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#曲からストーリー 男はつらいよ1~寅次郎星降るエクスプレスの旅

 わたくし生まれも育ちも東京葛飾柴又です。
帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。

 随分長いこと旅をしてきたが久しぶりに故郷へ帰ろうか。
ふと宿屋の天井見ながらそう思ってね。
いてもたっても居られず宿を出て駅へ行って丁度来た汽車に飛び乗ったのよ。
だけど妙だよ。俺はたしかに新幹線には乗ったけど汽車なんて八作目以降久しく乗ってなかったんだから。
懐かしいなあなんて思ってたら丁度いい具合に車掌さんが現れたんで聞いてみたのよ。
「あのう 、車掌さん。何も考えずに飛び乗ってしまったんだがこれは上りだね。柴又に行きたいんだけと東京駅まで行くだろうね。」
って聞いてみたら
「お生憎様ですが当鉄道は東京駅には停まりません。」
「え、だってこっちは上りの方角だよ。」
「当鉄道は銀河鉄道といいまして、これから宇宙の星々をめぐるのでございます。」
「あのな兄ちゃん、俺は柴又に帰りてえんだよ。宇宙飛行士じゃあるめえし宇宙なんか行っても仕方ねぇじゃないか。」
「お客様。失礼ですがここに来る前の記憶覚えていらっしゃいますか?」
「ここに来る前?うーんたしかあれは京都だっけかなあ。」

 ようくゆんべの事を思い出してみる。
あれは京都。
湯河原町駅から祇園へ向かう途中。四条通の片隅に先斗町ってところがあってね。
ちょっとぶらぶら歩いていたら道の片隅に座り込んでる舞妓さんがいたのよ。
「お姐さんどこか具合が悪いんですかい?」
と聞くと
「ええ、ちょっと。これには訳がありまして。」
「へえ、俺でよかったら力になるよ。」
「お兄さん親切ですねぇ。では申しますが、わたくしこれからさるお大尽のお座敷へ向かう途中でございました。実はそこのお大尽の奥様というのが大変嫉妬深いお方でおられまして。お座敷に上がった芸者衆をあまりよく思ってはおられない様なのでございます。」
「へえ。」
「最近旦那様がお目をかけて贔屓にしている芸者衆が次々に事故や病気、身内の不幸が相次ぎまして、奥様が夜な夜な貴船神社の奥宮で丑の刻参りをしているという噂でございます。」
「へえそれで。」
「それで私も気がすすまないのでございますが、大変羽振りのよい御大尽でございますれば置屋のおかあさんに是非ともと頼まれ無下にも出来ず…」
「そいつは難儀なこった。」
「ええ、いくら羽振りがよいといっても命あっての物種。呪いをかけられて死んでしまっては元も子もありません。」
「そりゃそうだ。」
「もしお兄さん。お兄さんさえよろしければ今夜一晩泊めてくれないでしょうか。」
「ええええ三晩だろうと四晩だろうと好きなだけ泊まってくれよ。汚ねえ宿屋だけどよ。」
こんなべっぴんさんが困ってるのを助けねぇ訳にはいかねえと早速宿屋へご案内。
どうも心持ちが悪いようだからと宿屋のおかみさんに早めに夕飯の支度を頼んだ。
「お姐さんどうもお顔があんまり白いようだよ。一杯飲んで温まりな。」
そう言って俺がお酒をついでやるとたちまち姐さん顔が赤らみ
「お兄さんようく見ると大層色男ですなあ。」
なんて言います。そして、
「わたくしお兄さんみたいな人と添い寝がしてみたいわ。」
なんて言い出すんだからたまらない。
「添い寝。ああいいですとも。こんな俺でもいいんだね。」
「ええ兄さんみたいな優しいお方ずっと探していましたの。だけど兄さん私これでも雪女どすえ。」
「雪女でもなんでも、姐さんみたいなべっぴんさんと俺も添い寝がしてみてえよ。」
そう言うと、
「それでは兄さんあんたの魂、いただきまんす。」
そう言って二人は熱い接吻を交わしたのよ。
それからいい心持ちになってすーと意識がなくなって…
気がついたら宿屋の天井よ。
随分長い夢を見たと思ったんだけどな…。
まあそれぐらいしか覚えてねえな。
それから急に故郷が恋しくなってここまで来たって寸法よ。
「あなた!それは夢ではありませんよ。雪女に魂を抜かれて死んでしまったんですよ。」
「!…それを言っちゃあおしまいよ。」


