前に、書いたこと「臆病もの」

2020年5月6日

 「僕は28才。もう大人。
     でも、みんなからは『臆病もの』って呼ばれている」

「だれか助けて~!子どもが川に落ちたの!助けて~!」

 僕は駆けて行った。

「助けて!お願い。誰か、どなたか。わたし、泳げないの・・・」
「(溺れている女の子・5才)ゴボッゴボ・・・ゴボ・タチュケ・・・」

 僕はドキドキした。
「早くしないと・・・でも、だれか、そう、誰か、きっと・・・
 僕より大きくて、頑丈で、強い誰かが、きっと、助けるぞ!」

 僕は周りを見た・・・!?。

「みんな黙ってる」

「お願い。早く。お願い。助けて」

「やっぱり、黙っている。そして、僕も」

  日に焼けた小麦色の若者。
  立派なヒゲを蓄えたお父さん。
  ジョギング姿のスポーティーなカップル。
  バットとグローブを担いだ野球少年。
  隣のおばちゃんと目を見合わす買い物帰りの主婦。

「みんな、黙っている」

  泣きべそかいている小さな男の子の前の空気だけが動いている。
  その場から去る人もいる。

「タ・ス・ケ・テ・・・・ダレか・・・」

         杖、突きながら、おばあちゃんが
「今。行くからよー。しっかりすべーよ!」
  と、ゆるーりと前に出てきた。

 「僕は泣きそうになった。
  僕の顔、たぶん、イガンでいる」

「クソー。チキショー!」

        僕は飛び込んだ!

  夢中で女の子の手を掴んだ。
  そして、泳いだ。

「お母さんが、僕に、『ありがとう、ありがとう』と
 何度も何度も言った。
     ・・・涙が溢れそうになった」

  周りを見た。

「もう、誰もいない。
  なにも、なかったかの様だ」

「ボク、頑張ったね!」

  振り向くと、
  杖、突いた、おばあちゃんが笑っていた。



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