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【ライブレポ】透色ドロップ 2nd Birthday Live Tour 『目に見えない大切なもの』東京公演

6月26日(日)、白金高輪selene b2にて7人組アイドルグループ・透色ドロップの2nd Birthday Live Tour「目に見えない大切なもの」東京公演が開催されました。
2020年6月の結成から2周年を迎え、グループは2nd Birthday Live Tourを東名阪福の4都市を巡るツアーを開催しています。
この日の東京公演は約一カ月にわたるツアーのファイナル公演でした。
披露する曲数はほぼ全曲で、公演時間は他会場よりも長めの2時間が予定されている特別編です。

今一度、メンバー7人を取り上げてみます。

最年長であり、結成当初からグループにいつづけている唯一のメンバー、見並里穂さん。

見並さんと同じくオリジナルメンバーですが、一旦卒業し次に書く2期メンバーの加入後に戻ってきた橘花みなみさん。

2021年4月に加入した瀬川奏音さん、天川美空さん、花咲りんかさん、佐倉なぎさんはいわば「2期メンバー」で、オーディションに参加した時のバックボーンは社会人や学生など様々です。

そして最年少の梅野心春(こはる)さん。
梅野さんは2022年5月24日、ツアーの直前にステージデビューしました。
加入してからまだ一カ月の新メンバーです。

梅野さんにとってはここまでの怒涛のような1カ月間、そして前体制からのメンバーにとってはこの1年間の総決算が今日でした。

結成月の6月を区切りとするならば、今年の7月からは3年目に突入するということになります。
この夏にはすでに大型フェスへの出演が複数決まっており、その中にはメインステージの争奪戦やトーナメント形式のライブアイドル対抗戦もあります。
この日もライブの前後で合間を縫って対抗戦用のライブ配信をゲリラ的にしており、レッスンに明け暮れた2周年の余韻に浸る間もなく次なるイベントがにじり寄ってきています。
目先のイベントはいくつもあります。
しかし、ともかく2周年ライブが無事終わってのことです。
全ては6/26のために。
次のステップへの準備が整うのはこの日が終わってこそです。
ツアー情報が解禁されてから、メンバーの目はこの日のために向けられていました。
SNSの積極的な発信からは、一人でも多くのお客さんを白金高輪のステージから見下ろしたいというんだという思いが伝わってきていました。

自分がツアーで行けたのはこの東京公演と福岡のみで、普段の東京での対バンライブやイベントには頻繁に行くわけではありませんし、正直相手グループの組み合わせやタイムテーブルを見ながらかなり選んでいるふしがあります。
2週間も空いたら久しぶりだねと声をかけられるくらいライブの頻度が高いライブアイドルの見方として、自分のようなものはたまにしか来ないレアキャラなのだと(希少価値があるかは別として)自覚しています。

それでも、はかなく移ろいやすい美しさを透色ドロップに感じ、心動かされた自分がいるのは確かですし、その決め手が3月開催の「瞬間的記憶」だったのは事実です。
君が描く未来予想図に僕がいなくても」から「衝動」に移るとき、まさしく衝動的に涙が出てきたことや、ちょうどそのタイミングで上手側にいた佐倉なぎさんも涙を流していたこと、そして直後のMCで我々に伝えた「女の子のアイドルって何年も何十年と同じ形でいることは難しいけど...」という言葉などは、心のどこかを激しく揺さぶりました。


ライブアイドルの特徴として、ライブ回数の多さに加えてライブ情報が出てくるのが遅い、というのがあります。
小規模の対バンライブだと一週間前に詳細が出ているなんて期待できず、週末に控えた木曜とかにタイムテーブルがようやく発表されたりするのですが、このバスラツアーは2ヶ月以上も前から発表されていました。
他のライブ予定がほぼないまっさらなスケジュールに、6月26日だけは早々に刻まれていました。
「瞬間的記憶」を経ているだけに、6/26の前と後とでは見えてくる景色が違ってくるのだろうなと予感していましたし、メンバー同様この日がエポックになるのだろうなと思っていました。

この前日、「目を慣らすため」と言いながら横浜での対バンライブに行き、3人くらいでいいかなと思いつつ結局7人全員と特典会で話をしたのは、2周年ライブに向けて完成させたパフォーマンスを一足先に見ておきたかったことと、何かが変わるきっかけとなりそうな大事なライブを目前に控え、高揚しているであろうメンバーと話すことで近い温度にまで自分の気持ちを高めておきたかったからでした。
実際、特典会ではそんな熱い話をするわけでもなく、ごくごく普通の内容に終始したのですが、会いさえすればよかったので内容はどうでもいいことでした。

