見出し画像

[短編・私小説] 熱海から東京駅までは、地面から大気圏までの距離に等しいって……………本当?・驚き!!

小山田 羊(ひつじ)24歳は、廊下で急に声を掛けられた。

関西系若手お笑い芸人A 「ジブン……ワイと同い年やん! 仲良うしようや。この人、映画監督目指してるんやって!」

高卒の小山田は、しごく一般的な映画監督を目指す道を行かなかった。なぜか高卒で芸能人のマネージャーからスタートしようと思ったのであった。

理由は色々あるけれど、ステレオタイプ化された助監督から監督、という道を選ばなかった。そういう道はマンネリだし、人とは違った方向で行こうと。芸能界でだんだん勢いと運を上げていって成功していく人、徐々にパワーダウンして駄目になっていく人、裏方さん、カメラさん、事務所社長、様々な人を観察しながら、人や世の運命やダイナミズムをじーっと観察しながら、映画の登場人物、主人公がどうやってストーリー世界を、また監督さんが、どう物語を紡ぎ出していくのか、を勉強していくために様々な世界を見られる芸能界の、芸能マネージャー業の道を一時的にせよ、選んだのであった。

小山田はとある若手女優さんが、気になっていた。それは恋愛対象としてではなく、親が
子や孫に対する心持ち、見守りたいという意識に近かった。その女優さんは、子役から頑張って来て、努力と少しばかりの強運で登っていった女優さんだった。だが、突然に起きてしまった所属事務所との契約トラブルや、マスコミにでっち上げられた、とある若手男性俳優との不倫報道に、見ても分かるくらいに直撃のダメージを受けてダウン、かなりナーバスに落ち込んでいたからだ。

周りの芸能事務所関係者達、も距離を置いていて、本人も先輩大女優さんから辛辣なバッシングを受けており小山田は可哀想に思っていた。


まともに話などしたこともなかったが、心の中でガンバレ!と祈ったこともあった。小山田は思った。人々とは色んな運命のエネルギーのうねり、ダイナミズムに巻き込まれながら人生や世界を紡ぎあげていくものだと……


小山田は、この業界で色々と見てきた。倒産間近の芸能プロダクションの金を有り金かき集めて、所属芸人、社員、マネージャー全てにわからないように責任を全放棄してコッソリと夜逃げ屋さんに頼んで夜逃げし、東南アジアのタイの山奥に潜伏し続け最後に警察に捕まった、とある芸能プロダクション社長!

若手タレントとして勢いよく売り出した、はいいが、その後鳴かず飛ばずで、落ち込み状態が続き鬱になり薄暗い東北地方の山の奥の森の中、首吊り自殺死体として発見されたタレントBさん。

視聴率がなかなか上がらずに悩み苦悩し、煮詰まって精神が崩壊して精神病棟に強制入院した番組ディレクターH・Sさん………

それでも、また、良いものも見た。番組のイチカメさん、ふと思い付いて離職し東南アジアのスープ屋さんを始めて客達の評判が評判を呼び、大評判の勢いのあるスープ・チェーン店の社長さんになって大成功した話………。

地下女性アイドルとしてスタートして、大人気を呼び芸能人デビュー!!そしてモロ!好みのタイプの男のミュージシャンと恋愛し、誰もが羨む幸せな結婚をし、幸せな家庭を築いた、ハッピーエンドなお伽噺の様なお話…
…………………………。


小山田はこの芸能界の強烈さにある種圧倒的
に圧倒されていた。言葉も出ないほどに。二の句も告げることもできさえいられずに………
人間の欲望や、動物としての生命力の凄まじさに……………………。


もう……何にも、出来ねぇよ、オレ………………。


小山田は実に様々に、色々に、マジマジと、芸能界を見続けてきた。小山田は、思った……
もし、僕が映画監督になって、映画を撮るとしたら、ストーリー、物語、撮影角度、照明、それら全てを取っ払い、人間の巨大な生命エネルギーのダイナミズムを映画の骨子、背骨、にするだろうな………と、ていうか、もう、それしか考えられないんじゃないか、と。ここまで来るとなると………と、思った。


小山田は誰も居ない深夜のテレビ局の真っ黒な暗い、照明が少しついた廊下の長椅子に深々と腰を降ろし、首を反らし、天井を見上げながら地下の闇の奥深くに、果てしなく落ちて行く感覚を覚えながら沈み込み、ふーっ………………、と溜め息ともつかぬ深い深い深い息を吐いた……………………


そして夢想した…………

自分こと、小山田は、何でこういうことを、
今、しているのだろう、と。

🌟小山田青年の暗夜光路🌟


自分の身体が漆黒の深い夜空のように天空を広がりながら、この世の天と地にあるもの、全てを呑み込み、包み込み、消化吸収しつくしていく様子を。何か、こう、もはや映画でもなければ、何者をも例えようもない物、しか作れないんじゃぁ無いのか。と。………………
……………………。


小山田は空想する。自分が映画監督に成っており、映画制作をしている。それは映画じゃあ無いものであり、映画俳優さんに役作りなんて、しなくていいですよ~!!、と。
自分のありのまま、私生活、人生であった様々な嫌な事、嬉しい事、様々に思い出してもはや、勝手にやってくれと!小山田監督は
、それを生命エネルギーの塊、蠕動、ダイナミズムとして、お客さんの前にイタリアンやフレンチのフルコース・メニューとして差し出しますよ?と。それしか、無い!


小山田羊は誰も通っていないテレビ局の深夜の廊下をコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ……………と一人、靴音を響かせ歩みながら思った。自分が夢想した、この世の全ての善悪を超越した凄い欲望や生命力を、上空から包み込む黒い空気の様な物になる事を。そして、それが自分の本当に成りたかった映画監督としての姿かも…………知れないと思ったのであった…………………………


小山田羊 24歳のまだ肌寒い、まだ、小雪のさざれ降る早春の頃のお話でした。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?