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【ライブレポ】KEYTALK 2021年全国ツアー Zepp Tokyo 1日目

「この4人で」

ギターボーカルの巨匠(寺中友将)はMCトークでこう言いました。

「音楽をやることが幸せなんだなって」

ふと目を抑えました。
まさかの男泣きです。

アンコールでの出来事でした。

4ピースバンド・KEYTALKがこの10月から11月にかけ、全国10会場を巡るツアー「最高の笑顔でいきますよ!よーい!ACTION! ~お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれませんね。~」を開催しました。
今年の夏にリリースしたメジャー7枚目のアルバム「ACTION!」をひっさげてのツアーです。
ツアーファイナルはZepp Tokyoでの2days公演でした。
今回はその一日目公演のライブレポです。

アルバムのツアーともなると、どうしてもそのアルバムの収録曲がセットリストの中心になります。
しかし、この日の、というかこのツアーのセットリストはアルバム曲だけに偏っていませんでした。
インディーズ時代から直前のアルバムまでバランスよく混ざったまだら模様のセットリストでした。
けれどもポイントでは「ACTION!」の存在を強く感じ、12曲の新曲という武器を増やしたKEYTALKのこれからが期待されるような構成でもありました。

印象的な曲をピックアップしながら、早速ライブレポに入っていきます。

M1.「もういっちょ」


一曲目から「ACTION!」曲でした。

MVもメロディーも歌詞も、KEYTALKらしい曲からのスタートです。
MVでは南国の孤島のような、あからさまなCGセットをバックにしており、グリーンバックを背景に撮影したんだなという雰囲気は、「MABOROSHI SUMMER」のようです。
1Aの冒頭、巨匠が歌う「風が鳴くシグナル 身に纏う空模様」という旋律は、懐かしさと寂しさを運んできました。
ここには「アーカンザス」「MURASAKI」要素をほんのりと感じます。

と思ったらサビではフレーズの中に「ヤーレンソーラン節」などと不底抜けに明るい単語が出てきました。
一曲の中に不自然なギャップを生むところはKEYTALKらしいです。

M3.「大脱走」


場内の照明は絞られて暗くなりました、
無機質な照明が、監獄を見張る灯台の明かりのように会場の隅々を照らしました。
タイトル通り、身柄を確保された武正が警察官役のボーカル二人をかいくぐって脱走するという「大脱走劇」がMVのストーリーになっているのですが、次々と変わる視点や3分もないという曲の短さなどもあり、疾走感では随一です。
義勝のファルセットを存分に効かせた高音が、いつ捕まるとも分からないハラハラ感溢れる世界観を演出します。

M5.「サンライズ」


2020年3月にリリースされた配信シングルでした。
「もっともっと向こうへ ずっとずっと向こうへ」
くしくもコロナ禍となってから一発目にリリースされたのですが、タイミングがタイミングなだけに、応援歌のように受け止めた人も多かったのではないでしょうか。
とはいえ、あまりに真っ直ぐすぎるこの曲は、真っ直ぐすぎて受け入れるまでに時間がかかったのですが、ここにきてとてつもなく心強い曲になりました。

ベースは遊び、ギターは泣くようにメロディーを奏でます。
巨匠の声には立体感があり、PAより後ろの席から見ていても近くにいるかのように感じました。

M8. 「不死鳥」


妖しい雰囲気漂う、「マスターゴッド」や「F.A.T」のような路線の新曲です。
薄暗くなったライブハウスに居合わせた人達の間で秘密を共有しあうような雰囲気がどこかしらに漂いました。
間奏にはドラムソロがあります。
水色の光がとりかごのような模様を成し、ドラムの八木氏を照らしていました。
音源以上に乾いたスネアの音や、バスドラのキックの音は、いっぱいに張った膜をスティックで鳴らす様子が直に伝わってくるようで気持ちがいいです。

M9. 「誓い」

照明は赤くなりました。
ここで注目したいのが、首藤義勝の歌声です。
放り投げるような義勝の歌声は、生で聴くと小刻みに揺れる低音からグンと伸びていくような感覚を覚えました。

M11.「Orion」

「曲は育っていくものだと思う」
ギターの小野武正はこう言いました。
このツアーは「ACTION!」を育てるためのツアーでした。
「ACTION!」の曲は全国10会場・計15公演でセットリストのメインに据えられ、フロアからの反応を吸い込んで養分にしてきました。
個人的には、初めて聴いたときとのギャップという点で一番良く育ったと思うのが、この「Orion」でした。
白く光を放つイルミネーションが思い起こされる、冬にピッタリの曲です。
2020年末に初披露された際の音源を聴くのと、この日ライブで聴くのとでは印象ががらりと変わりました。

音源のみを聴いたり、以前のフェスで聴いたときにはなんというか、そぎ落とされて洗練されすぎな感じを受けたのですが、ツアー10箇所を経てもどってきたら、ある種の贅肉をつけ、しんみりしすぎないいい塩梅になっているような気がしました。
こちらのほうがどうもKEYTALKらしいです。