横浜での対バンは、翌日の2周年ライブのことで頭がいっぱいでライブどころではない雰囲気なのかな?と失礼ながら思っていましたが、実際のところパフォーマンスは流すことなど一切ありませんでした。
2周年ライブの0曲目かのよう。
汗を顔いっぱいにかき、前髪が崩れるほど(誰とは言わないですが、ライブ直後に鏡を見てバケモノかと思ったと言ったメンバーもいました。そんなわけないのですが…)全力でした。

お陰でモチベーションをもう一段高めることができた感覚でしたし、気持ちとしてかなり充実した状態で次の日を待つこととなりました。

ーーー

◆6月26日当日

こうして迎えた6/26は、連日の記録的な暑さの真っ只中にありました。
よもや翌日に梅雨明けを迎えるとは思いもせず、暑さはどうせ一過的なものだろうと思いながら白金高輪へ。

会場入り口からフロアに繋がる扉にたどり着くまで、各所にメンバー全員分ののぼりが立っていました。
全部で4セットくらいでしょうか。
ツアーの地方会場でものぼりは立っていましたが、福岡ではフロア内に1セットあるのみで、恐らく名阪もそうなのでしょう。
昼間の配信でメンバーが「のぼりは5セットくらいある」と言っていて、なんでそんなに立っているんだろうと思っていたのですが、謎が解けました。

フロアに入ってみたら、さらに驚きました。
上手側中央~後方にかけ、高さのある天井からぶら下げられるようにしてメンバーの垂れ幕が掲げられていたのでした。
3mはあろうかという長さで、のぼりよりもはるかに大きなサイズです。

白金高輪selene b2はb2というだけあって地下二階にフロアがあるのですが、建物が堅牢だからなのか電波の通りがかなり悪く、対バンライブの箱となっているときなどライブの合間にオンライン特典会をしたいファンの方からは不満の声が漏れてくることもあるライブハウスです。
しかしこの巨大な垂れ幕を目にしたとき、2階ぶち抜きのseleneで開催された意味を感じずにはいられませんでした。
高さもない普通のライブハウスだったらこんな光景は見られなかったはずです。

seleneのもう一つの特徴は、ステージ背面と両サイドにある大きなスクリーンです。
ここに映し出されるのは、多種多様なVJだったり映像の数々。
垂れ幕の出迎えは予想だにしていませんでしたが、巨大スクリーンを使った演出についてはメンバーから事前にほのめかしがありました。
やはり、せっかくのビジョンを真っ暗なまま眠らせておくわけにはいかないでしょう。

様々な角度から切りこんでくる透色ドロップの曲は、多彩なVJともさぞ合うはず。
系列のライブハウス含めて何度か目にしてきましたが、ここのVJは映像の引き出しがこんなにあるのかというくらい豊かです。

今日はどういう仕掛けがあるのでしょうか。
まだ何も始まっていない開演前だとあれこれ想像が膨らみます。
ほぼ全曲を披露することは知らされていたので、メドレーコーナーがあったりするのだろうかなんてこの時点では考えてもいました。

さてそろそろライブに移ります。
開演は16時45分。
フロアの後ろを確認していないので分かりませんが、お客さんもかなり入っているようです。

SEが鳴り、メンバーが登場してきました。
いつもなら一人ずつ間隔をあけて出てくるように思うのですが、この日は7人まとまって出てきてセンター付近で散らばる、という登場の仕方でした。

一曲目は「だけど夏なんて嫌いで」。
梅野さんを透色ドロップに迎え入れて初めてリリースされた曲です。
ツアー初日から初お披露目され、ツアーとともに走ってきた曲でもあります。
終わってみればフル稼働だったこの日のスクリーンに、まず映し出されたのは「だけど夏なんて嫌いで」のMVでした。
MVが作られた曲は何曲かありましたが、結果としてMVがビジョンに移されたのはこの曲だけでした。

ツアーの合間を縫って撮影したと、後のMCで知りました。
個人的にこのMVは今年観た中で一番でした。

君なんて 僕なんて 恋なんて
冷めた視線と裏腹 焦がれてる

傷つくことが怖くて本心から目をそらし続けている歌詞とは対照的に、パフォーマンスするメンバーの表情には明るさがありました。
「だけど夏なんて嫌いで」この言葉を対角線上から照らしています。
ツアー福岡でも感じたことなのですが、こうした明るい曲での瀬川奏音さんの笑顔が凄く良いです。
心躍るような曲が並んだ序盤での立ち位置が、自分の見ていた上手側に集中していたこともあってより分かりました。

