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「ときどき、散歩」


僕はもう大人。
  でも、みんなからは『臆病もの』って呼ばれてる。

「だれか助けて~!子どもが川に落ちたの!助けて~!」

僕は駆けて行った。

「助けて!お願い。誰か、どなたか。わたし、泳げないの・・・」
 慌てうろたえる母親。

 5才の女の子が踠いてる。
「ゴボッゴボ・・・ゴボ・タチュケ・・・」

『僕はドキドキした。
  早くしないと・・・でも、だれか、そう、誰か、きっと・・・
  僕より大きくて、頑丈で、強い誰かが、きっと、助けるぞ!』

「・・・ゴボ・タチュケ・・・」

『僕は周りを見た・・・みんな黙っている!?』

「お願い。早く。お願い。助けて」

『やっぱり、黙っている。そして、僕も』

「・・・タチュ・・・グエッ」

  日に焼けた小麦色の若者。
  立派なヒゲを蓄えたお父さん。
  ジョギング姿のスポーティーなカップル。
  バットとグローブを担いだ野球少年。
  隣のおばちゃんと目を見合わす買い物帰りの主婦。

『・・・みんな、黙っている』

  泣きべそかいている小さな男の子の前の空気だけが動いている。
  その場から去る人もいる。

「タ・ス・ケ・テ・!ダレか!オ・ネ・ガ・イ・・・」
  母親が岸辺で息を止める。

杖、突きながら、おばあちゃんが、
「今。行くからよー。しっかりすべーよ!」
  ゆるーりと前に出てきた。

『僕は泣きそうになった。
  僕の顔、たぶん、歪んでる』

『クソー。チキショー!』

  僕は飛び込んだ!

  夢中で女の子の手を掴んだ。

お母さんが、
僕に、「ありがとう、ありがとう」と何度も何度も言った。
・・・涙が溢れそうになった。

周りを見た。
  もう、誰もいない。
  何も、無かったかのようだ。

「ボク、頑張ったね!」

振り向くと、
  杖、突いた、おばあちゃんが笑っていた。



ミスチルの「ヒーロー」が脳内を駆け巡っていた、
そん時に浮かんだ【一コマ】です。

            

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