一人が歌いきるところでもう一人が歌い始め、フレーズが途切れず続いて聴こえる、という「OSAKA SUNTAN」のサビのような、ツインボーカルならではの表現を味わえるところもこの曲の魅力です。

M14. 「Love me」


お客さんが一段と跳ねます。
フロアが浮き、多く伸びた手の隙間からステージを仰ぎ見る感じになりました。
メロディーは跳ねたくなるくらい楽しくてしょうがないのですが、一方で詞は決して順調とは言えない片思いの曲です。
この、光の反対側に隠れた影をちらつかせるという一筋縄ではいかない見せ方も、「もういっちょ」の繰り返しにはなりますがKEYTALKらしいです。

今もなお、KEYTALKはお祭りバンドというラベルをつけられています
しかし、ライブ定番の明るい曲の中には意外にも心の琴線を刺激されるようなメロディーが多かったり、そうした言葉が織り込まれてもいます。

M15.「スターリングスター」


この日は曲ごとに照明の色ががらりと変わっていました。
「スターリングスター」での照明は、青白い光です。
義勝の声の調子がかなりいいと、この日は感じました。
高音に詰まることも少なくないように思っていたのですが、この日はそれもなく、より浸ることができました。

M16.「照れ隠し」

オレンジ色の照明が末広がりにステージを照らしつけ、巨匠がその真ん中で歌っていました。
暖かさが広がります。
ここの声は完全に二枚目でした。

M17. 愛文

心のどこかに吹いた隙間風を温かく変えてくれそうな、純な曲です。
鉛筆をなめてる姿が全国に放送された人が書いたとは到底思えません。
ニュアンスでいうとこの曲は「Siesta」「おはようトゥエンティ」「Flower」といったカテゴリーの、ふわっと優しい曲たちのなかに分けられるのかなと思うのですが、ゴリゴリのお祭りロックだけでなくこうした曲を毎アルバム忘れず入れてくるところがにくいです。


M18.「宴はヨイヨイ恋しぐれ」

これまで、フェスでも単独でも、KEYTALKのライブの締めは大抵決まっていました。
例えば「MONSTER DANCE」や「MATSURI BAYASHI」などです。
ファン以外にも名前の通った曲で、さらにこれらの曲には振り付けがついています。
「踊れる」というのが、バンドの他の曲ではあまり見られない最大の特徴です。
最後に踊りあかしてライブを終えようじゃないか。
それが、数年前メジャーシーンに一気に押しあがったKEYTALKの、昔から続く「外向け」のライブスタイルでした。

しかし、この日の本編ラストにチョイスされたのは、「モンダン」でも「MATSURI BAYASHI」でもありませんでした。
「ACTION!」の新曲「宴はヨイヨイ恋しぐれ」でした。

曲がかかり、フロアの空気を吸いました。
大げさかもしれませんが、時代が変わったと直感的に思いました。
定番の踊れる曲たちの中に、「宴はヨイヨイ恋しぐれ」が風穴を明けた気がしたのでした。

この曲には、他のお祭り曲のようにまだ振り付けはついていません。付くことももうないのではないでしょうか。
さらに言えば、今はコロナ禍です。
この日は録音してあった歓声がところどころで響いてバンドの背中を押しましたが、我々には声を出すことが許されていません。

こちらからできるアクションといえば、サビ前の「PPPH」か、3.5拍目で手拍子を鳴らすという、KEYTALK特有のクラップくらいです。
でも、フロアは冷めませんでした。
ツアーで育った賜物なのか、むしろ熱さを増していくような感じでした。

もう踊りもなくてもコールも無くても良いじゃないか。
そう言ってくれる強い曲がここにきてようやく現れた気がしました。

アンコール

EN1. 「nayuta」

Tシャツなどに着替え、一定間隔の拍手に導かれるままにメンバーは出てきました。
「久しぶりの曲です」
黄色い光が放たれ、「nayuta」が始まりました。
「理想郷のリンカーネーション 空間裂いて想い転送」
2018年リリースのアルバム曲をいまさら振り返るまでもないのですが、文学的な詞に残る青臭さは、KEYTALKらしさではないでしょうか。

EN2.「Summer Venus」


一音目が鳴らされればフロアは条件反射的に手を叩きます。
竿隊3人はお立ち台に上がり、八木ちゃんはドラムスティックを天に突き出しました。

EN3. 「ラグエモーション」

そしてアンコールラストは「ACTION!」曲でした。
「ラグエモーション」です。
「ACTION!」のジャケットは、映画撮影の「よーい、アクション!」をイメージしているのか、カチンコのようなつくりになっています。
この日のステージ背景もそれにならい、真ん中に「KEYTALK」の文字と、その上下にフィルムの白黒のネガが描かれていました。
最後に来て、それまでおとなしかった「KEYTALK」の文字がぱちぱちと点滅しだしました。
この日、昔の曲もやりながらもしっかりと「ACTION!」メインのライブだと感じたのは、トップバッター、本編ラスト、アンコールラストといった記憶に残りやすい部分にもれなく「ACTION!」曲が入ったからでした。