いや、瀬川さんだけではありませんでした。
始まりから満たされていったような表情を浮かべていた佐倉なぎさんもそうですし、7人とも「だけ夏」から幸せそうな表情でした。
始まったばかりですが、一種の達成感みたいなものまで見えてくるかのようです。

続いたのは人気投票で一位を獲得した「君色クラゲ」や、「ぐるぐるカタツムリ」。
フリコピ要素が満載で、表向きから受ける透色ドロップの可愛らしさを集めたような曲が、序盤の3曲でした。

一曲目でMVを映し出したスクリーンは、2曲目以降はVJとして曲テーマに合わせたイメージを表示していました。
しかも驚くことに全編歌詞つきです。
ただ、ライブ前に想像していたよりVJはおとなしく、息を飲んだりびっくりするような映像が出てきたわけでもありませんでした。
メンバーに注目しすぎていてあまり見えていなかったのもありますが、出すぎず7人を引き立てる絶妙な演出だったなと今にしてみれば思います。
歌詞の文字も相当作りこまれているのは分かったのですが、傍目に感じるくらいで、主役はあくまで7人でした。
それでも、「君色クラゲ」のサビ「砂時計の音が消えてしまっても」のところで、横書きの歌詞がまるで砂の上に書き落とされたかのように消えてしまうエフェクトだったり、後に書く「予想図」のあるひと単語を強調した出し方だったり、自覚しないうちに背景の文字はさりげなくステージに入り込んできていました。

電気の流れるような音がして空気が変わったのは「桃郷事変」の時でした。
びりっときたのは、ライブ仕様の長めのSEの音です。
「バカになれー!」
見並里穂さんがフロアを煽り、クラップが始まり、いよいよだという空気が醸成されていきます。
ため込んだものを吐き出すこの曲はやはり楽しい。
続く「りちりち」とセットといっていいでしょう。

ところで、ライブを通して感じたことが大きく3つありました。
セットリストをざっくり追いかけていきながら、その3つを挟んでいこうと思います。

◆思ったこと①歌声

早速一つ目なのですが、歌声です。
これまで透色ドロップには歌で押すイメージがあまりなく、ダンスや表現力のグループだというのがずっと頭にありました。
「瞬間的記憶」のライブレポで自分はメンバーの歌声を「儚く消えそうな」声だとし、それがグループのもつ儚さにも繋がっているような気がすると書きました。
一年ほど前、初めて透色ドロップというグループを知り、サブスクで曲を聞いてみた時の感想も同じでした。
正直ちょっと弱弱しさを感じていました。
空気を振動させて音を出すというより、息が強くかかったような不安定な歌声に聴こえていたのです。
別にそれがマイナスだとは思わず、強くボリュームを出すだけがライブというわけでもありませんし、か弱さはいつしか消えてしまうアイドルの象徴みたいにも捉えられます。
だからこそ「瞬間的記憶」での感想が出てきましたし、ダンスや表情からなる表現は、輪をかけてその儚さを際立たせていました。

ただここにきて、これまで儚いと感じていたメンバーの歌声に凄く芯がこもっているような気がしました。
線は細くメンバーごとの見分けがつかなかった歌声には重心が乗り、それぞれの声の特徴がくっきりと出てきています。
加えて歌に関してはもう一つ、これまでと変わったなと感じたところがありました。
このツアーあたりからなんとなく感じ、YouTubeに上がっているアーカイブ動画を見て確信に近い形で浮かんできたことなのですが、これが歌声にメンバーの個性を感じるようになった理由の一つなのかなと思っています。
ただ勝手な推測だけで話を進めるのもどうかと思うので、メンバーに聞くまでははっきりと書かないようにしようと思いますが、少なくともこの違和感はいい方向に向かってのものであることに間違いなさそうです。

最初のMCを挟んで始まったのが6曲目「衝動」。
曲名を誰かが言ったとき、虚を突かれた感覚でした。
もう少し後のほうで披露されるのかと勝手に思い込んでいたので、案外早めに持ってこられたことにびっくりしたのですが、陰と陽が混在する透色ドロップの曲を2周年ライブでどういった順序で並べてくるのかは気になるところではありました。

