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フリーライドされがちな士業(2024/01/20)

 突然ですが、あなたはプロの料理人にプライベートで「レストラン並みの食事を作ってほしいんだけど、プライベートなんだから無料で作ってくれるよね?」とは言わないですよね?
例えば美容師さんやマッサージ師の方に、「知り合いだからタダで施術してよ?」とは自分から言わないですよね?
(家族だったり、練習として先方からお願いされるとかは、また別の話ですが…)

 ところが、その理屈を無視された現象がたびたび見られる業界があります。

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 私は税理士法人で事務パートを何年かやっています。毎年1~3月は、所得税の確定申告により、一年で最も忙しくなるシーズンです。日本国内の所得税の納税義務者(給与所得だけで完結している一部の人を除く)の申告事務が、一年のうちの1ヶ月という短い期間に集中するため、この業界の人たちはこの期間は本当に神経を尖らせて業務を行っています。

 私は無資格者で補助業務を行っているだけですが、税理士だったり、税理士業務に近い申告業務を行っている職員は、この時期はプライベートでも「確定申告についてちょっと教えてほしいんだけど・・・」という問い合わせが来ることが多いと聞きます。しかも、特に仲が良いわけでもない疎遠な人から。
(念のためお伝えしておくと、税理士の独占業務を非税理士が行うことは無償であっても税理士法の違反となりますので、本件の場合はそういったことではないという前提です。)

 ですがその場合、仕事として請けるのでなければ、判断材料となる情報が不足していて、全体像の一部だけ聞かされている場合が多いでしょうし、そうなると諸々の判定が誤る可能性もありますし、何より、その場合に相談された側が提供する情報・知識の積み重ねは、その人が多くの時間とお金を投資して得てきたものです。

 しかし、質問してくるほうは、「ちょっと聞くぐらい、お金かかるものじゃないんだし、いいでしょ?」という感覚なのかもしれません。ですが、聞かれるほうは対価を得ずに責任だけ発生するような発言もうかつにできないでしょうし、この忙しい時期(連日、残業が深夜に及ぶ人も多いです)に、プライベートの時間に少しだって割り込んでこられると困る人が多いと思います。

 この問題、自分は質問されるような立場でもないので直接関係ないですが、割とよく聞く話です。そこで、なぜこんなことが起きてしまうのか自分なりに考えてみました。

・カタチの見えないモノ・コトに対して対価を払うという概念の意識に欠如している人が多い
・そもそも「税金は払いたくて払うわけではない」という意識から、「税理士」の業務に対してもなるべくコストをかけたくないという人が多い
・税理士資格と試験がマイナーすぎて、そこに到達することの大変さが理解されておらず、リスペクトが欠けているかもしれない

 
 自分は、身近に国家資格の士業を行っている知り合いはいないのですが、以前に子供の保護者のつながりで、弁護士さんがいらっしゃいました。個人的に会話をするほどの仲ではなかったですが、本人はできれば職業を隠したかったようですが、ちょっとしたきっかけで他の保護者の方に分かってしまったのですよね。

 これまでの話の流れで非常に言い出しにくいのですが、実はほんの少しだけ(簡単な法律相談なら聞いたら答えてくれるかな…)なんて、内心思ったことがありました。実際にはそういったことはしませんでしたが、私みたいに思う人が近寄ってくることを避けたかったのも、職業を隠したかった理由の一つかもしれませんね。自戒の意味も込めて、そういったことはしないようにしようと思います。

 これは私の偏見ですが、医師・弁護士などは難関試験を突破した高尚な職業で、他人が簡単に踏み込めないというイメージが多くの人に定着していて、そういった不躾なことをする人は少ないのではないかと思っています。

 対して税理士は、上述したような理由から、「ちょっと聞くぐらいならいいでしょ」というイメージを持たれがちなのかと思いました。

 私は税理士試験のうち、入門科目とされる2科目のみ合格していますが、これに合格するまででも非常に大変な思いをして勉強をしましたので、残り3科目を合格するというのは、本当に様々なことを犠牲にして時間・お金を投資して、地道な努力を積み重ねた人が獲得するものだと思っています。だからリスペクトされるべきだとか、そういう話ではないのですが、税務においては、提供する側と求める側の温度差が大きいなと日々感じています。

 士業・資格関係の従事者に限らずですが、相手が長年の経験や勉強から得てきた知識を搾取しようとすることは、控えなければいけませんね。自戒の意味もこめて記事にしました。


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