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播磨谷浩三先生と考える経済学と機械学習

こんにちは。経済学AI研究会 マシンエコノミクスの代表のSです。

当サークルは
「機械学習の経済学への応用法を探り、それを本団体の内外で共有し団体外の学生にビジョンを示すことを通して立命館大学に機械学習を応用した経済学の学習と実践を行うオープンな学生のネットワークやその拠点を形成する」ことを目指しています。

その活動の一環として現在立命館大学に在籍している先生方にインタビューをしてお話を伺い、機械学習と経済学のこれからについての構想を共に考え今後の活動の道筋を探究しています。

今回はそのインタビューの第一回目ということで立命館大学経済学部の播磨谷浩三先生にインタビューを引き受けていただきました。

播磨谷浩三先生の経歴

日本で大学教授になる場合、大学卒業後はそのまま大学院に進んでアカデミックの道に進むというルートが多いのですが、播磨谷先生は一度民間企業に就職するという道を歩まれました。

学部時代から院進を目指していたものの、師匠からの勧めや当時好景気であったということもあり民間企業での経験をするために銀行へ就職されました。

そしてしばらく社会人経験を積んだ後、学問の道を志して大学院に入り博士号取得を目指しました。

学部時代は国際経済学の理論系の勉強をしていたということもあり、当初は理論系の研究をやりたかったそうです。

しかし当時はパソコンの黎明期であり、当時の大学院の教員のアドバイスによりパソコンを購入して研究に活かすようになりました。
TSPなどの専門の統計ソフトでプログラミングを始め、計量経済学の手法を用いて様々なモデルの検証の研究をするようになったとのことです。

播磨谷先生の主な研究は「効率性の計測」と呼ばれるもので、これはその名の通り、特定産業内の各企業の効率性を、想定される生産関数や費用関数のフロンティアと実際の観測値との乖離として計測するというものです。
確率的フロンティアアプローチ(入出力の間に特定の関数を想定し、技術的非効率性を通常のランダム誤差項から分離して計測する方法)と呼ばれる手法を用いて研究されていたそうです。

しばらくはこの様な産業組織論的な考え方に基づいた検証を行っていたそうですが、やがて理論の検証よりも現実社会を意識した研究がやりたくなり地域金融機関の研究をスタートさせたとのことです。

播磨谷先生は

「データをもとにその裏にある構造を読み解くような理論(構造推定アプローチ)をやってこそ、と言う意見もあるが、モデルありきというよりも、もう少しデータドリブンでやるというようなアプローチ(実験アプローチなど)も悪くないのではないか。」

とおっしゃっていました。

*構造推定アプローチ :モデルに関わるすべてのアウトカム(結果)変数を利用して効用関数や生産関数のようなミクロ経済学モデルのパラメターを推定し、この推定されたモデルを利用してビジネス戦略や政府の政策などが変更された場合に消費者や企業がどのように反応するかを考える反実仮想シミュレーションを行う手法。

データを用いた学習・研究をする上で肝に銘じるべきこと

データを用いた学習・研究は基礎をしっかりと固めないと応用ができない、そしてこの基礎の壁は自分でしっかりと勉強して乗り越えるしかないといいます。

また統計系の授業も受け持つ播磨谷先生はこの件について
「近年の風潮・教育環境は、無知の知というか、自分の知らないこと、足りないスキルに向き合うということが軽視されているのではないか」
と懸念されているそうです。

例えば、統計に興味がある人が集まっているはずの演習系の授業にも関わらず、Excelの初歩的な操作について、理解できなかったり、わからなかったり、そしてそれをあまり問題とは思わない学生が少数ながらもいるとのことです。

他にも就活でも受動的で、自ら情報を求めて積極的に学ぶ、行動することをしない学生がいるのも気になるとのことで、この様な姿勢の学生が増えていることに将来の不安を感じることがあるそうです。

データ関連の学習に限らず、
足りない、知らない、わからないということに悔しさを感じ、これをよしとせずに向き合う。
この様な前向きなプライドを持つことがデータを用いた学習・研究をする上で重要だとのことです。

空間経済学

経済学には特定の土地において産業の集積や都市の形成がなぜ起こるのかを理論的に分析する空間経済学という分野があります。

距離や規模という概念が考慮されている点が特徴的な分野なのですが、他の先生から播磨谷先生が空間計量モデルを用いた研究を発表されたという話を聞いていたのでこちらの話についても聞いてみました。

播磨谷先生は銀行に着目した研究をされていることもあり、その地域の銀行の店舗の数と企業の数の関係を分析したそうです。

ここで重要なのは地域の間の相互関係も考慮しなければいけないという点です。
たとえば隣接する地域の店舗の数もその地域の企業の数に影響するということが予想されます。

空間計量モデルでは、それらの地域の間の関連について、地域の外周の長さと隣接する地域がその地域と接している境界線の長さとの比などでウエイトの行列を作り、これを変数にかけることで周辺地域の影響を考慮します。

この手法は観光や交通、環境などの分野でも広く使われる手法だとのことです。

分析に際しては位置情報が必要になりますが、緯度や経度などのデータは国土地理院などが公表しており、加えて今はSTATAなどの統計ソフトで簡単に分析できるそうです。

機械学習と経済学

さて最後に本題の機械学習と経済学のこれからについて聞いてみました。

播磨谷先生曰く、日本は個人情報保護の規制が強いために分野によってはアメリカ等と比べて使えるデータ量の桁が極端に少なく、各種のシミュレーションの手法を用いて少ないデータでいかに信頼性を担保するかということが論点になるのではないかとのことです。

スモールデータ分析の手法等を活用することで実りがあるかもしれません。

また、ただデータを分析したらこうなったというだけではなく、何故その様な結果が出たかという掘り下げや考察、解釈の深化も大切であるといいます。

最近は統計ソフトの発展やライブラリの充実により、分析はコマンド一つで実効できるようになったものの、しっかりと裏でどのような理屈で処理されているかを理解しなければならず、そうしないとコマンドや出てきた数値を盲信してあり得ないような理論の矛盾を見逃してしまうことにつながるそうです。

機械学習を経済学で使う際は、プロセスとなる要因(説明変数)を自由に決めることができる反面、なぜそのアウトプットが出たのかが分かりづらいです。そのためプロセスの前提となる仮説の設定が非常に重要になるとのことです。

播磨谷先生、今回はありがとうございました。

経済学AI研究会 マシンエコノミクスは今後も先生方にインタビューをしてお話を伺い、機械学習と経済学のこれからについての構想を共に考え今後の活動の道筋を探究していきます。

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