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シャボン王子

 学校のチャイムが鳴った。

 「ちょっとタバコ吸いに行こうぜ」おおいこういこう〜。どかどかどか………。
 「…… ちぇっ。」
 俺はいま給料日前でタバコが吸えない身だっていうのに。ああ、タバコが吸いてぇ…。俺は大学の机に突っ伏した。次の四限の授業も三限と同じ教室だった。
 つんつん。  
「一本どう?」  
「!」だれだ!女神か!顔をあげるとそこには、シャボン玉のボトルと、シャボン玉を吹いてとばす棒を持った、ちいさい男の子が立っていた。


 「ちょっと、シャボン玉、飛ばしてこようぜ」
 そのちいさい男の子は俺の手をひっぱった。おもわず教室の外に一緒にでる。すぐに外まで続く階段を上っていく。俺はようやく我に返って、  
 「ねぇ!きみ、どこから迷い込んできた?あ、となりの保育園とかか?」
 「ちがうよぅ、ぼく、ここの学生だよ?」
 見えすいたウソをつくなぁ。
 「はぁ?きみ、いま何歳だよ〜」
 「ん、ごちゃい!」
 指を4本たてて。
……だめだこりゃ。

 大学の中庭にでた。階段を上りきった丁度先に喫煙所がある。
 「ああ、いいにおい……」たまらなく吸いたくなる。
 「ちょっと!どこいくの!こっちだよこっちー」 またもやこどもにひっぱられ、別の階段で上までのぼる。喫煙所が遠くなる………。
 「俺、シャボン玉とか、別に吹きたくないんだけどなぁ………」
 言ってみたけど、無視された。

 大学の屋上にでた。風がけっこう強い。
 「ほら、ここで吹こうぜ」
 こどもは指をさす。「吹玉所」と書かれた立て札がでていた。
 「はい!」
 俺の手にシャボン玉のセットをにぎらせた。久しぶりの感触。久しぶりのあの蛍光ピンクと緑色。そしてボトルが小さく感じる。
 「こうやってね、液をね、たっぷりつけてね……」 その子は一生懸命ボトルに棒を突っ込むをくり返していた。もう手がシャボン液でべとべとしている。しかたなく、つきあってやることにした。
 「すっちゃだめだよ!これ食べちゃだめなやつ、だからね」
 「わかってるって!」
 いくよ、せーのっ………ふぅ〜〜〜
 俺のほっぺたに集まった空気が、透明な膜にとじ込められて浮かんでいく。ちいさい男の子が空を見上げて言った。
 「タバコは、はぁ〜〜〜ってだすけど、シャボン玉はふぅ〜〜〜なんだよ。これが、シャボン玉のみりょくってやつさ!きみも、はまったでしょ?」
こどもは、またふぅ〜〜〜と吹いた。
透明な玉は、いつのまにか虹色になって、とんでいった。


©️2015Mari Seki


©️2023 Mari Seki

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