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流行語を生んだ ベイビーレイズJAPAN 「夜明けBrand New Days」

アイドルファンにとっては言わずと知れたこの名曲、以外にも表題曲ではなかった。2015年にリリースされたベイビーレイズJAPAN(ベビレ)「栄光サンライズ」のカップリング曲で、2010年代中盤でみるとアイドルファンの間で最も話題となった曲の一つではなかっただろうか。「夜明けBrand New Days」。いろいろな人が「エモい」曲としておすすめし尽くしている曲で、しかもリリースから5年と時間が経った。グループも解散してしまったが改めて、同時期に地下アイドルに熱中し、この「夜明け」の盛り上がりに飲み込まれた一人としてその思い出を書いてみようと思う。

2015年の4月にリリースとのことだが、カップリング曲であったのにも関わらず4カ月後のTIFでもこの曲はセットリストに組み込まれていて、しかもトリの曲となっている。これだけの短期間でも名曲と認められるほど、ベビレファンの間では心にくる何かを感じたのだろう。

そしてその流れはベビレファン以外にも広がっていった。ここから翌2016年のTIFにかけて、「夜明け」はアイドルファンの間で爆発的な人気曲となっていく。2016年のTIFでは、AKBファンの友達が、ツイッターで「夜明けを聴きに来た」という趣旨のツイートをしていた。普段地下アイドルを見ない人たちにも知られているとはよほど有名になったんだな、とその広がりように驚いた記憶がある。

ここまでいろいろな曲のレビューをしてきたが、多くのアイドルファンを巻き込み、ある種の社会現象を引き起こした「夜明け」ほどインパクトの大きい曲はそうそうないだろう。2010年代の地下アイドルを代表するような曲であると思うし、自分が推しているアイドルの曲でこういった曲が出てたらなぁとたびたび思っていた。

曲としても良いのはもちろんなのだが、なぜこの曲が流行し、いまだに多くのアイドルファンの間では語り継がれているのだろう。考えるに理由はいろいろあるとは思うが、ここではその中でも「イエッタイガー」や「エモい」などの言葉の起源・象徴となったであろう点に注目して書こうと思う。

「夜明け」には、特徴的な「コール」がある。コールは普通、アイドルの曲においては「合いの手」の役割を果たす。ライブの盛り上がりを推しはかるのに、コールの声がどれだけ大きく聴こえたかは重要な要素である。この曲では特に、そのコールなしでは成り立たないくらい、コールの果たす役割が大きい。最も象徴的なのが「イエッタイガー」だろう。

落ちサビのソロ、それまで上がり調子だった曲が一転、落ちサビでひと呼吸するかのようにメンバーがソロパートを歌う。裏拍の掛け声とともに、ボルテージが高まる。そのままラスサビに向かう直前、すべてを開放するかのようにファンが一斉に叫ぶコールがある。それが「イエッタイガー」である。ベビレファンが虎ガーと通称されていたり、それをもとに虎を強調したタイトルの曲を出したりしていたので、それを考えるとこのコールが生まれたのも自然というか、意味不明な言葉ではあるのだが不思議と受け入れられていたかと思う。

そしてその流れはこの曲だけでは止まらなかった。他のアイドルの曲でも、アイドルファン流行語大賞にでもなったかのようにコールとして挟まれることが増えた。今でもイエッタイガーはたびたび使われているようだが、悪い意味でとらえられているのは残念である。検索しても、「家虎(イエッタイガー)根絶」等という物騒な言葉とともに害悪扱いされてもいる。おそらく、うるさいだけで曲の邪魔にしかならないというのが彼らの主張なのであろうが、「夜明け」に関しては邪魔にもなっておらずむしろ不可欠である。厳密な起源は違うのかもしれないが、この曲がイエッタイガーを育て、その広がりによって「夜明け」の人気が後押しされた感はあると思う。

また、この曲を形容するのに、よく「エモい」という言葉が使われていた。アイドルファンの間で広まっていったのはまさに2015年あたりからではなかっただろうか。こちらも別に「夜明け」を起源としたわけではないだろうが、この曲が方々で「エモい」と言い伝えられていたのも事実だった。確かに、ライブ映像とともにこの曲を聴くと何とも言えない感情の高ぶりを感じる。言葉にしようと思ったらエモい、という表現でもおかしくない。

もともと満員とは程遠い武道館公演の悔しさが残る中、ベイビーレイズからベイビーレイズJAPANに 改名した第一弾としてリリースしたシングルに収録されていた一曲が「夜明け」なのだが、そういった彼女たちの事情や背景を知らずとも心を揺さぶられてしまう。どうしてだろうか。うまく言葉にできないがこれが「エモい」という感情になるのだろう。emotionalからとった造語だが、一見不思議なこの言葉がファンの間で共通言語となり、曲を広める触媒になったような気がしている。

これを書きながら思い出したのが、「多幸感」という言葉が一時流行したことだった。
モーニング娘。の「Happy大作戦」という曲がある。タイトル通り、聴くと何とも言われぬ幸福感に包まれ、ライブでは思わず隣のひとと肩を組みながら皆で合唱したくなるような曲なのだが、この曲はモーニング娘。ファンの間では「多幸感」という言葉でよく表現されていた。この場合の「多幸感」は日本語的には完全に誤用である。誤用ではあるが、言葉が広がってくると違和感は消えていった。

ツアーを通じて「Happy大作戦」の魅力が伝わってくると、ライブでメンバー、ファンが皆幸せになるような様子、幸せがホール内に充満していくようなこの様子を的確に示す言葉は多幸感以外にないのではないだろうか、そう思ってくるようになった。「夜明け」での「エモい」にはこれと似たような雰囲気を感じている。どちらの言葉も、次第に乱用されていって意味合いが軽くなってしまったのは寂しいが。AKBの「神7」なんかも同じですね。

この曲を歌っているメンバーの表情も気持ちがよい。一回底を見たアイドルが、復活を期し魂をぶつけている雰囲気を、歌っている彼女たちから感じる。そういった「本気」の面を感じ取り、別段ベビレファンでもない人たちにも受け入れられたのかもしれない。こういった部分もあろうが、アイドルの「生き様」に共感するのはなにもベビレに対してだけではない。この曲における歌詞はどのアイドルにもある程度当てはまる部分があるからこそ、多くのアイドルファンをひきつけているのかもしれない。

アイドルの曲にまつわるいくつかの流行語を生む一方で、いろいろあった曲とアスタリスク付きで言われてしまうこの曲。特に2016年のTIFで起きたことについては思うところもあるのだが、書くのは次稿以降に持ち越したい。けれど、僕を含め数知れないアイドルファンを魅了した曲であることは間違いないと思う。その「夜明け」が盛り上がっていく流れを感じつつ、同時期にアイドルファンで居れたのは幸せなことだったと思う。

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