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名探偵コナン最終回②哀しみよさようなら


 東都国際空港

 夕日に染まった空港を二人を乗せた飛行機が旅立ってゆく。コナンの分の座席はあらかじめFBIのジョディスターリングに頼んで手配して貰っていたようだ。
もちろん二人は並んで座った。
東都国際空港からロスアンジェルスまでは約10時間のフライト。
暇つぶしに灰原がコナンに尋ねた。
「ねえ江戸川君。そろそろ種明かしして貰おうかしら」
「種明かしって?」
「決まってるじゃない。黒ずくめの組織の名前がナイトバロンで、そのボスが工藤優作だってどうして分かったのよ」
「ああオメ~にはまだ言ってなかったな。オメ~と出会ったばかりの頃大学教授殺人事件ってのに巻き込まれたじゃねえか。広田先生っつう」
「ええあったわね」
「あのとき組織の情報の入ったフロッピーディスクを手に入れたオレたちは博士のコンピューターで立ち上げてみただろ」
「ええ私がやったわ。たしかあのときフロッピーディスクに仕掛けられていたコンピューターウイルスが発動し中のデータは全部消去されたわよね」
「そのときオメ~言ったよな?」
「あ!コンピューターウイルスナイトバロン(闇の男爵)!!」
「それで思い出したのさ。オレの親父である工藤優作の人気ミステリー小説の題名及び主人公の名前がナイトバロン(闇の男爵)。それに親父自身海外ではナイトバロン(闇の男爵)って言われてるらしいってことを。バロンっていうワインもあるしな。それに気づいたオレは服部とジョディ先生に頼んでロスの親父の邸宅を張り込んでもらった。すると推測通り親父と黒ずくめの奴らが接触してると連絡があったのさ」
「なるほど。うかつだったわね。そんなに早くボスに繋がる情報があったのに見落としてたなんて」
「盲点だよな。自分の親父が敵の親玉なんてよ」
「私はてっきり黒ずくめのボスはFBIに紛れ込んでるんじゃないかと思ったわ」
「ああやっぱオメ~もそう考えたか。オレも考えたよ。水無玲奈や安室さんが組織に潜入してるように奴らもFBIに潜り込んでいるんじゃねえかってな。でもそうだとしたら公安の安室さんはともかく水無玲奈がスパイだって奴らに知らせるはずだもんな」
「たしかにそうね。だとすると潜入捜査の情報を知らない下っ端ってことになる。でもそれはありえないわよね」
「ああ。それに水無玲奈が潜入捜査をしてると組織に知らせたらFBIに内通者がいるのではないかと逆に疑われてしまう。もしオレが奴らの一員だとしたら潜入者に情報収集なんかさせずいざというときのジョーカーとしてずっと潜り込ませておくよ。ま、結局ジョーカーは切り損ねたらしいけどな」
「じゃあ?もしかして」
「ああひょっとするといるかもしれねえな。組織が壊滅しても取り残されたジョーカーが」
「それをこれからアメリカに渡って調査しようってわけ?」
「ああそれで気がすすまねえかもしれねえけどオメ~にも手伝って貰えねえかな。頼むよ相棒」
灰原に向かって手を合わせるコナン。
「たく、しょうがないわね~。ま、別にいいけど。(地獄の底までついてくって言っちゃったしね)」
「わりぃ灰原」