直近の単独公演「瞬間的記憶」やその前の「透き通る衝動」では近い系統の曲がまとまって大きなブロックとなったセットリストだったように思います。
持ち時間20分や25分の対バンライブでも前半と後半ブロックでスパっと分けられるような構成が主なパターンだったと思うのですが、この日は出し方を変えてきたようでした。
ポップな曲を前に持っていき、重めな曲を後半だけに固めるという分かりやすい組み立てではなく、ブロックではなく聴かせる曲→盛り上がる曲→沈む曲という風に曲ごとに揺さぶってきました。
その始まりが「衝動」でした。
黄昏のような穏やかな光が、包み込むようにステージを照らします。

降り出す雨が祝福してる
ラスサビで希望が覗くシーン、しゃがみこんでから上体を起こしたメンバーの表情は晴れやかで、背景のビジョンには矢のように降り続ける雨のイメージが映し出されていました。
孤独とタイヨウ」「ユラリソラ」「」はひと繋ぎのような曲だと思います。
ただ案外連続でかかることが少なく、特に「孤独とタイヨウ」「ユラリソラ」が続いたのは自分の体験では初めてだったような気がしました。

強がって見せていた「僕」が徐々に心をほぐしていくのが「孤独とタイヨウ」で、そんな「僕」が初めての恋を振り返っているのが「ユラリソラ」だと思っているのですが、連続することで時系列がつながりました。

◆思ったこと②表情

ここでこの日感じた大きなことの二つ目に触れてみようと思います。
メンバーの表情です。
具体的には、あるシーンを切り取った時のメンバーの表情が、誰を見ても同じような顔つきをしているように見えたのでした。
表情管理と演者の間では言われるそうなのですが、管理というほど厳密なものではなく、あくまで雰囲気として皆似たような顔つきになっている感じがします。

長年連れ添った夫婦のように、もとは他人であっても一緒に暮らしている人達の顔つきは時間とともに不思議と似てくると言います。
DNAは他人同士の顔をモーフィングのように劇的に近づけるほど劇的に書き換えられることなどないはずなのですが、マクロなレベルではそういうこともあるのでしょう。
とはいえ日頃生きていて現実的なレベルで感じることもなく、こう聞いてもあまりピンと来ていなかったのですが、パフォーマンスしている透色ドロップのメンバーを観ていると、あながち迷信でもないのかなと思い始めました。

メンバーは一緒に住んでいるわけでもなく、一番長い付き合いでもオリジナルメンバーの橘花さんと見並さんの2年とちょっとです。
そのため、当たり前のことながら普段の顔つきはそれぞれはっきりと違います。
しかし、パフォーマンス中の一瞬だけ切り取ると、不思議なことに顔の種類は一種類でした。
同じ目標のもとに集まったメンバーが活動してきたグループが生む結束は、ときとして熟年夫婦のそれに並ぶこともあるのかもしれません。
この感覚はアンコール後のスピーチを聞いてさらに確たるものになりました。

初披露の新曲「恋の予感!?」で槙田紗子さんが振りをつけたダンスを見よう見まねで合わせていきつつ、ライブは「ネバーランドじゃない」に移りました。
中盤戦です。

歌いだしがサビで始まるこの曲、イントロでは上手側の見並さんがいつも何かしらの言葉をフロアに呼びかけます。
しかしこの日はありませんでした。
この余白にふと思い出したのは、自分が透色ドロップを好きになったきっかけの日のことでした。
今はなき新木場スタジオコーストで9月5日に開催された大規模対バンライブです。

9月の頭にしては意外と涼しく、たしか自分は長袖を着ていました。
とはいえまだ9月の初旬です。
残暑の候ですし暑さがいつぶり返すかもわかりません。
そんな一日に見並さんが発したのはこんなセリフでした。

「透色ドロップ、これが最後の曲です!まだまだ暑い日が続きますが、一緒に乗り切りましょう!ネバーランドじゃない!」

アーカイブを何度も観たからというのもありますが、よく通るハイトーンの見並さんのこの言葉はやけに記憶に残っています。
本人すらまず覚えていないような、こんな時節の挨拶みたいなセリフに心打たれて透色ドロップファンへの入り口が開かれていったわけでもないのですが、今にして思えばこの日が透色ドロップを「始めた」日でした。
前からグループは知っていましたしライブも2回ほど行きはしていましたが、それまではその他たくさんいるアイドルさんの中の一グループでしかありませんでした。
きっかけはいつも無意識の内に通り過ぎます。
アンサー」での瀬川さんと見並さんの表情に導かれるようにして珍しく特典会に行ったあの日から、透色ドロップはその他グループの一つではなくなりました。
そんな自分にとっての原風景を、「ネバーランドじゃない」をきっかけに思い出していました。

