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落語家のパワハラ

落語家の三遊亭圓歌から暴言や暴行を何度も受けたとして、弟子の吉原馬雀(吉原朝馬門下に移籍)が賠償を求めた裁判。東京地方裁判所は「落語家としての活動に悪影響を与えるパワーハラスメントというほかない」と指摘して、圓歌に80万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
NHKの記事から引用すると

2010年からおととしまでの間、態度に腹を立ててどなられたり殴られたりするなどの暴言や暴行を受けたとして圓歌さんに賠償を求めました。

圓歌さん側は「落語という文化芸術を伝承する指導の一環だ」などとして争っていた。

26日の判決で「落語界の師弟関係は濃密な人間関係であると同時に師匠の優越的立場を背景とする歴然たる上下関係が存在し、パワーハラスメントが生じる可能性をはらんでいる」と指摘しました。

その上で、平手で頭をたたいたり、土下座させてどなったりした行為などについて不法行為にあたると認め「社会的に許される範囲を超えていて、落語家としての活動に悪影響を与えるパワーハラスメントというほかない。弟子である以上、逃げ場がなかった原告の精神的苦痛は見逃せない」と述べました。

一方「方法は適切でなかったが、立派なはなし家として大成することを望んで指導していたことは考慮すべきだ」などとして、300万円の請求に対し80万円の賠償を命じました。

これは大きい事。落語に限らず大相撲など江戸時代から連綿と続く世界は、師匠と弟子という閉鎖的な環境の中、指導と称して傍若無人な行いが罷り通ってきたところがある。芸人の思い出話とはいえ、かつても弟子に無理難題を強要することが多かったようだ。例を出すと

人家で植木を盗むことを強要
夜中に買い物を強要
俺を気分よくさせろと命じ気に入らないと暴言、暴行
女性の弟子に丸坊主
階段から突き落とす
噺の稽古をつけない、無視

思い出す限りに書いたが「すのこ板の上での正座を強要、土下座した際に頭を殴られる暴行」という今回の例がまだ生易しいとも思うほどだ。まだまだある。名人といわれる落語家にもこの手の話はある。

吉原馬雀は記者会見し「この裁判を通じて元師匠からの指導という名を借りた長年のハラスメントについて私の人格権の侵害が認められ、安どしています。そもそも弟子にも人権があり、それを無視した指導は誤っています。これからの業界には、落語家である前に一社会人という自覚が師匠にも弟子にも必要になると思います」と述べた。落語界でのハラスメントを防ぐ活動に力を入れるという。上方落語でも女性落語家がセクハラを受け提訴したが、この件はその後の進展が分からない。和解したのだろうか。

この裁判は上下関係が絶対の世界で下の人間が意見を述べることが許されないこれまでの風潮に一石を投じたともいえる。急な廃業もチラホラあるがやはりこのような事情で涙を呑んで去っていった落語家もいたのだろう。

ただ「方法は適切でなかったが、立派なはなし家として大成することを望んで指導していたことは考慮」と暴行暴言に含みを残した部分もある。更に圓歌が報道によって社会的制裁を受けたとして賠償額も大幅に減額された。今後どの程度影響するのか気になるところではある。

落語家の意見をX等々で見ると、売れる売れないが全てという考えも根強く、今回の訴訟も芸人としての伸び悩みから起こしたという声もある。香盤のみで実力番付のような絶対的な基準がない以上こういった考えに左右されるのもやむを得ないのか。

三遊亭圓歌は2022年に理事を辞任しており、事実上この訴訟で退任となった形。しかし寄席や落語会の出番はさほど減っていないようだ。この点制裁になっているのか疑問である。ともかく圓歌という名前に泥を塗ってしまった。二代目は副会長も務め呼び出し電話など新作で名を売った、三代目は授業中、山のアナといったネタでテレビ黎明期から長く活躍し、人望も厚く会長も務めた。そしてこの四代目である。先代が亡くなって2年での襲名も早く感じたが、知名度の薄さか今回も一部新聞社では先代の写真を出してしまったところがある。何ともお粗末。

馬雀氏の会見によると現役の理事にもハラスメントを働く人物がいるという。それも元師匠以上と言うほどの内容とのこと。業界内では有名で理事はじめ多くの会員が認識もしているが改善されない状態のようだ。

これは何かと似ている相撲界も同じで、各部屋ごとに指導方針が異なるため、過去相撲部屋が不祥事で処分された際も師匠や担当理事の責任に留まり、相撲界全体としての意識の改善にはなかなかつながらない。同じ伝統芸能の分野であるため閉鎖的なものは共通している。

ひとまず門下を移り圓歌とは関係が離れている。明るい未来を祈るしかない。


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