 どうも車掌さんの言うことは要領を得ないけど、たしかに外の景色は一面の星空が煌めいている。
たしかにこの汽車は銀河を走っているのは間違いないようだ。
すると俺は本当に死んでしまったのか?
すると故郷のとらやの面々の顔が浮かんできた。
心配になってさっきの車掌さんを探す。
名札には宮澤と書いてある。
「ああ兄さんは、宮澤さんだね。」
「はい、何でしょうか?」
「俺が死んだってことはしょうがねえけどよ。故郷のとらやのみんなが心配なんだ。何か電話のひとつでもできないもんかね。」
「仕方ありませんね。普段は現実世界との交信は禁じられてるんですがあなたのように未練が強いと天国へ行けずにさ迷うかもしれません。特別ですよ。」
そういって先頭車両へ案内されると色んな計器が並んであるところに懐かしい黒電話があった。
すまねえ借りるよって言って早速とらやへ掛けてみる。
「…はい、とらやですが。」
懐かしいさくらの声だ。
「お、さくらかい。俺だよ。寅だよ。」
「寅?あなたいたずら電話なら切りますよ。」
「ちょっと待ってくれ。本当に俺だよ。兄ちゃんだよ。」
「お兄ちゃん?本当に?何で今頃電話するのよ。」
「長いことご無沙汰して悪いなあ。実は俺京都の宿屋でさ、雪女に騙されて死んじまったみてえなのよ。だから帰りたくても帰れねえ。」
「何言ってるの。お兄ちゃんもう27年も帰って来ないじゃない。とらやのみんなと相談してさ、きっと寅さんどこかで野垂れ死んだに違いない。ささやかだけどお弔いしましょうってとっくに葬式あげたんだから。」
「そうかい。そりゃ悪かったな。自分の葬式にも参列しねえで。おいちゃんおばちゃんはどうしてる?」
「おいちゃんおばちゃんも12年前に立て続けに亡くなりました。」
「そうか。27年も経てば死んじまってもおかしくねえな。この先地獄で会えるかもしれねえ。」
「やだわお兄ちゃん、地獄だなんて。」
そう言って涙ぐむさくら。
「わりいわりいあの2人なら天国に違いねえな。博は元気かい?満男は風の便りで、どこかの島でお医者をやってるって聞いたぜ。」
「ええお陰様で。博さんは無事工場長を定年まで勤めました。満男は沖縄の離島でお医者様をやってます。時々小説も書いてるようだけど。」
「そうかいそりゃ良かったな。タコ社長は死んじまったろうな。」
「社長も6年前にねえ。」
「だろうなあ。とらやはどうしてる?」
「とらやはね、私がアルバイトさん雇って細々とやってるわ。おいちゃん亡くなったとき店を畳むかって話にもなったんだけどね。お兄ちゃんが帰ってくる場所ないと困るじゃない。私お兄ちゃんの葬式の後もきっとどこかで生きてるんじゃないか、ある日ひょっこり現れるんじゃないかってずっと待ってたのよ。」
 …ああ俺はいい妹を持ったな。そう思うと涙が溢れて止まらない。
「すまねえさくら。色々と心配ばかりかけさせてしまってよ。兄ちゃんな。いつかお前が喜ぶような、偉い兄貴になりたいと思って頑張ったけど駄目だったよ。でも安心しな。馬鹿は死ななきゃ治らないっていうが、俺もとうとう死んじまって馬鹿もすっかり治ったからよ。もう迷惑をかけるようなこともねえさ。」
「…お兄ちゃん、馬鹿でもいいから帰っておいで…」
「ああさくら、地獄の釜の蓋が空いたらよ。兄ちゃんお盆に帰ってくるよ。あばよさくら、達者でな。博と仲良くしろよ。」

俺がいたんじゃ         お嫁に行けぬ
わかっちゃいるんだ   妹よ
いつかおまえの        よろこぶような
偉い兄貴に               なりたくて  
奮闘努力の               甲斐も無く
今日も涙の
今日も涙の              日が落ちる  日が落ちる


「宮澤さん。」
「はい。」
「おいちゃんおばちゃん死んじまったとよ。この先どこかで会えるかねえ。」
「はい。先程お話を伺ったので地獄の閻魔さんへ確認の電話をしたんですが、とらやの2人は来てないそうです。」
「そうかい。やっぱり2人は天国か。」
「…最近はいい人ばかりで地獄は閑古鳥が鳴いてるそうですよ。」
「まあな。地獄なんか地獄温泉入ってればたくさんだもんな。」

【続く】

※これはフィクションであり男はつらいよのパロディです


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