改めてあの頃と今とを比べてみると、恐ろしいような速さでグループが進化していることを感じます。
ダンスはスカートの揺れが収まるタイミングまで図られているかのように見えますし、フォーメーションを多少間違えても、そのリカバリーが自然でした。
新メンバーの梅野さんはあの頃を通過していなく比べようもないですが、ミスなく非常に落ち着いています。
ステージデビューからまだ一カ月しか経っていないことに改めて愕然とします。

これまたセットリストで意外だったのは「きみは六等星」がかかったときでした。
アンコール明け一曲目のイメージが定着していましたが、中盤のここにもってこられるとは。
なぜだか分かりませんが泣けてくる高らかな鐘の音は、この日も変わっていませんでした。

中盤のMCでは、メンバーそれぞれ活動してきた中での思い出や一番印象に残ったエピソードを語っていました。
ここについては最後にまとめて書きます。

MC開け、「私たちの始まりの曲です」と見並さんが言い、始まったのは「やさしさのバトン」。
サビ前でメンバーが下を向くときに照明が消えました。
真っ暗です。
ふと見たら、前のほうにいるファンの方が泣いていました。
それぞれの歴史があります。

そんなことを考えてしんみりしていたら、「キュンと。」が始まりました。
場内が途端にポップな空気に染まります。
かと思えば続いたのは「アンサー」。
鈍重な曲です。

前半の部分で一曲ごとに違うテイストの曲を入れてきたようなセットリストだと書きましたが、終盤にきての曲目がまさしくそれでした。
猫の目のような変わりようです。

3月の単独「瞬間的記憶」では「アンサー」で本編が終わりました。
もしかしてこれで終わりかと思っていると、橘花さんが縦2列のフォーメーションのセンターに立っています。
大事なこの曲を忘れていました。

君が描く未来予想図に僕がいなくても」です。
ラスト4曲は1st EP「透色計画」の収録順そのままの並びだったと後で知りました。

ここにきて、スクリーンのVJに目をやります。
歌詞に頻繁に出てくる「君」の文字が強調されていました。

センターにどでかく「君」だけが浮き彫りになって、強調しすぎなほど出てきています。
この演出こそまさしく、「君」が誰かと幸せでいてくれさえすればいい、僕なんていらない...と相手に対して何もできない心情が描かれる「予想図」のもどかしい世界観の現われでした。
恋愛ソングということにはなるのでしょうが、アイドルを見守ることしか結局はできないファンの心理にも近いのかなと自分は思っています。

歌詞とパフォーマンス、そしてVJを合わせて設計されたステージを見て鳥肌がとまりませんでした。

本編がこれで終わりだと知ったのは、曲終わりややあってしてから佐倉さんが「記念撮影をしましょう!」と言ったからでした。

メンバーはここまでフルサイズで17曲披露しました。
「あとどの曲やってない?」という声も聞こえてきます。
もうやっていない曲なんてないんじゃないか、というニュアンスです。

実際そうで、披露していないのは「戻ることのないこの瞬間」だけでした。
ほぼ全曲と言っていましたが、本当にその通りでした。

ライブが終わってからそういえばと思ったことなのですが、当日昼間の配信でメンバーがぽろっと「17曲もの振り付けや立ち位置がこの頭のなかに入っているのがすごい」と口にしていました。
曲数をカウントしていた方であれば、この時点でもうやりたい曲をすべてやりきってしまったと、早くも察しがついていたかもしれません。
セオリー通りなら、全ての曲を披露し終わってから記念撮影するのが普通です。
本編終わりに撮影タイムに入ったら、それはもうここでライブが終わりなんだということを普通ならば意味します。
ここまでの曲数含めた充実感のあまり、本当にこれで終わることだってありえるなと少しよぎりました。
簡単な挨拶をして、7人ははけていきます。
場内は暗転したまま。
追い出しのアナウンスもありませんし、やはりアンコールはあるようでした。

拍手と共に現れたメンバーは、「invisible important things 」とバックプリントされた黒のツアーTシャツをトップスに着ています。
今できる曲を全てやりきったので、アンコールでかかるのは必然的にこの日の2回目ということになります。

まずは「だけど夏なんて嫌いで
本編一曲目と同様、MVがビジョンに映し出されます。
続いては「夜明けカンパネラ」。

こちらからみて真っ正面の上手側に立っていた佐倉さんをチラッと見たとき、違和感に気づきました。
表情が崩れているように見えます。
「瞬間的記憶」ではパフォーマンス中涙を流していたのが佐倉さんで、そこでついた涙に弱いイメージが、目の前に見える表情を頭のなかで勝手に泣き顔のように変換していたのかと思っていたのですが、見間違いではなさそうでした。

