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秋に浮かぶ一等星  KEYTALK「フォーマルハウト」

「金木犀が香る季節になってきましたね」
2年前の秋に行われたKEYTALKワンマンライブ、メンバーの巨匠だったか小野武正だったかがこう告げて「フォーマルハウト」が披露された。歌詞の中に「金木犀」という単語が入っていること、秋にはふさわしい曲ということなどを考えても、その季節の雰囲気にマッチしていた。
そのライブは珍しくライブハウスでなくホールで開催されたこともあり、ライブハウスとは違った広がりのある空間に響き渡る音が心地よかった。

余談ではあるが、KEYTALKには「金木犀」という曲もあり、冒頭のMCを聞いたときに、僕はこっちを披露するのかと思っていた。

さて、今回はこの「フォーマルハウト」について紹介しようと思う。この曲は、KEYTALKがインディーズ時代に出したフルアルバム1作目「ONE SHOT WONDER」に収録されている一曲である。

そもそも、「フォーマルハウト」というのは、「みなみのうお座」という星座の最も光り輝く先端部分をなす一つ星である。
うお座の先端に位置するということもあり、「魚の口」をあらわすアラビア語からその名が来ているらしい。
フォーマルハウトはまた、一等星として秋の夜空に輝いている星でもある。
4つの星を結んだ、台形に近い形の「秋の四辺形」から、南下した延長線上にフォーマルハウトは存在する。

歌詞でも、フォーマルハウトと四辺形のつながりを示唆している。

知らないままで追いかけた
秋に浮かぶ四辺形を
声に出して教えてよ

冒頭で巨匠か武正がコメントしたのも、金木犀だけでなくタイトルの「フォーマルハウト」自体が秋のみに見られるものであることを踏まえているのだろう。

この曲収録のアルバムがリリースされたのが2013年。その前年にはフォーマルハウトの周りを取り巻く環の写真が天体望遠鏡によって撮影され、発表された。発表当時には環全体の綺麗な像はまだ撮られていなかったが、2017年には完全な環の形が捉えられた。それが見出しに掲載した画像である(以下のサイトより)。

環全体が撮影されたことは、学術的にはもちろん大きな示唆を与えるものでもあるが、単に視覚的にも美しい。黄色の強い光を放つ、卵型をしたフォーマルハウトの周りを、楕円形の綺麗な環が取り巻いている。環が成すぼやっとしたオレンジ色も、幻想的な気分を高める。
それにしても、計算して作ったかのように環の形が綺麗なのはなぜなのだろうか。

一方この曲では天体だけでは無く、地上にも目を向けている。
冒頭の「金木犀」が出てくる部分であるが、この金木犀もまた、綺麗なオレンジであり、その強いにおいとともに秋の象徴としてはおなじみである。

金木犀


オレンジ色に影染めて
纏いついた金木犀は

後出し感は否めないが、この歌詞のなんかは、フォーマルハウトを取り巻くオレンジの環を構成しているものを「金木犀」に見立てているんじゃないか、そんな気がしてくる。見出し画像の色と比べても、それっぽくないですか?フォーマルハウトの環は、本当は宇宙の塵から構成されているらしいのだが、それで終わりにしてしまうとこの曲を語るにあたっては無粋な気がする。

先日のKEYTALKオンラインライブでは、確か3曲目にこの「フォーマルハウト」が披露されたのだが、暗めの照明の中に浮かび上がる、マイクスタンドに取り付けられたオレンジ色のライトはまさに夜の秋空のフォーマルハウトを暗示しているかのように感じた。
歌詞だけじゃなく、曲が醸し出す郷愁の感や、拡大解釈すればKEYTALKメンバーの衣装なども、これから迎える秋を一足先に感じさせてくれるようだった。ライブレポも書いたのでもしよければご覧ください。

秋の夜空、南の方角に存在感をもって光る一等星、フォーマルハウト。秋に輝く一等星はフォーマルハウトただ一つらしく、「たったひとつ」から感じる孤独さもこの曲を聴く上では見逃せない。「フォーマルハウト」は、メインボーカル首藤義勝の切ない歌声が乗っかることで、秋の寂しさ、物悲しさを感じさせるとともに、フォーマルハウトの色の魅力も表現している良い曲だと思う。やっと季節も秋に入ったが、フォーマルハウトはそんな時にピッタリの曲である。
KEYTALKにはお祭りバンドのとしてのイメージが根強くあるとは思うのだが、一方でこのような深みのある曲も残されていることを、「フォーマルハウト」を通じてお伝えしたかった。

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