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【ライブレポ】翡翠キセキ 「未来坂、登ったら」

先日、メンバーの神谷優月さんが、オーディション合格からここまで1年間のアイドルとしての活動を振り返った記事をnoteに投稿しました。

分かりやすく非常に読みやすい筆致で、活動の記録がつづられています。

デビュー当初は同事務所グループのバーター的な存在でしかライブに出演できなかったこと。
他のグループならどうだったのだろうと夢想しながらも、はじめて事務所外のライブで想定以上のお客さんを迎えられ、このグループで頑張っていこうと決意を新たにしたこと。

この日のライブまでに記事を完成させようと、休みを削って書いたそうです、
文章が非常に滑らかなので、グループに入ってからの苦悩や充実はその当時を知らない僕にも非常によく伝わってきました。

その中でも一番印象的だったのは活動前夜。
「神谷優月」となる前の話です。

ここについて書くにあたり、翡翠キセキの「軌跡」について簡単に触れてみます。
エイトワンに所属する翡翠キセキは、当初は4人組として2021年6月にデビューしました。
メンバー4人ともオーディション経由で初期メンバーの座を勝ち取ったのですが、新グループ立ちあげのつもりでオーディションを受けた人は誰もいませんでした。
というのも、彼女らが応募していたのは2020年にエイトワンよりデビューしていた「透色ドロップ」の新メンバーオーディションだったのでした。
この時点では、新グループの話など誰も聞かされていませんでした。

2000人を超える応募者の中から、最終審査に9人が残ったそうです。
審査の結果、晴れて透色ドロップになったのが5名。
しかし、呼ばれなかった4人の候補者は「不合格」というわけではありませんでした。
4人には透色ドロップとは別の道が用意されていました。
それが、翡翠キセキでした。

しかし、最終審査からしばらくしても、何の音沙汰もありませんでした。
結果的に連絡が4人の元に届いたのは、1週間以上たってからでした。
合否の連絡が一週間経っても来ないのは、アイドルのオーディションを受けたことのある人の感覚としては長いほうらしいです。

「多分落ちた」

長い待ち時間は、神谷さんを半分諦めさせ、ある行動へと駆り立てました。
それが、ダンス動画の撮影でした。
審査員に不合格を踏みとどまらせるために、レッスン場を借りて一人踊る様子をカメラに収めていたのでした。

「運営に送りつけるつもりだった」

神谷さんは当時を振り返ってこんな表現をしています。

この日パフォーマンスを初披露した新曲「未来坂」にはこんな歌詞があります。

あきらめの悪さだけは誰にも負けない

迷惑を承知というニュアンスを込めて「送り”つける”」とした神谷さんのこのコメントに、足元にしがみつくようなあきらめの悪さがにじみ出ているような気がしています。

「未来坂」を聴きながら神谷さんのnoteを読んだ白松ゆりさんは、歌詞と記事とでリンクするところを感じずにはいられませんでした。
涙を流しながら記事を読んだそうです。

白松さんにもまた、「未来坂」の背景があります。
専門学校の卒業が間近に迫っていたにも関わらず就活をせず透色ドロップのオーディションを受けたそうです。
「仕事にするために来た」
透色の最終審査には、これが唯一の就活だという意思をアピールするためにリクルートスーツで臨みました。

noteの内容に触れたところで、2月27日(日)に開催された、翡翠キセキ3人体制で初のワンマンライブ「未来坂、登ったら」に入っていきます。

サブタイトルには「アンケートありが10公演」とありました。
どういう意味なのでしょうか。
MCでは、メンバーの口からその説明がなされました。

昨2021年10月、グループ初のワンマンライブを終えたころ、翡翠キセキはファンにアンケートを取りました。
内容は、今後翡翠キセキに何を望み、どういう取り組みをしてくれたら嬉しいか。
もっと上を目指していくために、ファンの知恵を借りました。
アイデアは数え切れないほど集まったそうです。
そこから10個の企画が厳選され、一つずつ実行に移されていったのが「ありが10企画」でした。