こらえようと顔に力をいれながら抵抗できないような、そんな表情になっています。

これにて予定していた曲を全て終えたようです。
リラックスした雰囲気か伝わってきました。
再び撮影タイムへ。
本編終わりと2回撮ったのは、衣装とツアーTの両方での記念写真を残しておきたかったからでした。

とここで、佐倉さんが切り出しました。
「みなさんにお知らせがあります!」
スクリーンに注目すると、そこに現れたのは秋ツアー開催のお知らせでした。
すでに日程と会場まで決まっています。
東京公演で始まり、地方会場を巡った後11月19日にファイナル公演として東京に再び帰ってきます。

地方会場は福岡、愛知、大阪(福岡公演のついでに熊本にも遊びに行きたいところです)。
目を引いたのは、ここに加えて新潟会場があるということでした。
新潟は佐倉さんの地元です。
佐倉さんのテンションが人一倍高く見えたのは、このお知らせを隠し持っていたからでした。
念願の凱旋公演で本当に嬉しそうです。

最後に、メンバーは一人一人の口からツアーを通しての感想が発されました。
横一列となり下手側の梅野さんから、上手に向かっていきます。
よく見たら、ならびが3期2期1期と、加入から日が浅い順に並んでいました。
スピーチの一部を大意に影響ない程度に抜き取りながらここにご紹介します。

○梅野さん
私はプレデビューからまだ一カ月くらいしか経っていないんですけど、先輩たちの努力があって今この場所に立てているし、こんなにも多くの方にパフォーマンスが見てもらえているのもそのおかげだと思っています。
辛いことも結構多くて、泣いちゃったこともあったんですけど、それでもあきらめずに今日まで来れたのは先輩たちやファンの皆さんが暖かく見守ってくれたおかげです。

私はこのグループで、アイドルとしても一人の人間としても大きくなりたいです。

この言葉が心に残りました。

○天川さん
なんで自分はこんなに頑張れているんだろうって思うんですけど、ここに来てくださっている皆さんや配信を見てくださっている皆さんが支えてくれているからだとツアーを通して実感しました。
東京苦手だしリプ返遅いし迷惑をいっぱいかけているけど、透色ドロップのメンバーで良かったなって思いました
○佐倉さん
透色ドロップ二周年、会社員をやめて、アイドルという道を選択してから一年と少し経ちます。(佐倉さんはアイドルをやる前、ウェディングプランナーをやっていました)
アイドルになりたいとはじめて口にした日から、まさか自分がこんな素敵なステージに立たせてもらえるとは思っていなくて、きっと会社員を続けていても幸せな未来があったかもしれないけど、こうやってアイドルを続けて今この一年頑張ってきたからこそ、こうやってみんなに会えて、おばあちゃんになってみんなの顔を思い出すんだろうなって思ったら凄く凄く幸せです。
「アイドルをやらないと死ねない」という応募広告を見て、「これしかない」って応募した私に居場所をくれてありがとうございます。
これからも、透色ドロップをお願いします。

他のメンバーは話しているメンバーのほうに身体を傾けて顔を向けながら、時に頷きつつ話を聞いています。
どのメンバーも自分の番となると声をつまらせていましたし、話す順番が上手に近づいていくにつれて涙が伝染していたのが印象的でした。
そのなかでも書き留めておきたいメンバーが何人かいます。
そのまず一人が、下手4番目の瀬川さん。

話す前から大泣きだった瀬川さんは、去年の今頃に開催した1周年記念ライブのことを振り返りながら話しだしました。
1st Birthday Live Tour「限りなく透明に近い東阪ツアー」は東京、大阪2会場での開催でした。

○瀬川さん
その時は大阪も東京でもMCで号泣してしまって、せっかくの透色ドロップの1周年のお祝いなのに、自分の弱さに勝てなくて、いっぱい辛かったことをMCでぶちまけて泣くということを2回もしてしまって、それが凄く情けなかった。
この1年間、ワンマンでは絶対に泣かないようにしようと思って、12月(透き通る衝動)も3月(瞬間的記憶)も浅いことしか言えなくて、泣かないことだけを目標に過ごしてしまった自分がいて、今回のツアーではそんなことはもうやめようとおもって、各会場でちゃんと自分の思っていることをMCでみんなに伝えることができました。
去年の涙とは全然違う涙で、みんなのおかげで凄く嬉しい気持ちになれて、この一年間で成長したことを自分でも実感できました。
これからも、自分らしくアイドルを続けたいと思います。

