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単なるイロモノに終わらなかった つりビット「ウロコ雲とオリオン座」

これまでに東京パフォーマンスドールを筆頭に、2014~2016年あたりで気になっていた(好きだった)アイドルとその曲を列挙して紹介してきたが、つりビットの存在を忘れていた。2010年代中盤のアイドルシーンで「楽曲派」と名乗るのであれば、つりビットをおいては語れない。これまで忘れていた分際で言えたことでもないが。

一見目を引くコンセプトを打ち立てながら単なる「イロモノ」では終わらなかったこのグループ、2019年春をもって道半ばで解散となってしまったが、アイドル人生を全うした数少ないグループの一つなのではないかと推測する。

「いつか世界を釣り上げます」。ライブでは釣り竿を引き上げるジェスチャーとともに、MCでもおなじみのキャッチコピーであった。釣り×アイドルという異色な組み合わせは、様々なキャッチコピーが乱立する地下アイドルの中でも目立っていたかと思う。

普通、珍しいコンセプトとともにデビューしたアイドルグループというのは、デビュー当初こそそのコンセプトを守るための細かい設定がなされることが多い。曲もその世界観・設定に合わせたものとなる。


けれども、だんだんその設定にもひずみが出てくる。もともとコンセプトがインパクト重視であるため、作れる曲に制限が出てきやすくなることなどが原因だろうか。

個人的には、デビュー当初には無個性で右も左も分からなかったようなメンバーが、だんだんとアイドルでいることに慣れ、垢ぬけてもきた結果表出させた個性が、もともとのアイドルのコンセプトと合わなくなることも一因であると思っている。メンバーが中学生、高校生の時にデビューすることが多いアイドルの世界では、予想だにしなかったメンバーの急成長とそういったコンセプトとの乖離が生じることは避けられないだろう。

そんなこともあり、多くのアイドルでグループコンセプトはしばらくするとどこかへといってしまう。これは何も悪いことではない。コンセプトに縛られないからこそ楽曲の幅が広がるだろうし、悪い意味でのイロモノ感が取り除かれ、ライトにアイドルを楽しみたい層を呼び込みやすくなる面もあるだろう。

その中にあって、つりビットはそのコンセプトを守りつつ、一線のアイドルとして成り立った稀有なグループではなかっただろうか。MCで各メンバーが自身のメンバーカラー紹介よろしく釣りたい魚を宣言するスタイルも、コンセプトが薄れていたらとっくに消滅しているだろう。

しかし、コンセプト云々を抜きにしてもその楽曲の質の高さはデビュー当初から出色だった。目を引くキャッチコピーに反し、曲自体は王道アイドルソングそのものである。タイトルも魚関係と結びついたネーミングが取り入れられることも多いのだが、その実はイロモノではなかった。

ファンでもないので、あまりに手を広げすぎてもまとまりに欠ける。ここでは一曲だけの紹介にとどめる。2015年にリリースされた「ウロコ雲とオリオン座」について。
真っ白の衣装を着たメンバーが、テンポのいい、けれどもどこか切ないメロディーをバックに屋上で踊り歌うダンスショット。
MVではまた、制服を着た各メンバーが様々な「青春」模様を演じている。つりビットを象徴する、ど真ん中のアイドルソングといえると思う。

メンバー5人がユニゾンで歌う、この清々しいまでの小細工の無さも、より真正面から耳に入ってくる感じがする。
各メンバーの歌声にも癖がないのも良い。


アイドルの曲は、ファンのコールが挟まれることを前提として作られるものも多く、盛り上がりだけを重視してしまうきらいがある。そのため、ライブでは映えても家に帰って聴いてみるとそれ以上の魅力を感じない曲も多い。

個人的にはアイドルはライブが命とは思っているので、盛り上がるに越したことはないのかもしれないが、後々聴いたときに響いてこないこともあるのも少し悲しい。
それに対しつりビットの曲は、十分に曲だけで成立している。コールがないことの物足りなさも感じない曲が多い。解散した今、再び聴きなおしても、改めて良い曲ばかりだと思う。

ライブに行かなかった言い訳をさせてもらうとすれば、あまりに彼女らが若すぎた、ということかもしれない。平均年齢が当時は15歳くらいなので、僕の5つくらい下ということになる。その差をどうしても大きく感じてしまい、サブスクで聴くにとどまってしまった気がする。


また、先述したように、ファンのコールなど無くとも純粋に曲としてよくできているので、ライブに行って聴くまででもないと思ってしまった部分は大いにあったと思う。しかし、これもライブに行かなければ本当のことは分からない。ライブに行ったところで良い曲の個人的な評価が下がることも無いだろう。いい曲ばかりと思うのであれば、解散の前に一回でも行っておけば良かったと悔やむばかりである。

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