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春が来てぼくら、しまなみへ行く 〜自走で向かうしまなみ海道〜 1日目 2023年3月5日


旅行前日


 さて、今年もこの時期がやってきた。
 3月、そう、大学の春休みである。

 この長期休暇となればそわそわしていきたくなるのが自転車旅行。そしてもちろんレースではなくロングライド。それこそがロードバイク乗りの性とも言える。

 しかし私事ではあるが大学の研究室の予定も入ってきており、なかなか以前のように1ヶ月という期間で旅行に行くことができない。それを考慮した上での行き先は…と考えていた矢先、サイクリング部の後輩から「ぜひ、今度のご旅行にご一緒させていただきたい」との声がかかった。彼らはロングライド初挑戦だ。基本的に部活外でも乗る人間ではあるのだろうが、それでも距離はたかがしれている。それに私すら行ったことのない場所へ連れ回すのもどうかということで、昨年の春旅と同様に「しまなみ海道」へと行くこととなった。それに今回は全行程を自走かつ後輩を1人連れながら向かうことと相なった。

↓以前の旅はこちら


 集まった面子は私を含め4名。私(蓮馬カヨタケ)、S田くん、T松くん、T尾くんである。その中でもS田くんはやる気のある後輩であり、「門司までご一緒したい」とのこと。今までの旅行は基本的にずっと一人旅で楽しみといえば、自転車の上でのカラオケ、変わりゆく風景、ご飯くらいのものであったが今回は嬉しいことに同行者が来てくれた。早速、楽しい旅になりそうな予感がした。
 今回旅に参加する後輩3名に関しては自転車旅行のじも知らないど素人であったため翌日以降に持っていく荷物の確認と輪行の確認を行なった。特にS田君は旅行初日に長崎ー門司間の250kmのロングライドをすることが確定しているため、事前に必要な荷物のみを持ってくるように忠告し、この日も自分が思っている以上に荷物が必要ではないということを嫌というほど教え込ませた。このことを本人が走り切って感謝するのは後のことであると思われるが、この日は少しだけ不服そうにしていた。
 残りの2名とは尾道で落ち合うことになり「では3日後に」と某海賊マンガばりの約束を誓い合い、その日は解散となった。そして我々2名は明日5時に長崎駅に集合することになり、私はワクワクし興奮冷めやらぬまま、あっさりと深い眠りへと落ちていった。


1日目–3月5日

 さて今日から本格的に走り出すことになる。時刻は朝5時。
 基本的にロード乗りの朝は早い。ゆるキャンΔの中でリンちゃんが朝早くから伊豆にキャンプをするために移動するという描写があるが、自転車もまさしく同じである。朝は早くから行動し、起きている時間は目一杯走ることに注力する。それがロングライドのコツというものだ。
 さて長崎駅に5時少し前に到着したわけなのだが、ちらほらと人がいた。これには少し驚いた。特に学生ぐらいの年齢の若者3人がはしゃぎ回っていた。彼らは一体何をしているのだろうか。
 以前、柞刈湯葉「SF作家の地球旅行記」のはじめにの部分で、なぜこの人はこの行動をとったのかを考える、というような表現があった。それがその本における著者自身の旅行の理由でもあり、私のとってはそれこそがSF作家としての創作の原動力でもある気がした。
 そんなこんなですることもなく暇だった私は創作のネタとしてはしゃぎ回っている3人を眺めることにした。きっと青春を謳歌しているの違いないだろうが、だいたいこういう場合彼らの内面の描写に注力しがちである。例えば彼らが短い青春を貴重なものだと理解しながらも何もすることがなく、打ち込むこともなく馬鹿騒ぎをして楽しむといった感じ。そうすることが定石だがそれだと面白くない。もし彼らに青春メーターというものがあり、メーターの上下によってお金が得られるとしたら…。うむ、何か1本書けそうだ。


流石に始発が動き出す前だったので人はちらほらとしか見られなかった。

 私が到着してしばらくしたのち、S田くんがやってきた。私が昨日貸し与えたサドルバックは順調に使えているようで、「少しブレるが問題ない」と語っていた。お互いに準備も気力も万端ということで早速、夜明け前に長崎を出発することにした。
 長崎市内を出て佐賀県に入るにあたりまずは日見峠を越え、東長崎そして諫早市へと入っていかなくてはならない。例にも漏れず、我々2人も山を越え、長崎市内からの脱出を図った。途中、私に大きな落車があり、ボトルケージを2つ失うというなかなかに大きな問題が発生した。それによって大きなボトルをバックポケットに入れる羽目になった。こんな場合ロードレースだとサポートカーを待つのが当たり前なのだが私の横を通り過ぎるのは私と縁もゆかりもない人が乗った車ばかり。幸いにもタイヤはパンクせず、ロードバイクにも傷はない。私にも怪我はない。本当に運が良かった。