以上がライブレポです。

男泣きの理由

ここで、コロナ禍となってからのKEYTALKについて書いてみたいと思います。

もともとKEYTALKは、幕張メッセでの2daysライブを予定していました。
2020年5月のことです。
しかし状況が許さず8月に延期となったのですがこれも実現せず。
結局2021年1月にまで延びてしまいました。
会場も、当初の幕張メッセから代々木第一体育館へと変わりました。
その間9~11月まで3カ月連続のオンラインライブが開催され、長らく待ったワンマン2daysへの気運は否応なしに高まっていました。
オンラインライブに差し込まれた映像では、代々木に向けて徐々に近づいているような演出もなされていました。

しかしながら、1月公演もコロナの影響で開催にこぎつけることは叶いませんでした。
いつまでも延期はできないということで、結局チケットは払い戻しに。
ライブそのものが中止になってしまいました。
ライブに先立って、ファンに3曲分の投票権が与えられ、代々木で披露してほしい(好きな曲でしたかね?)のアンケートが行われたのですが、それも順位を知る前に白紙に戻されてしまいました。

新曲も、2020年は配信シングルでコラボ合わせ4曲をリリースしましたが、コロナの影響でもしかしたら理想としていた出し方とはならなかったかもしれません。

いつもは仲良し4人+スタッフの方で和気あいあいとしているミーティングも、この話が机上に乗ったときばかりは沈黙が流れたといいます。

2年近くぶりにリリースされたこの「ACTION!」というアルバムは、そんな手探りの中産み落とされた作品でした。
アルバムリリースやワンマンライブといった、アーティストがアーティストでいられるはずの活動であるライブや新曲制作が無抵抗のうちに塞がれ、その場で足踏みをせざるを得ませんでした。
そんな感情が溢れたのが、冒頭に書いた巨匠の男泣きでした。

とはいっても、状況は次第に良くなってきています。
あくる2021年4月には、中止公演のせめてもの代わということでワンマンライブ「いざ爛々乱舞ぼくらのワンマン始業式〜皆さんが静かになるまでに3分24秒かかりました〜」がこの日と同じZepp Tokyoにて開催されました。
一日2公演ということで曲数はコンパクトになっていたものの、久々の有観客ワンマンで弾みはつきました。
そして8月には「ACTION!」のリリース、そしてこのツアーは有観客でトータルほぼ2時間にわたる長尺ライブでした。

ロックシーン自体、ビバラの開催が早々に発表されるなどこの2年間を取り戻そうという動きは高まっています。
2022年に向けての「ACTION」は確実に進んでいるという印象です。

「これから「ACTION!」を越えるかっこいい曲を作っていく」
そんな、力強い決意を聞くこともできました。

変わらない関係

「曲行きたくないよね」
この日、アンコールの時だったか、武正はこう言いました。
ずっとこのままでこの空気を楽しんでいたい。
次の曲に移らず終わりたくないというのが、この言葉の本心です。
演奏中、竿隊が向かい合う姿は無邪気でした。
しきりに繰り返していた「楽しい」という言葉を体現するかのように、ステージ上の4人の姿は激しく動いていました。
この空間を去るのが本当に惜しい。
毎度ライブは楽しいものなのですが、この日はひとしおでした。

ところで、何の話がきっかけかは忘れたのですが、数十年後のライブへとMCの話題が移りました。
「ロックはどうなってるんだろうね」
「平均年齢が100歳越えたりとか」
まずあり得そうもないのですが、子供の夢想のようにおしゃべりする4人の姿を見ていると、なんだかこちらもそんな未来を想像してしまいます。

かつて公式YouTubeチャンネル内で、40歳になったら..という10年近くも先の話を4人でしていたことを思い出しました。
人によってはためらってしまうような未来の話を、楽しい雑談の中にさらっと入れてくれるのはファンとしてはうれしいですし、彼らが前を向いている限りは自分たちも同じ方向を向こうと思わせてもらいます。

4人全員作曲家の顔を持つことで生まれる多彩な曲や、新しくともどこかにKEYTALKらしさを残す曲を耳に入れ、MCやラジオでは、くだらない話をして下ネタを放つ、30歳を越えてもなお中高生男子っぽさが残る4人の話で笑う。
KEYTALKを観に行く理由が、ここにあります。

活動の中で、バンドに様々な葛藤は間違いなくあったはずです。
30歳を境に4人の言動が変わってもおかしくありません。
でも、それを感じさせませんし、変わりません。
ここが彼らのすごいところです。

まだまだついていこうと思わされたのが、この日のライブでした。

最後に、巨匠のソロライブに八木氏、武正の「オリメン」二人が潜入したドッキリ動画を上げて終わりにします。
ドッキリと言いながら同じパターンでもう3度目なのですが、8年前の初回から変わらず面白いです。
これが、KEYTALKです。

見出し画像:KEYTALK公式ツイッターアカウント画像を改変


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