例えば、おためしチェキ、主催対バンライブ、ポイントカードの発行など...
翡翠キセキを知ってSNSを覗いたとき(ほんの1カ月前ですが)、ポイントカード制度の存在を知ったときは独特な取り組みをしているなと思っていたのですが、根本をたどるとアンケート発のようでした。

アイデアは着実に実行され、今年2月の時点で10個中8個の企画が現実のものとなりました。
残り二個です。
最後に残ったのが、「新曲リリース」「ワンマンライブの開催」でした。

2月25日、まず新曲「未来坂」が配信解禁となりました。
そして2日後の2月27日、メンバーがオーディションの合格通知を受け取ってからおよそ1年後のこの日、10個めの願い「ワンマンライブ開催」が実現したのでした。

メンバーやスタッフのみならずファンまでも巻き込んだような形でライブ開催や新曲リリースまでこぎつけるというのは、ありそうでないことです。
おそらくワンマンライブを開催してほしくないファンなんていないでしょうし、持ち曲が増えることを拒否するようなファンはいないでしょう。
まだ結成から日も浅く、ここからどんどんファンを取り込んでいこうという段階のグループは、アンケートなどしなくとも遅かれ早かれこうした「嬉しいお知らせ」をする日を迎えていたはずです。

でも、同じ結果でも初めから計画されて敷かれたレールでなく、ファンとの共同作業の末に得たものとなると格別でしょう。
今後、グループの活動を振り返ってみたとき、間違いなくこの日は忘れられない日になるのだろうな。
登場のときから笑顔が止まらないメンバーの表情を見て、そう感じていました。

ここからは、ライブの模様についてざっくりと振り返ってみます。

会場・渋谷近未来会館に響く音は大きめに調整されていました。
しかし、メンバーの歌声はそこに寄りかかっていません。
音の大きさでごまかさず、自らの響きで勝負していました。
発声の仕方が、口に空間を作って十分に振動を伝えている感じで、聴いていて気持ちいいです。

各メンバーについて書いてみます。

白松ゆりさん

翡翠キセキの低音部分を支えています。
初めて対バンライブで歌声を耳にしたとき、こんなに低音が響く人がいるのかと驚きました。
翡翠キセキの曲は、生で聴くと伴奏の低音が目立ちます。
白松さんの声質は、非常に相性がいいです。

仲谷水伶さん

ターンが速くて綺麗な仲谷さん、動きが目に留まります。
一つ取り上げてみたいシーンがあります。
翡翠キセキには、他にはない独特な演出があります。
それが、ライブ中のSEです。

ここでのSEとは、曲間に流れてくる、次の曲の伴奏をアレンジしたメロディーのことです。
数十秒に渡って流れます。
イメージとしては、イントロのイントロという役割なのかもしれません。

「Rainbow」のSEは、低音の規則正しい音が等間隔で鳴りだします。
重たい鉄の扉を叩くかのような音と、メンバーが天井に向かって腕を上げる動作が重なります。
これを三小節ぶん繰り返すと、続いては鍵盤の音が聴こえてきました。
今度は、一人ずつ腕を前へ。

先陣を切ったのが、仲谷さんでした。
鋭い腕の動きは、抜群のキレで後続の神谷さん、白松さんまでの勢いをつけていました。

似たような振り付けはもう一つ。
初披露された「未来坂」です。
ラスサビだったと思うのですが、仲谷さんがセンターでリズムに合わせて腕を押し出す振り付けをします。
シンプルな振り付けですが、だからこそリズムと動きがしっかりと合ったときにスッキリします。

神谷優月さん

緊張からか意外と途切れがちだったMCトークの間を埋め、言うべきことをきちんと伝えていた姿が印象深かったです。

アウトロで照明が絞られ、こちらに向かって顔を覗かせるシーンの表情は、見事に闇に溶け込んでいました。

この日のライブは、本編で持ち曲全8曲を、アンコールで二度目の「未来坂」を披露して終わりました。

「これからも翡翠キセキは、この曲たちと止まりません!」

「止まらない」と何度も何度もメンバーは言っていました。
坂の途中、止まってしまうと落ちていくのみです。
だから加速していくのだと。
そんな決意が見られたライブでした。



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