ツアーにかけ、パフォーマンス中の瀬川さんの笑顔がすごく良いなと思うシーンが何度もありました。
ツアー福岡の本編ラスト「君色クラゲ」の表情は忘れられません。
瀬川さんにとってこの一年は、閉じ込めていた感情をさらけだしていこうとする一年間でもあったのかもしれません。
人が変わっていくところを近くで見ることができたことには格別の嬉しさがあります。

○花咲さん
アイドルをして一年と少し経って、いろんなありがたいくらいたくさんの経験をさせてもらって、本当に透色ドロップに入って幸せでいっぱいなことがあって、でもみんなに追いつくのが一生懸命で、たまに弱くなっちゃう自分もいるけど、そのなかでメンバーとスタッフさんが助けてくれて、その環境にもすごいありがたいなって思っています。
この2周年ライブは、弱い自分が出てしまったときもあってたくさんの方に迷惑をかけてしまったこともありました。
でも、ファイナルで精一杯の力を出し切って一生懸命できたので、とても満足です。
このグループに入れてくれて、本当にありがとうございます。
今日も、みんなの楽しそうな顔が見えて、本当に幸せでした。

次は見並さん。
「今回のツアーは」に続き、意外な一言から入りました。

○見並さん
正直完走するのが難しいのかなと思っていて、ツアーのちょっと前から腰を痛めてしまって(ツアー途中に公式よりアナウンスがあり、通院による治療をしつつ、ライブでは負担減のために特典会で見並さんは座りでの対応となっています)、リハとかにも全部参加できなくて、メンバーやスタッフさんにも迷惑をかけて、対バンライブでも自分の100%のパフォーマンスが出来ていないことが悔しくて、みんなが出来ているのに自分が出来ないのが申し訳なくて、今日もずっと不安だったんですけど、みんなが声かけたりしてくれてなんとか完走することが出来ました。
腰を壊してしまっているから透色ドロップにいないほうがいいかもしれないと思ったときもあったんですけど、私はまだまだここにいたいです。
透色ドロップでアイドルがしたいです。
なのでもっともっと必要と思ってもらえる存在になれるように頑張ります。

感想のコメントに加え、自分はここに中盤MCでのコメントを書き足したいです。
印象に残っているエピソードとして、見並さんは「抽象的なんだけど」と前置きしてこう言いました。
「メンバーの前で弱さを見せられるようになったとき」
態度に出さないようにしていたけど、弱さを出せるようになったときにグループとしてレベルが上がった気がしたと言います。

オリジナルメンバーであり、結成から一度も抜けることなく活動してきたメンバーは見並さんただ一人です。
2期メンバーである(卒業した成海千尋さん含む)5人が加入したとき、橘花さんは一旦グループから抜けていました。
5人の加入当初は、最年長ということもあり自分がしっかりしないと、引っ張っていかないと、という気持ちは大きかったそうです。

見並さんに対してはリーダー的に引っ張っていくというより、積極的に三枚目キャラになって場を盛り上げるムードメーカーというイメージがあるのですが、いつしかそうした頑張りは、辛さをキャラの下に押し込めてしまうという苦しさに変わったようでした。
ただ、他のメンバーも見並さんが無理して辛さを出さずにグループのために立ち回っていることは分かっていたようで、誕生日の日などメンバーからは見並さんに対してお祝いメッセージとともに「自分のことでも大変なのに、グループのことを考えてくれてありがとう」といった内容のコメントが決まってありました。

ツアー前に腰を怪我したことは一つのきっかけだったかもしれません。
自分のことですらも手一杯になってしまったとき、周りからかけられる声に対して正直に答えられたと見並さんは言います。

○橘花さん
一年目より二年目のほうがしんどいこともいっぱいあったし、正直に言うと毎日のように辞めたいと思っていたこともあって、自分ってアイドルとして必要なのかな?とか結局アイドルっていっぱいいて、自分以上にダンスが踊れる人も歌が出来る人も可愛い子もいっぱいいる中で、自分ってどんな存在になれるだろうって思ったときに迷っちゃって、そういうところをファンの人にいっぱい見せてしまって、それでもファンの方は「みなみちゃんがいいから」「みなみちゃんからは離れない」と言ってくれて、それが凄く嬉しかった。
私は「アイドルをやらないと死ねない」と思っていて、その気持ちだけでここにきてしまったから、不安定な部分もあるし、迷惑をかけてしまうこともあるけど、それでも今日ツアーファイナルを迎えて、私はファンの人の好きな存在でいたいし、これからも推しメンでよかったって思ってもらいたいし、いつか卒業するときに「アイドルでよかった、透色ドロップに入ってよかった」って思いたいので、これからも頑張ります。