さて気を取り直して長崎から佐賀へと向かっていくことにした。

 さて順調に進み、諫早市に入ったのは6時半ごろ。長崎市内を抜け諫早市周辺に入ると途端に道が広くなり綺麗になる。自転車乗りにとってものすごく走りやすい道である。そうこうしているとスタジアム前に到着。その交差点を左折し、諫早公園の横を通り過ぎて海沿いの道に向かっていく。

 下記2つの写真は諫早を脱出するにあたっての難関となる交差点周辺の写真である。この交差点を右折し車道ではなく沿道の道を通り線路の下をくぐる、というのがポイントである。この交差点を右折した先の道路は軽車両侵入禁止なので注意が必要である。

線路下の道には童話のイラストがある。これが目印! 

あとは道沿いに進むだけ。ここから佐賀まではひたすらにアップダウンを繰り返す道となる。

 そしてアップダウンの果てに見えてき出すのがこの小長井周辺のフルーツバス停である。これらが国道207号のだいたい5kmくらいに集中して配置されている。確か全部で15個くらいあったような気もするが、全てが違うフルーツというわけでもない。ゆずやメロン、スイカ、イチゴといったフルーツは最初の方こそ被ってはいないが段々と同じフルーツが出現し出す。そこでフルーツがダブり出した頃にこの先も一つずつ写真を撮るか、とS田君に聞いてみたところ、
「もういいです。先を急ぎましょう」
とのこと。
なんとも淡白である。

 そうして写真を撮らなくなりしばらく走っていると、太良町の文字が見え出してきた。ついに標識として見え出してきた長崎県と佐賀県の県境。太良町に入るとそこからは佐賀県。「SAGA、佐賀ッ」である。
 佐賀県といえば平坦のイメージがある。というかそれしかイメージがない。まだ佐賀県の北側は山がちなので楽しいのだが、南側は残念ながらドがつくほどの平坦である。元々、干潟だった土地がどんどんと埋まって形成された佐賀県。そのため内陸でも海抜が低く、佐賀平野に入ろうものなら獲得できる標高は0、そして一面の田んぼである。なんとも楽しくない道が続くのである。
 だがまだここは太良町。ここまではアップダウンが続く道となる。
「ここまでしか登りはないんだよね」
 と残念そうに私がいったのだが、S田君は、
「全くもって残念ではないです。早く平坦な道を走りたいです」
 とほざいていた。山がちな長崎県で一緒に走ってきた仲だというのに…。

 太良町といえば、カニである。ひたすらにカニ。どこを通っても、どこを見てもカニである。「太良ガニ」なるものが名産品があるらしいのだが時間の関係上1度として食したことはない。いつかは食べてみたいものである。

 佐賀といえば、「ゾンビランドサガ」。放送当時、ものすごく話題になった。というのも同時期(アニメ界隈ではクールという)「ヴィンランド・サガ」という作品のアニメ化もなされていた。前者は、死んだ人間をゾンビとして蘇らせて佐賀県でアイドル活動を行う、というこれだけ見ると意味不明な作品だった。後者はヴァイキング一族の少年の成長物語であった。正直なことを書くなら、明らかに前者が後者のタイトルをパクったとしか思えないのだが、物語は全くもって違うし、方向性も真逆である(前者はギャグ、後者はシリアス)。
 こんな説明で見る気になる人がいるのかはさておき、「ゾンビランドサガ」、とにかく面白い。物語の中でも地域活性化の目玉としてアイドル活動をしようということになっているのだが、その宣伝効果は十分にあったと言えるだろう。


 さて、いい加減にうざいくらいの主張をしてくる、かにゾーンを抜けるとひたすらに佐賀の平坦道。正直に言って書くこともない。
 とにかく見渡す限り、田んぼだらけ。
 市街地に入れば、そうでもないのかもしれないがとにかく田舎である(長崎県が言っていいのかは定かでない)。

 佐賀を高速でぶっ飛ばし、博多へ。途中、久留米付近を通るので、せっかくならラーメンでも、となるところをどうにか堪え昼過ぎには到着した。
 博多での用事はただ一つ。
 壊れた自転車関係のパーツを買い替える
 全くもって無駄な出費であった。

 博多を出て、我々一行は次なる目的地、北九州へ。とにかく今日中にそこについておかなければまずいということで、ひたすらに北上。ここからは写真でお送りするが、写真からもどんどんと日が暮れていくなか足を止め、休憩することもできない漢たちの姿が見て取れると思う。

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