 空港でコナンと灰原が飛行機に乗って旅立つのを確認したバーボンは愛車のマツダR-X7に乗って都内のバーへ立ち寄った。
そこにはすでにベルモットが待ち構えていた。


指定席ではベルモットがマティーニを飲んでいた。
「待たせましたねベルモット。これがあなたに依頼されて撮った写真です。驚くべきことにあなたの予想した通りの構図となりました」
そう言ってコナンと灰原がキスしている写真をベルモットに渡した。
「Thank you!悪いわね、あなたにパパラッチみたいなことをさせて。私が行けば勘の鋭いシェリーが気づくと思ったの」
「いえ。あなたには貸しがありますから。でも本当にこれがあなたの望みなんですか」
「ええそうよ」
ベルモットは片手でイチョウのブローチをいじっている。
「何ですそれ?」
「ああこれ?苦労して手に入れたフサエブランドのブローチよ」
「…たしかイチョウの花言葉は荘厳、鎮魂、そして長寿…」
「さすがバーボン。でも最後の長寿は余計よ…」
「あなたにひとつ確認したいことがあります」
「ええ何かしら?」
「キャンティとコルンがあのビルで待ち伏せしているという情報を赤井秀一に漏らしたのはあなたですね」
「なぜそう思うの?」
「なぜあの場所に赤井秀一がいたか、おかしいと思って彼に聞いたんですよ。すると匿名で通報があったと言っていました。彼は通報したのは腐った林檎じゃないかと言っていましたよ」
「Oh!笑えないジョークね」
「やはりそうか。つまりあなたは土壇場で組織を裏切ったのではなく前々から裏切りを計画していたわけだ」
「ええ。そうよ」
「おかしいと思いましたよ。あのコナンという少年。そしてシェリー。あなたはいつでも始末することができたのにそうしなかった。むしろ庇っているように見えましたから」
「そうよ。何せかわいい My child だから」
「やはりコナン君はあなたとボスの子供だったんですね」
「Yes。最初はね。私のかわいいボウヤに近づくあの女が許せなかった。だから殺そうと思ったの。でもあの子がボウヤに恋してるって気づいてから方針を変えたの。見定めようと思ったわ。果たしてあの賢いクールキッドに相応しい女かってね。ちょっといじめ過ぎちゃったけどね。今はすっかりあの子のファンよ」
「つまりあなたはナイトバロンを使ってコナン君とシェリーに様々な試練を与えながらも致命的な危機に陥いらないようにうまくコントロールしていたんですね」
「ええそうよ。…と言ってもあのクールキッドはほとんど自力で解決してしまったけどね。私が心配したのは他のメンバーがシェリーに危害を加えないかってこと」
「僕もシェリーのことは気にかけてましたが…。それにしてもコナン君が彼女に恋愛感情を抱いているとは知りませんでした」
「Yes。結局最後まであの子の気持ちは分からなかったわね。いつシェリーとくっつくか、ずっとはらはらして見てたのよ。まあ工藤新一ならともかくあの子にあま~い恋愛なんて似合わないわ。彼には苦い恋こそふさわしい…」
「いいんですか?このまま二人をロスに行かせて?」
「ええ、私の目的は達成されたの。この写真を見ればアポトキシンなんて飲まなくても若いままでいられそうね。
……きっとあの二人にはこれから様々な苦難が待っているでしょうけどあの二人なら難なく乗り越えられるはずよ。私も晴れてFBIの犬になったしこれからは堂々とあの子たちのかわいい恋愛を見守ることができるわ……ねえバーボン、一杯付き合ってよ」
「いえこれでも公安ですからね。飲酒運転するわけには」
「ふん馬鹿真面目なのね。……私はずっと賭けてたのよ。ボウヤとシェリーがキスするかどうかを」
「……まったく、あなたって人は」
ベルモットは再びコナンと灰原がキスしている写真をうっとりと見つめた。
「Iits berry berry cute!」
そう言って写真に口づけをした。


 ロスアンジェルス行きの飛行機の中

「へ、へ、へ~くしょん!」
「どうしたの?風邪でも引いた?」
そう言ってポケットティッシュを差し出す灰原。
「い~や。誰かがオレの噂でもしてんじゃねえのか」
「あらあなたがそんな非科学的なことを言うなんて珍しいわね」
「なんかよ~。さっき空港で誰かに見られてたようながしてさ~」
「何言ってるの。ナイトバロンの残党があの空港にいたならとっくに私たち消されてるじゃない。仮に残党がいたとしてもそれはアメリカにいる可能性が高いって」
「まあそうなんだけどよ。なんかずっとベルモットのことが引っ掛かってるんだ。オレの実の母親らしいけどよ。あいつオメ~がシェリーだって大分前から判ってたみてえだぞ。それになんであの土壇場のタイミングで組織を裏切ったのかな?」
「ベルモットの考えてることなんて誰にも分かる訳ないじゃない。あなたみたいにぶっ飛んでるだから」
「おいおい。まあ否定はしね~けどよ。でもナイトバロンとの戦いが終わった後、オメ~がアメリカに行こうとするのをオレが読めたようにベルモットだって読めたんじゃねえかと思ってさ。もしかしたら空港に来たんじゃねえかって。あいつなぜかオメ~にご執心だったみてえだし」 
「悪かったわね。あなたに読まれるような行動をして。でもベルモットが本当にあなたのお母さんならなんとなく分かる気がするわ」
「え?マジかよ。教えてくれ灰原」
「私のあなたへの気持ちに気づいたベルモットが、私があなたに相応しい女かどうか試したんじゃないかしら。あなたに釣り合えば生かす。釣り合わなければ殺す…なんてところかしら?素晴らしい親子愛ね」
「オメ~よ~。いくらなんでもドラマの見すぎだっつうの」
「あらあなたには女の気持ちなんて一生分からないでしょうね」
「へいへい」


(そうあなたは太陽。だけど私はあなたの光を反射することができない裏切りの黒い月……。
あなたは知らないでしょうね。私の枕がいつも涙で濡れていたことを……)


「ところでよ灰原。ひとつ聞いていいか?」
「何よ」
「オメ~いつからオレのことを…?」
「好きになったかって?」
「あ、ああ」
「知りたい?」
「まあな」
「自分で考えなさいよ。ヒントは充分あったはずよ」
「あいよ」
そう言って首の後ろで手を組むコナン。じっと天井を見ながら考え込んでいる。ロスアンジェルスまではまだたっぷり時間がある。


しばらくしてコナンはすうすうと寝息を立てたはじめた灰原の横顔をじっと見つめた。
そしてひじ掛けに置かれた彼女の右手に自分の左手を重ね合わせた。
そしてそのまま眠りに落ちた。
灰原の顔が赤く見えるのは飛行機の窓から射し込む夕日に照らされているからだろうか。


(江戸川君私はね。最初に出会ったときからあなたを愛してしまっていたのよ…。
あなたとずっと……ずっとこのまま……)


※名探偵コナンのパロディです。



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