橘花さんはメンバーのほうにも向き直り、「ずっと一緒にやってくれてありがとう」
「マイナスな部分を見せるのに、分かろうとして、頼らせてくれて、一緒に居れて幸せです」と言いました。

◆思ったこと③

見並さんしかり、弱さを認め、互いに寄りかかれるようになったグループは強いです。
メンバーのコメントからは、心が交差していく人間模様を見せてもらったような気がしました。
これがこの日感じたことの3つ目でした。

もともとこのグループには仲が悪いというイメージはありませんでしたし、ステージの上だけでのつきあいというビジネスパートナーな人間関係とも思っていませんでした。
3期の梅野さんは多少の年の差があるからかまだ敬語ですが、去年加入組は初期メンバーである見並さん・橘花さんとの上下の境目がなく、YouTube番組「透色って、なにいろ?」でも互いの良いところ悪いところを全て知り尽くしているから生まれるのだろうなという信頼関係があります。
色々アイドルを見てきて、どんな場面でも決まずくなさそうというか、波長が合っているのだろうなと感じていました。
しかしここにきて、その結束はそうそうほどけないほど固いものになったようです。

#アイドルをやらないと死ねない 」というワードに連れられて透色ドロップに入っていったメンバーにとっては、オーディションを通過した時点で生涯の目標の一つは達成できたのかもしれません。
しかし、入れたことだけで満足だったならば佐倉さんが印象に残ったエピソードとして挙げていた「大阪公演のあと、『私たちの100%のパフォーマンスではなかったよね』と言ってみんなで泣きあった」という出来事は生まれてこなかったはずです。
どこからか「勝負の3年目」という言葉が出てきたように、グループとして目指すものがはっきりと出てきたから思ったことを言い合って涙を流せるのでしょう。

スピーチがここまでずしんと心に来るとは思っていませんでした。
卒業ライブでも解散ライブでもないのにメンバーの言葉に感情移入して胸が詰まった経験は恐らく初めてでした。

「これから私たち、三年目を迎えてさらに飛躍できるようにいろんなことに挑戦していきます。
その時、みなさんがそばにいてくれたらすごく幸せです。
本日は本当にありがとうございました。」

最後は、中央に集まり、肉声で「透色ドロップでした!ありがとうございました!」

上手、下手、中央などに手を振り、後方や配信のカメラにアピールし、ひと通り巡ったメンバーは去っていきました
天川さん、梅野さん、瀬川さん...
バックでうっすら流れる「夜明けカンパネラ」がラスサビに入るころ、手を振りながら上手袖に消えていきます。

捌けていく列の一番後ろにいたのは橘花みなみさんでした。
ステージから下りていくとき、一番最後に捌ける一人がフロアに向かって深々とお辞儀をするというのが、透色ドロップのライブ終わりの挨拶です。
単独だけでなく、対バンでもそうです。
最後まで残るメンバーは決まっているのかわかりませんが、個人的には花咲さんのパターンを多く見かけます。
この日は順番的に橘花さんになりそうなところですが、橘花さんは直前を歩いていたメンバーの腕を取りました。
そのメンバーこそ、見並里穂さんでした。
(だおだお🐻)

一人だけが頭を下げるというセオリーを崩し、初期メンバーとしてグループの立ち上げの時から一緒にいたふたりが揃ってお辞儀をしたのでした。
最後までステージに残ったのがこの二人だったということになります。
お互い「何を言ってんだと思うこともある」そうなのですが、言葉に出来ないところでのつながりは海よりも深いものでした。
ドラマチックな味付けをするつもりはありません。
この事実だけで十分です。
単独ライブのたびに色々な体験をさせてくれる透色ドロップ。
公演タイトルにある「目に見えない大切なもの」を、最後の最後に見せてもらいました。

◆セットリスト
M1. だけど夏なんて嫌いで
M2. 君色クラゲ
M3. ぐるぐるカタツムリ
M4. 桃郷事変
M5. りちりち
M6. 衝動
M7. 孤独とタイヨウ
M8. ユラリソラ
M9. ≒
M10. 恋の予感!?
M11. 夜明けカンパネラ
M12. ネバーランドじゃない
M13. きみは六等星
M14. やさしさのバトン
M15. キュンと。
M16. アンサー
M17. 君が描く未来予想図に僕がいなくても
En1. だけど夏なんて嫌いで
En2. 夜明けカンパネラ


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