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黄身の名は。

〜あの日、卵を割った日〜

朝目覚めるとなぜか泣いている…

見ていたはずの賞味期限はいつも消えかかっていて思い出せない…


これは実話に基づく物語である





冷蔵庫

それは時として思いがけない出会いを私達にくれる。


元の大きさの半分ぐらいにまでしぼんだ"野菜"だったはずの何か。

元の色が何色だったのか分からないまでに変色したタッパーの中の何か。

いつの間にか倍以上の数にまで増殖したタレや調味料の小袋。

何年前からその場所に居るのかすら分からない、まるでそのままの姿でタイムスリップして来たかの如し保冷剤達。


しぼむ・色が変わる・増える・時を超える。

某ネコ型ロボットの道具も顔負けの代物だ。



そしてそんな中、雪のように真っ白い肌の彼女は現れた。

色、ツヤ、共に何の問題も無い。

「キミは幸運だ」

日の目を浴びずに葬り去られて行く仲間もいる中、私の目に留まった。
空腹の私の目に。


「キミは優秀だ」

姿形を変える他の者達と違い、あの頃のままだ。


「キミと出会えて良かった」


何時間もの間、何も口にしてなかった私は彼女との出会いに感謝した。



だが欲というのは恐ろしい。

食欲という魔物に支配された私は、数秒でそんな気持ちも忘れ、勢いよくシンクの角に彼女を叩きつけた。


…………。


様子が変だ。

いつもならここで我れ先にと言わんばかりにキミが顔を出し、次いでキミを纏う透き通る透明な衣がお出ましになるはずだ。


何も出てこない。




その時だ。


窓の外から夕焼け小焼けのチャイムが鳴り響き、辺りは昼とも夜とも言えぬ不気味な明るさになった。


かたわれ…時だ…



ズドンッッ

明らかに今までのキミが姿を現す際の繊細な音とは異なる重たい音。
そしてまるで流星が落下したかのような衝撃がシンク全体に響く。



こ、これは…?

私は何を見ているんだ?
何を割ったんだ?

ただ、何かを割っただけの感覚が残り、1人シンクに佇む。

ここに来たのは何か目的があったはずだ。
何かをずっと探していた。ずっと…


あ、あの……


黄身の…名前は……



        ※一部創作




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