストリームホールには相当ドキドキして向かっていました。
MCでメンバーが何を話していたかはもはや覚えてもいませんが、そんな雰囲気すら感じさせない楽し気なトークに拍子抜けするとともに、心底ほっとしたことを覚えています。

その年の6月に開催された6周年記念ライブの場でも同じく不安がり、同じく無駄な心配に終わりました。
ただ、いつもと少し違ったのは、リーダー高嶋さんの口から「この夏は個人活動に力を入れていく」という宣言があったことでした。

既に美容モデルやテレビのリポーターなど、各人のキャラを活かして活動の場を広げていたTPDメンバーですが、個人が活動の場をもっと広げてグループに還元出来るようにという名目で、2019年夏は個人活動にさらに重きを置くとここで明言したのでした。
これがすぐグループの休止に繋がるとは思いませんが、この先を見据えた布石が打たれたことは確実でした。
この年の夏から秋にかけ、女性限定ライブやソロライブ、あるいはバスツアーなどがあったものの、確かにCDリリースやライブなどグループとしての活動はほぼありませんでした。

6人が集まったのは、2019年の冬になってようやくでした。
浜崎香帆さんは別仕事で不在でしたが年末にはサンタコスでクリスマスライブを、年明け2020年にはデビュー初期のころに数多く立った渋谷CBGKシブゲキ!!でのライブを開催していました。
ただ、前年秋からこの時期にかけ、今度はこちらの都合ですが個人的にかなり忙しく、差し迫る修論よりライブを優先させられず、行くことが出来ませんでした。

それも終わり、やっとライブに行ける...と思った矢先、コロナ禍に見舞われてしまったのでした。
そこからも常に不安は付きまとっていましたが、無観客配信でも6月には7周年ライブが無事開催されました。歩みがまだ止まらないことを知り一安心です。
9月、10月に行われた配信ライブだって何かあるのではと構えていましたが、ハロウィンの仮装をして和やかに本番前トークしている姿を開演前に見てほっとしていました。

このように、いつかライブ中に「重大発表」があるのではないかと少しばかり緊張しながらライブに向かい、結果的には幸いにも毎回杞憂に終わりました。

最終的に、翌2021年5月にグループ活動休止の発表がありました。
ライブではなく公式HPからの書面での発表です。
書面が先か、メンバーの口からが先かは大した問題ではないのかもしれませんが、全てのライブが楽しいままに終わったことは良かったと、心の底から思います。

メンバーも、この発表がなされるまで、実現可能性があるかは置いておいて、いつでもグループの未来を見据えた前向きなコメントをしてくれていたのもありがたかったです。
TPDは6月を大事な月としています。
それは結成日や1stシングルの発売日などが6月に集中しているからなのですが、例えば2019年6月にリリースされた「SUPER DUPER」の時は誰かが「6月の全ての日にシングルを出したい」とコメントしていた記憶があります。

昨2020年10月には、同事務所のwacciが主催する、武道館での配信ライブにTPDの年少組3人が一部出演しました。
この時は、「TPDでも武道館に立ちたい」と、3人の間で夢を語っていたことを後で教えてくれました。

現実的には、そもそもここから30枚もシングルを出すことなんて厳しいですし、武道館だって現状からみれば背伸びをしているほうです。
でもそんなことはどうでもよく、先が不透明なアイドルの世界で、それくらいまで活動したいと、追い続ける理由を最後まで提供してくれていたことがうれしかったのでした。

ほどけない手

そしてもう一つ。
一部ライブ後のMCでは「初解禁の情報」として、デビューから4年間、メンバーが一つ屋根の下で一緒に暮らしていたことを発表していました。
取材で仲の良さや連帯感の秘訣を聞かれても、一緒に住んでいるとは言えないためなかなか明かすことが出来ずここまできてしまったようです。

結果として、繋いだ手をなかなかほどけない仲の良さを生んだようなのですが、これは場合によってはグループの寿命を縮めていたかもしれません。
集団行動が出来る出来ないに関わらず、他人と一緒に過ごすのは場合によっては苦痛にしかなりません。
嫌なところまで気になり、それが活動そのものにヒビを入れることだってあり得たかもしれません。
それが結果的に4年も続き、うち6人は8年間も手と手を繋いで仲良くここまで来られた。
言葉ならぬつながりがあるような気がしますし、メンバー6人がアイドルという道を選んだ時になるべくしてなった組み合わせだったのではないでしょうか。
言葉にするとなんて陳腐なんだと思ってしまいますが、運命的なものをここに感じずにはいられません。

「おばあちゃんになっても仲良くしてね」
「お茶飲もうね」

最後のMCで、6人はこう言葉を交わしていました。
たまにはプチ同窓会をして、その姿を知らせてもらいたいものです。

書きたいことは大体書きました。
動きがない以上、もう恐らくTPDについて書くことは今後無いと思います。

濃淡はありましたが、3年間でもTPDを応援することが出来て幸せでした。
ここまで長々と、ライブの再構築をしようとあれこれ書いてきましたが、これに尽きます。

TPDメンバーのこれからを、末永く応援しています。
楽しい時間をありがとうございました。

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二部セットリスト

210926TPDラストライブ_セトリ二部


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