10年ぶりに再会した日、大人の味
2023年6月、僕はある1人の友人と10年ぶりの再会を果たした。彼は高校の同級生だが、実のところよく話すようになったのは高校3年生になってからである。
当日まではInstagramのメッセージで連絡を取り合い、土曜日の夜に駅地下で待ち合わせをした。10年ぶりだと、彼のことは一目で分からないと思っていたが、改札を抜けてきた彼はグレーのスーツに身を包み、その高身長でスラリとした風貌は当時と変わっていなかった。でも唯一パーマはあてているようで、勤勉で実直だった彼も流石に垢抜けた様だ。
「久しぶり」とあっさりした会話を交わしてから、僕たちは予約していた居酒屋に向かった。 内心はお互いに浮かれていたに違いない。10年ぶりとは言っても、4年ほど前からSNSでの交流はあったのだが、何がきっかけだったのか。思い出せなかった。
「アイツはどうしてる?」、「今地元で働いてるらしい」
お互いの知り得る情報を交換し、卒業してからその後の事を探り合った。中にはもう顔も思い出せない人もいた。
居酒屋に着き、10年ぶりの高揚感を何と表現するべきか分からず、「キモっ!」と繰り返した。社会人になりたての20歳の様なテンションだった。
彼は慣れた様に注文をし、大人の味が席へ運ばれてくる。最初だけビールだったが、そのあとは日本酒を嗜んだ。
「お互い酒を飲む歳になったな」
"少し"ではなく"それなり"に時が経っていた。
卒業して2.3年程度ではそこまでの変化は感じなかっただろう。10年というのは体感にしては一瞬で、でも着実に重ねた年月だった。
悲しくもないが、両手放しの喜びも無い。
何と形容すべきだろう。
見つからないというより、数ある中からしっくりくるものが見つけられなくなったという感覚で、10年前より、言葉も感情も有り余り過ぎているのかもしれない。
彼との会話で色々なことを思い出した。
受験シーズン、同級生4人で集まって、彼の家で勉強したこと。彼の家の机が低く、腰が痛かったこと。
近所のラーメン屋に替え玉が無かったこと。学校のトイレの位置。デザインの悪い体操服。先生の似顔絵が上手い同級生。
歴史上の人物の名前。ロシアの炭田の名前。一度だけテストで勝ったこと。帰り道に変なおばさんがいたこと。最後の文化祭は体調を崩して休んだこと。
どこにこんな記憶が眠っていたのか。
どこにしまい込んでいたのか。
散らかった部屋を掃除する時に懐かしいものを見つけてしまった様な感覚。
僕は長年、いわゆる「青春」めいた物とは無縁だと思っていた。高校3年間は受験勉強に勤しみ、同級生と遊んだ記憶はほとんど無かった。
大学生から社会人になり、必死で仕事をした。
気づけばビールの様な苦い味ばかりを好むようになった。子供の頃は苦い物を避けていたのに、いつのまにか苦みを感じなくなっていた。
彼と話し、思い出し、僕は何だかんだで「青春」っぽい事をしていた様だ。ただ思い出せないだけだったみたいだ。そんな経験が僕にもあった。
その事実はやっぱり嬉しい。
そんなことを考え、日本酒の最後の一杯を飲み干した。
あの頃の自分に会ったら言いたい。
「大人の味、悪くないよ。」
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